【ピアノ】ショパン「エチュード Op.10-1」練習ポイント 3点
► はじめに
ショパンの「エチュード Op.10-1」は、中〜上級者にとって避けて通れない作品の一つです。この作品に挑戦したい、または、現在していてもなかなか上達を実感できない方に向けて、効果的な練習法を解説します。
► なぜこの曲は難しいのか
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
‣ 主な技術的課題
ショパンの全27曲のエチュードの中でも、Op.10-1は演奏困難な作品の一つとして知られています。その理由は以下の技術的要素にあります:
広域アルペジオ:一度ミスすると修正の効きにくい、鍵盤の広い範囲にわたる素早いアルペジオの連続
右手の大きな開き:常にオクターブを超える右手の拡張を要求される
左右の独立性:左手の繊細なメロディックな動きと右手の技巧的パッセージの同時進行
これらの技術的要素が組み合わさることで、「速く弾く」だけでは解決できない複合的な困難さが生まれます。
‣ 推奨教材について
具体的な練習方法については、「コルトー版 ショパン 12のエチュード Op.10(全音楽譜出版社)」に詳しく書かれているので、本記事では以下の観点から解説します:
・コルトー版で練習を始めるまでに、何をやっておけばいいか
・練習を始めてから、どういったことに気をつければいいか
・コルトー版 ショパン 12のエチュード Op.10(全音楽譜出版社)
► 3つの核心練習ポイント
‣ 1. 左手の完璧な暗譜を最優先に
最初に取り組むべきは、左手の完全な暗譜です。
左手だけで演奏しても音楽として成立するレベルまで仕上げておきましょう。左手が平坦な演奏では、この作品の真の美しさは表現できません。また、左手が安定することで右手の複雑な技術に集中できるようになり、結果として体感難易度が大きく下がります。
当面の課題:
・左手のみで反復練習:まず、左手だけで美しい音楽を作る
・暗譜の徹底:楽譜を見ずに自然に演奏できるレベルまで習得
‣ 2. ゆっくり練習における「手首の動き」への注意
多くの学習者が陥る落とし穴は、ゆっくり練習時の不適切な動作です。
よくある問題点:
・手首を必要以上に回転させる
・腕や肘をあまりにも大きく動かす
・テンポアップ時には実用できない動作で練習する
推奨アプローチ
「テンポが上がった時の動作を想定して、その動作でゆっくり練習する」
これは一見矛盾するように感じるかもしれませんが、最終的な演奏テンポで使用する動作になるべく近い動作を最初から身につけることが重要です。大げさな動作でのゆっくり練習は、実際には「テンポが遅い時にのみ有効」であり、本質的な上達にはつながりません。
実践的な学習方法:
・YouTubeの低速再生機能を活用してプロの手の動きを観察
・必要最小限の動作で正確性を追求
‣ 3. 2小節単位での徹底的な仕上げ
この楽曲は原則として「2小節単位」で構成されているため、この単位で完璧に仕上げてから次に進むことが効果的です。
【「ピカピカ」になるまで先へ行かない練習法】
「ゆっくり間違えずに弾けた」では不十分です。以下の基準をクリアしてから次の2小節に進みましょう:
・音楽的表現:美しく歌えている
・技術的安定性:ミスタッチが皆無
・テンポ対応:目標テンポで演奏可能
音楽には流れがあるので、2小節単位で練習する時は、その次の小節の頭の音まで弾くのが重要です。
【上達しない原因と対策】
問題:「できていないのに先へ進む」習慣
結果:定着せず、悪い癖が身につく
解決策:
・区切った練習ポイントを徹底的に仕上げる
・「丁寧な練習」とは「ラクしたスローテンポの通し練習」ではなく「集中的な部分練習」だと腑に落とす
・各セクションを確実に習得してから結合する
2小節単位では完璧でも、つなげるとうまくいかないケースは出てきます。その場合は、4小節単位などの「少しだけ長い単位に区切った練習」を織り交ぜながら練習バランスを取っていきましょう。結局、区切る練習を徹底することがポイントです。
もちろん、「今できていても、後で戻ってくるとまたできなくなっている」というのは避けられませんが、だからといって雑な練習をしていると良くないクセがつくだけです。繰り返して練習していき、その後戻りを減らしていきましょう。
► 終わりに
本記事で紹介した3つのポイントを意識するだけで、練習の質は大幅に向上します:
・左手の完璧な暗譜で、全体の安定性を確保
・大袈裟な動作を排除した、効率的な技術習得
・短い単位の徹底した仕上げによる、確実な定着
コルトー版の具体的な練習方法と組み合わせることで、さらに効果的な学習が可能になります。
・コルトー版 ショパン 12のエチュード Op.10(全音楽譜出版社)
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