■「緩徐楽章」を音楽的に仕上げる最重要項目
「重心(Schwerpunkt)」とは?
あらゆる分野で使用される言葉ですが、
音楽においては、
ごく簡潔な言い方をすると
「重みの入る位置」
と思っておけば大丈夫です。
「重心(Schwerpunkt)」を実際の楽曲でみてみよう
必ずしも緩徐楽章に限った話ではないのですが、
特に緩徐楽章では
「重心(Schwerpunkt)」に向けたダイナミクスを表現しないと
音楽が平坦になってしまいます。
テンポのゆるやかさから一音あたりの滞在時間が長い傾向にあり、
勢いでごまかすことができないからです。
まずは次の譜例を見てください。
モーツァルト「ディヴェルティメント K.136 より第2楽章」
この作品は室内楽作品ですが、
ピアノ曲でも基本的な考え方は同様です。
非常に有名な楽曲ですので教材に取り上げました。
この譜例の中には「重心(Schwerpunkt)」は2箇所あります。
どことどこにあるかわかりますか?
正解は次の譜例を見てください。
下向き矢印で示した2箇所です。
この2つの重心があることで、「3拍子」であるということが聴衆に伝わります。
加えて、原曲にはない「ダイナミクスの松葉」を書き込みました。
2つ目の重心に向けてふくらませて、それをおさめます。
(2小節目の頭ではバス音の音域も下がり、
音の配置としてもそのようなエネルギーが表現されていますね。)
このようなニュアンスをつけることで
「2小節単位でできている音楽構造」がわかり、
「音楽の方向性」も明確になります。
つまり、
重心を見つけて、こういったダイナミクスの松葉をつけることが重要。
「そんなダイナミクスの松葉は原曲の楽譜に書かれていない」
などと思わないでください。
譜面というのはある程度の「利便性」を求める一面もあり、
「煩雑さ」を避けるために、
フレーズなどの関係で理解できる内容はあえて書かれないことも多いのです。
もし、楽譜に書かれていないからといって
メロディの起伏をまったく平坦に演奏したり
フレーズ終わりでもおさめないで演奏したりすると
相当殺伐とした演奏になります。
そんな演奏をするピアニストは一人もいません。
また、上記の譜例では出てきていませんが、
緩徐楽章などに出てくる sf は「強く」と考えると唐突な音になりますから、
「深い打鍵で重みを入れる」
という意識で演奏するとうまくいくケースが多いです。
「重心(Schwerpunkt)」の見抜き方
見抜くポイントは「楽式を学ぶこと」ですが、
もっと手軽にできるのは
「ピアノを使わずに自分の口でメロディを歌ってみる」という方法。
口で歌うと音楽的に歌えるのに、
ピアノに向かった途端に一本調子になってしまう例は意外と多い。
そこで、
口で歌ってみて発見した音楽的要素をふまえた上で
ピアノに向かってみるのが得策です。
また、先ほどの譜例なども参考に
実例に多く触れていくのもいいでしょう。
「重心(Schwerpunkt)」を学ぶための具体的書籍
《「新版 楽式論」石桁真礼生 著 音楽之友社》は
非常にわかりやすく
「重心(Schwerpunkt)」について学べる書籍です。
それでも重心について書かれているページ数は限られています。
つい読み飛ばしてしまいがちですが、
この数ページの間に宝が隠されているとも言えるでしょう。
今回は、「緩徐楽章」を音楽的に仕上げる最重要項目をお伝えしました。
最後にポイントをまとめます。
◉ 緩徐楽章を音楽的に仕上げるために「重心(Schwerpunkt)」を見つけよう
◉ 重心に合わせて「ダイナミクスの松葉」をつけることが重要
◉ 楽譜にはフレーズなどの関係で理解できる内容はあえて書かれないことも多い
◉ ピアノを使わずに自分の口でメロディを歌ってみると重心を見つけることができる
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