【ピアノ】はじめての「平均律クラヴィーア曲集」:フーガの学習法

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【ピアノ】はじめての「平均律クラヴィーア曲集」:フーガの学習法

► はじめに

 

J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」は、音楽史における金字塔ともいえる作品であり、その中でも特にフーガは高度な対位法と深い音楽的思索が凝縮されています。その複雑さから、多くの学習者が一度は壁にぶつかることも少なくありません。

このガイドでは、フーガに特化した学習方法を提案します。最初から全てを完璧に弾こうとするのではなく、一つずつ段階を踏みながら進めることで、確実に理解を深め、無理なく演奏できるようになることを目指します。

 

► 学習ステップ 

‣ ステップ0.5:前提として

 

「2声のインヴェンション」から「3声のインヴェンション(シンフォニア)」へ上がった時に、随分難易度が上がったと感じる学習者は多いようです。

2声であれば、基本的に2本の手で1声ずつ分担しますが、3声では更にもう1声を処理しなければいけません。当然、技術的な難易度は上がりますしバランスをとるのも難しくなるわけです。

 

そして、平均律クラヴィーア曲集のフーガでは、内容がさらに進化&深化します。

2声のフーガも1曲ありますが、基本的には「3声以上」、楽曲によっては「5声」をたった “2本の手” で演奏することになります。真正面からぶつかっていくと、挫折してしまう可能性が高いのです。

 

まずは以下の記事を参考に、比較的取り組みやすいフーガを選曲することから始めてください。

【ピアノ】J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集「入門最適曲」と「楽譜の選び方」

 

‣ ステップ1:1声部1段へ解体する

 

強調したいのは:

・真正面からぶつからない
・焦らない

ということです。

このレベルの楽曲まで到達したからには、弾けるようになることを急いでも意味がありません。しっかりと楽曲を理解しながら丁寧に学習して、一生のレパートリーにしてください。

 

そこでまず最初のステップとしておすすめするのが、多声音楽だからこそ「解体すること」

3声のフーガであれば、3段譜に1段1声で書き出してみるやり方で、フーガを解体してみましょう。

J.S.バッハのフーガは書法がかなり徹底しているので、多声音楽に慣れていなくても原曲の「旗の向き」などを参考に解体していけば、ほぼ迷わずに声部を取り出すことができます。

 

筆者がソフトウェアで作成した空の3段譜を提供します。

PDFで手に入れたい方は、以下のURLよりダウンロードしてください。

3段譜

4声以上のフーガに取り組む場合は、自身で空の五線紙を作成してみましょう。

 

もちろん、3段譜を使って弾くわけではありません。以下のような利点があります:

・書き出す過程、そして、それを眺めることで、各声部が何やっているのかを理解できて学びになる
・いずれ分析本で詳細の構造を勉強する時に、書き込みをする土台の楽譜にできる

 

この解体学習を、「原曲の2段楽譜を使った、3色カラー分け」で代用することもできますが、まずは書き出してみることをおすすめします。

2段譜で眺めていても気づかなかった楽曲の成り立ちに気づける、魔法のような学習方法と言えるでしょう。

 

【補足】
作曲家も「写譜」という作業を有益な学習方法として重視しています。
今回のような解体であったり、オーケストラを4段譜くらいに要約したり。
巨匠でもやっている、楽曲を理解するための有益な学習方法です。

 

‣ ステップ2:特定の声部だけに注目して音源を聴く

 

ステップ1で書き出した3段譜を使って、音源を聴いていきます。以下の手順で行いましょう:

1. まず、ソプラノの段のみを目で追いながら、ソプラノのみを聴き取るつもりで聴く
2. 次に、バスの段のみを目で追いながら、バスのみを聴き取るつもりで聴く
3. 残りの1声のみを目で追いながら、その声部のみを聴き取るつもりで聴く
4. 全体を見ながら、通常の感覚で聴く

この4パターンを、最低でも3周しましょう。それでも数十分しかかかりません。

 

「外声」から順番に聴くようにしているのは、ポリフォニックなフーガとは言えどもその方が骨格を理解しやすいからです。

 

ここまでを丁寧にこなしていれば、もう、楽曲のことが割と見えてきているはずです。

対位法の理論的なことは現段階では気にしなくてOK。

・「ここではテーマが出てきているな」
・「ここでのソプラノは主役ではなさそうだな」

などと、可能な範囲での理解で構いません。各声部がどんな動きをしているのかを理解できているだけで、大きなステップを踏んだことになります。

 

‣ ステップ3:全ての音に「運指」を書く

 

ここからは基本的に「原曲の2段譜」を使っていきますが、何かある度に3段譜を参考書のように引っ張り出しましょう。

 

ステップ3では「運指」を決めていきます。

3声以上の多声音楽では「運指を決めないと弾き始めようがない」と言ってもいい程、運指は重要です。「両手で受け渡しながら弾いていく声部」があるからです。

 

まず、全ての音に運指を書いてください。直しながらで構わないので、「概ねこれで行く」という段階まで固めてください。

それができると、この後の学習の効率がグンと上がります。

 

「運指」「装飾音の入れ方」などのテクニック的な側面が強い要素は、「弾く度にやり方が変わってしまわないように、しっかりと決めておくこと」が重要。そうしないと練習が積み重なっていきません。

 

‣ ステップ4:1声ずつ、”実際の運指” を使ってさらっていく

 

ステップ2までで「音楽の骨格」を理解し、ステップ3で「運指」を決めました。ここまできたら、準備は整いました。どんどん弾いていきましょう。

両手でゆっくりとさらうだけでなく、「1声ずつ、”実際の運指” を使ってさらっていく」という方法を取り入れてみてください。

 

注意点としては、ステップ3で決めた運指、つまり、「全声部をあわせて弾くときの運指」を守ってさらう、ということです。

 

「ただ単に1声を拾って、適当な運指で音を出した」というやり方ではあまり意味がありません。

1声のみを弾く場合であっても合わせて弾く時の運指を守ることで、本当の意味での「パート練習」になり、練習を積み重ねていくことができます。

 

・この練習で各声部毎にピカピカにしていく
・3声部全体のバランスを取るために「全てを合わせる練習」も混ぜていく

これらを何度も回していきましょう。

 

‣ ステップ5:余裕があれば「分析本」を手に取る

 

このステップは「余裕があれば」で構いません。

さらに理解を深めたいのであれば、分析本で学ぶといいでしょう。

 

解釈版の楽譜では:

・どこでペダルを使い
・どんなアーティキュレーションで
・どんな運指で

という、演奏に直結する情報が手に入ります。

 

一方「分析本」では、実用的な部分はもちろん、必ずしも演奏に直結しない部分も含めて「楽曲自体を深く理解する内容」となっています。

 

バッハ研究の第一人者「ヘルマン・ケラー」の書籍もいいですが、よりとっつきやすい分析本として以下の定番書籍があります。

 

【第1巻の分析本】

・バッハ 平均律クラヴィーア I : 解釈と演奏法 2012年部分改訂(著 市田 儀一郎 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

【第2巻の分析本】

・バッハ 平均律クラヴィーアⅡ: 解釈と演奏法(著 市田 儀一郎 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

これらの書籍では、「構造面での綿密な分析」はもちろん、「演奏面からのアプローチ」も含まれているので実用的。手元に置いておくことで、曲集の他の作品に挑戦する時にもずっと使い続けられます。

 

これらの書籍を読みながら、「ステップ1で作成した3段譜」へ書き込んでいくのも効果的。3段譜が更に良い参考書へ生まれ変わります。

「3段に分解されたものを見渡せて、分析なども書き込まれている」

このような参考書的な楽譜を作ってみてください。

 

‣ 最終ステップ:前のステップへ戻る

 

最終ステップ。

「ステップは、通り過ぎたら終わりではない」という考え方を理解することです。

 

ここから後は、とにかく弾き込んで本番へ向かっていくだけのように思うかもしれません。

しかし、学習が進んできてから前のステップへ戻ると当時気づかなかった発見があるものです。

・ステップ1やステップ2へ戻って、3段譜を見渡したり、1声部集中で音源を聴いたりする
・ステップ3へ戻って、運指が何となくしっくりこないところを再検討する
・ステップ4へ戻って、1声部ずつ丁寧にさらい直す
・ステップ5へ戻って、理解したつもりになっていた構造を再度深く学び直す

必要に応じてこういったことを回しながらコツコツと積み重ねていきましょう。

 

► 終わりに

 

以上が平均律クラヴィーア曲集のフーガを学ぶためのステップです。文章で読むと手順も多めで難しそうに感じたかもしれませんが、やっていること自体はシンプルです。

「2声のインヴェンション」がきちんと弾ける程度の力があれば、誰にでも実行できるでしょう。

 

とにかく、はじめての平均律クラヴィーア曲集で何の準備も無しに真正面からぶつかっていかないでください。その代わりに本記事のやり方で一歩一歩ステップを踏んでいけば、着実に音楽的な成長を感じられるはずです。

 

参考記事:

【ピアノ】J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集「入門最適曲」と「楽譜の選び方」(選曲)
【ピアノ】フーガの譜読み:効率的なアプローチと実践的なコツ(応用的なアプローチ)
【ピアノ】運指の決め方 大全:43の技術と戦略(ステップ3でつまづいたら)
【ピアノ】J.S.バッハ演奏の必携書3冊:ヘルマン・ケラーの著作を徹底解説(主要な参考文献)

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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