【ピアノ】ハイドン、モーツァルトにおけるダイナミクスの解釈方法

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情報量が少ないことで知られる、
ハイドンやモーツァルトのダイナミクス指示。
本記事では、
「斎藤秀雄 講義録(白水社)」の抜粋も紹介しながら
その解釈方法をていねいに解説しています。

 

ハイドンやモーツァルトの

ピアノソナタなどの楽譜を開いてみてください。

「ダイナミクス記号」があまり書かれていませんよね。

少なくとも、

ベートーヴェン以降の楽曲などでみられる

細かなダイナミクス指示はありません。

【補足】
いくつかの出版社が出している「校訂版(解釈版)」では
校訂者によるダイナミクス記号が書かれています。
ただ、これはハイドンやモーツァルトのオリジナルではありません。

 

よく、「楽譜に忠実に」と言われますが、

ハイドンやモーツァルトのダイナミクスを

ほんとうの意味で「楽譜に忠実に」演奏してしまうと、

相当殺伐とした演奏になります。

情報量が少ないからです。

つまり、

「ある程度、奏者側に任されている」ということです。

解釈例を見ていきましょう。

 

具体例を挙げます。

楽曲が変わっても基本的な考え方は応用できます。

 

モーツァルト「ヴァイオリンソナタ第26番 K.378 第1楽章」

譜例(PD作品、Finaleで作成、1-4小節)

ピアノパートの左手を見てみましょう。

多くの版では

バス音に 、伴奏部分に p が書かれています。

 

ここではロマン派の作品を弾くような感覚で

fp のダイナミクスを考えてはいけません。

あいだに mp mf まであるような感覚で f の音を出してしまうと

明らかにバス音のみが突出してしまいます。

そもそも、メロディが p なので隠蔽してしまいますよね。

 

それではそうすればいいのかというと、

f では、深い音を出す程度」

と考えてください。

 

どうしてこのような結論になるのかについて、

「斎藤秀雄 講義録(白水社)」より、

ヒントになる箇所を少し抜粋させていただき紹介します。

斎藤秀雄氏は、

言わずと知れた著名な音楽教育者。

書籍「指揮法教程」「小澤征爾さんの育て親」として知られています。

 

「斎藤秀雄 講義録(白水社)」 序論より抜粋 中略あり

太字イタリックが抜粋部分。

クレッシェンド、ディミヌエンドというのは
マンハイム学派 — これはハイドンよりちょっと前ぐらい —
が作り出した記号なもんで
ハイドン、モーツァルトの時代には
ヨーロッパに完全に行き渡っていなかったんです。
だからモーツァルトの譜面をごらんになると分かるけれど、
mf という字がないわけではない。
だけど非常に少ないんです。
クレッシェンドも非常に少ないのは、
こういうところには書いておいたら便利じゃないかというところに
ちょっと書いただけだからなんです。
( f や p を見たときに)そこで急に大きくなったり小さくなったりするわけではないんです。
モーツァルトには pp はないんです。p はひとつしかない。

 

先ほども書きましたが、

当時のダイナミクスの書き込みというのは

ベートーヴェン以降のように細密なものではなかったということが

この文章を読んでもわかりますよね。

演奏者によって解釈の幅が出てくるのもとうぜんです。

 

その解釈のひとつとして

同書籍では

以下のような方法が示されています。

太字イタリックが抜粋部分。

僕はある時ハイドンの曲で、どうしても分からなくなって、
それで自分の頭を切り替えて f はクレッシェンドに、
p はデクレッシェンドに全部楽譜を書き直したんです。
そうするとそこに全然違うものが出てくるわけです。
人間らしい音楽が出てくる。
もちろん一番強いところには f って書きますけどね。

 

これまでの抜粋を踏まえて、いったん譜例へ戻りましょう。

 

(再掲)

ここでは、斎藤秀雄氏の解釈案のように

f をクレッシェンドへ書き直すわけにはいきませんから、

最初に紹介したほうの抜粋を参考にすると

f では、深い音を出す程度」

という結論になるのです。

 

ハイドンやモーツァルトのダイナミクスで

唐突に f p が出てくることは日常茶飯事。

出てきたときには

以下のA〜Cの解釈のどれが使えそうなのかを考えてみましょう。

とうぜん、

おおむねのダイナミクス基準値を

曲想や表現したい内容を元に想像しておくことが必要。

また、

crescendo mezzo という文字が ”ときどき” 書かれているので

それは調べておく必要があります。

A. f をクレッシェンドに、p をデクレッシェンドに書き直すとうまくいくかを調べる
B. 唐突かつ瞬間的な は「重みを入れる程度に強調するためのサイン」と考えてみる
C. AやBでない場合、ダイナミクスをsubitoで表現するのか、”直前に” 松葉を補うのかを決定する

 

ここまでを考慮すれば、

ハイドンやモーツァルトの大抵のダイナミクスは

演奏方法が決定するはずです。

 

本記事で抜粋紹介した書籍は

ピアノに特化して書かれた本ではありませんが、

ピアノ演奏にもとても役立つ書籍ですので、

手元に一冊おいておくと非常にためになるでしょう。

音楽をここまでわかりやすい言葉で説明してくれている書籍は

なかなかありません。

 

◉ 斎藤秀雄 講義録(白水社)

 

 

 

 

 

モーツァルトのダイナミクスについて

さらに本格的に学びたいのであれば、

以下の書籍を参考にしてください。

 

◉ 新版 モーツァルト 演奏法と解釈 著 : エファ&パウル・バドゥーラ=スコダ 訳 : 堀朋平、西田紘子 監訳 : 今井顕 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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