ソナチネなどの作品で知られる
クレメンティという作曲家がいます。
彼は生徒にピアノを教えるとき
手の甲にコインを乗せて弾かせて
それが落っこちると注意したそう。
現代でもときどき耳にするやり方ですが、
正直私はこの練習方法を
良い方法だとは思っていません。
一時的に手の動きを制限するための練習としては
取り入れて絶対ダメとは言いませんし、
まだ何も分からない入門者に
とりあえずフォームを理解してもらうための指導としては
一応アリかもしれませんが、
その先に果実はありません。
この練習方法で身につけた奏法では
すべての音を指先のみで弾くことになってしまう。
指先のみで弾くパッセージはもちろんありますが、
ピアノ演奏においては
その他さまざまな手の使い方が求められます。
なぜかというと、
音色を作り出す必要があるから。
音色の多彩さにとっては
「打鍵角度」をはじめ
タッチの変化でコントロールする部分が重要であるのに、
手の甲を固定したまま
指先のみでしか弾けなかったら
ほぼ同じような角度でしか打鍵できない。
それだと、
結局「音が大きいか小さいか」だけで
音楽をコントロールすることになってしまう。
事実、クレメンティ自身が
指だけで弾く奏法をとっていたようです。
ベートーヴェンは弟子のツェルニーに対して
以下のように語ったという記録が残っています。
聴衆は
真珠のみではなく
他の宝石が欲しくなることもあるものです。
もちろんベートーヴェンとツェルニーは
「手の甲にコインを乗せて弾く練習」
の話をしていたわけではありません。
しかし、
あえてこのコメントを出したのは
コイン練習ばかりをした結果として
指先の同じような動きでのみ演奏するクセがついてしまうと
真珠の響きしか手に入れられないということを
伝えたかったからです。
この奏法をとっていては
音色が多彩になることはありません。
という記事でも書きましたが、
音楽から切り離した音楽性を四畳半にする練習は
やめてしまいましょう。
【ピアノ】「弱音」の中でも音色を使い分ける
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