【ピアノ】無調音楽入門:シェーンベルク「6つの小品 Op.19(1911)」
► はじめに
「無調音楽」と聞くと、少し身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、無調作品でもシンプルで取り組みやすいものがあります。それらに触れることで、調性音楽とは異なる魅力に気づき、音楽の幅が広がることを実感できるでしょう。
無理なく取り組めるシンプルなピアノ曲、「6つの小品 Op.19(1911)」を紹介しますので、ピアノライフに新たな1曲を追加してください。
►「6つの小品 Op.19(1911)」の特徴と価値
‣ なぜ、この作品から始めるべきか
・全曲が極めてコンパクト(最長でも17小節)
・技術的な難易度が比較的低い(ブルグミュラー後半程度から挑戦可)
・1曲ごとに異なる音楽的特徴を体験できる
・20世紀音楽の重要な転換点を体感できる
1911年といえば:
・ラフマニノフが「絵画的練習曲(音の絵)」
・ラヴェルが「高雅で感傷的なワルツ」
などの美しい旋律を持つ作品を書いていた頃なので、シェーンベルクは当時としては随分時代を先取りしていたことになります。
「6つの小品 op.19」は、その名の通り、全6曲からなっている小品集。
無調音楽入門に最適の理由は、1曲1曲があまりにも短いからです。
・最も小節数が多い第1曲でも、17小節
・最も小節数が少ない第2曲、第3曲、第6曲にいたっては、たった9小節
「曲尺」「難易度」の両方の面で、非常に練習しやすい作品となっています。無調に入門する学習者にとって最適の作品と言えるでしょう。同時に、シェーンベルクというイチ作曲家のピアノ曲入門にも最適。
もちろん音楽的には深さがあり、そういった意味で簡単な作品とは言えません。言い換えれば、シンプルながらも、ずっと使えるレパートリーになるということです。
‣ おすすめの取り組む順番
・全6曲のうち、第1曲が一番長い作品(17小節、演奏時間約1分半)
・音楽的には第1曲と第6曲が特に深い内容
これらを考慮すると、もし全曲に取り組む場合は、以下の順序で練習するのがいいでしょう。
第2曲 → 第3曲 → 第4曲 → 第5曲 → 第6曲 → 第1曲
第2曲から取り組むべき理由は、中でも特にシンプルな曲で無調音楽に慣れることができるからです。また、第1曲と第6曲は特に音楽的に深い内容を持っているため、最後に取り組むとより理解が深まるでしょう。
もちろん、全音ピアノピースの難易度表でいう「C」程度の作品を問題なくバリバリ弾ける方は、第1曲から順番に取り組んでも問題ありません。
► 楽譜選びのポイント
‣ Universal Editionの特徴
・初版出版社による信頼性の高い楽譜
・演奏家たちの信頼を得ている標準的な版
・シェーンベルクのピアノ作品全集として他の作品も収録
楽譜は「Universal Edition(ユニヴァーサル・エディション)」を使用しましょう。初版もこの出版社ですし、Op.19に取り組む専門家は基本的にこの楽譜を使います。
ユニヴァーサル・エディションは、シェーンベルクのオリジナルの楽譜を忠実に再現しており、広く信頼されている出版社です。これを使用することで、作曲家の意図に忠実な演奏が可能になります。
・シェーンベルク : ピアノ作品選集/ウニヴァザール社
シェーンベルクはピアノソロ作品を「全5作品」作曲したのですが、この楽譜集にはそれらの全てが収録されています。
シェーンベルクおよび、その弟子の「ベルク」「ウェーベルン」をあわせて「新ウィーン楽派」と呼びますが、ベルクとウェーベルンはユニヴァーサル・エディションでアルバイトをしていたのです。とても近しい出版社だということ。
今後、シェーンベルクも含め新ウィーン楽派の作品に取り組む際、ユニヴァーサル・エディションが手に入る場合は迷わず選んでいいでしょう。
► この作品が支持される理由
‣ 教育的価値
・無調音楽の基本的な要素を凝縮して学べる
・短い曲で効率的に学習できる
・技術的なハードルが低い
・無調音楽およびシェーンベルクの導入として最適
‣ アーティスティックな価値
・20世紀を代表する作曲家の重要作品
・各曲が独自の音楽世界を持つ
・演奏解釈の可能性が豊か
・コンサートプログラムでもしばしば取り上げられる作品
‣ 実用的な価値
・レッスンや演奏会で使いやすい長さ
・無調音楽のレパートリーとして重宝
・無調音楽の中において、比較的聴衆にも受け入れやすい
・生涯のレパートリーとなる作品
► 応用的視点
‣ レパートリー拡大のヒント
ゆくゆくは、以下の作品群にも視野を広げてみましょう:
・シェーンベルクの他のピアノ作品
・新ウィーン楽派の作品群
・20世紀初頭の重要なピアノ作品
‣ なぜ、こんなにも曲尺が短いのか
シェーンベルクは、なぜ、こんなにも短い作品を書いたのでしょうか。
実は、短過ぎる作品はこれだけではないのです。シェーンベルクが近い年代に書いたいくつかの作品に加えて、弟子のウェーベルンも1909年から驚くほど短い作品を作曲しています。
様々な理由が考えられますが、「無調音楽の黎明期で、音楽思想や音楽語法を試行錯誤していた時期だったから」というのが大きな理由の一つとしてあるでしょう。
シェーンベルクはウェーベルンの短い作品に対して、「一つのため息で一巻の小説を書いた」などというコメントを残しています。このOp.19にも通ずるところがありますね。
► 終わりに
無調音楽という新しい領域に足を踏み入れることで、音楽の表現が一層豊かになります。「6つの小品 Op.19」はその入り口として最適な作品なので、ぜひレパートリーに加えてみてください。
シェーンベルクの音楽に触れることで、今まで知らなかった音楽の深層を感じ取ることができるでしょう。
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