【ピアノ】デートレフ・クラウス「ブラームスのピアノ音楽 演奏と解釈」レビュー

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【ピアノ】デートレフ・クラウス「ブラームスのピアノ音楽 演奏と解釈」レビュー

► はじめに

 

ブラームスのピアノ曲を練習していると、ふとした瞬間に「この音楽はいったい何を語ろうとしているのだろう」と立ち止まることがあります。楽譜の指示に従いながらも、どこか手がかりが足りないような感覚——そんなときに出会ったのが、この一冊でした。

著者のデートレフ・クラウス(Detlef Kraus、1919-2008)は、ブラームスの生まれ故郷ハンブルクで育ち、長年にわたってブラームスを弾き続けてきたピアニストです。本書はその経験をもとに、演奏者の目線からブラームスのピアノ音楽を読み解いたもので、学術的な分析書ではなく、実際に鍵盤に向かう人間の言葉で書かれているところに、大きな魅力があります。

 

・出版社:音楽之友社
・初版:1989年
・ページ数:115ページ
・対象レベル:中級~上級者

 

ブラームスのピアノ音楽 演奏と解釈 ムジカノーヴァ叢書 14 著:デートレフ・クラウス 訳:岡美智子 / 音楽之友社

 

► 内容について

‣ 書籍の概要

 

本書は、ブラームスのピアノ音楽をピアニストの視点から読み解いた一冊です。訳者あとがきにもあるとおり、「厳密な作品分析の書ではない」というスタンスで書かれています。

ソロのピアノ曲だけでなく、室内楽、協奏曲、声楽作品におけるピアノ、さらには2台・4手のための作品まで幅広く取り上げており、ブラームスのピアノ音楽の全体像を見渡すのに適した一冊と言えるでしょう。

ブラームスがピアノに関係する全79曲のうち64曲を他の楽器や声との組み合わせで書いていたという事実を踏まえると、このような包括的な視点が不可欠であることがよく分かります。

(以下、引用)
「ピアノを演奏するものにとって、ブラームスのピアノ音楽はさまざまな解釈で演奏され、豊かで多様な形をもつ巨匠の作品全体の中で理解されねばならない。」(著者)
(引用終わり)

 

‣ 内容の特徴

 

各章では、作品の機械的な分析に留まらず、作品にまつわる出版事情、作曲当時の人生上の位置づけ、他の作曲家の作品との関連性、楽器の進化にともなう作風の変化など、多角的な視点から考察が展開されます。また、ブラームス自身の手紙を引用しながら、テンポに対する考え方などといったテーマにも踏み込んでいます。

巻末の「あとがきにかえて:ブラームス演奏家、ヴィルヘルム・ケンプの想い出」では、著者がケンプと交流する中で直接受け取ったエピソードが綴られており、ブラームス演奏の本質に迫る読み物として特に印象的に感じました。なお、本書はケンプに捧げられています。

 

‣「目次」と「読み方のヒント」

 

・まえがき
・第1章 概観
・第2章 Op.2 のソナタの〈ブラームスらしさ〉とは?
・第3章 Op.5 のアンダンテ──解釈の試み
・第4章 バラード Op.10-3《インテルメッツォ》
・第5章 インテルメッツォへの道
・第6章 変ホ短調から変ホ短調へ:スケルツォ、カプリッチョ、ラプソディ
・第7章 変奏曲 Op.9, 21, 23, 24
・第8章 《パガニーニ変奏曲》Op.35 は特別か?
・第9章 2台のピアノのためと4手のピアノのための作品
・第10章 ピアノ協奏曲──その比較
・第11章 室内楽におけるピアノ
・第12章 声楽作品との結びつき
・第13章 フレージング、響き、デュナーミク
・第14章 テンポとテンポ記号
・あとがきにかえて:ブラームス演奏家、ヴィルヘルム・ケンプの想い出
・訳者あとがき

 

読む際のポイント

「まえがき」「第1章 概観」「第14章 テンポとテンポ記号」「あとがきにかえて」「訳者あとがき」については、ブラームスのピアノ音楽を知らなくても読み進めることができます。その他の章には譜例が付いていますが、実際の楽曲に親しんでいると理解がよりスムーズです。

 

► 著者について

 

デートレフ・クラウス(Detlef Kraus、1919-2008)は、ドイツのピアニスト。16歳で《平均律クラヴィーア曲集》全曲演奏によりデビューし、その後はベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏などで高い評価を受けました。

とりわけブラームス演奏の第一人者として知られ、ヴィルヘルム・ケンプ、ギーゼキング、E.フィッシャーらドイツ正統派の流れを継ぐ存在として評価されています。

エッセン・フォルクヴァング音楽大学主任教授や、国際ヨハネス・ブラームス協会会長も務めました。

 

► こんな方におすすめ

 

ブラームスのピアノ作品に取り組んでいる中級〜上級のピアノ学習者で、作品の背景や解釈の視点を深めたい方には参考になるでしょう。演奏家の立場から書かれた実践的な内容であり、作品や時代への理解も広げてくれる一冊です。115ページとコンパクトながら、内容は充実しています。

 

► 終わりに

 

本書を読み終えたとき、ブラームスのピアノ音楽が持つ奥行きと、その背後にある思索の深さを改めて感じました。テンポの揺れひとつにも、ブラームスが手紙の中で語り、演奏家たちが世代を超えて受け継いできた思索の積み重ねがあることを、クラウスは丁寧に伝えてくれます。

「正しい演奏」を教えてくれる本ではありません。むしろ、正解のない問いとどう向き合うかを、著者自身の言葉と経験を通して示してくれる本です。

 

ブラームスのピアノ音楽 演奏と解釈 ムジカノーヴァ叢書 14 著:デートレフ・クラウス 訳:岡美智子 / 音楽之友社

 


 

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