【ピアノ】左手のみで演奏するピアノ曲:魅力と実践の入門ガイド
► はじめに
本記事では、まだ取り組む人が少ない「左手のみのピアノ演奏」について、その魅力と実践的なアプローチを詳しく解説します。技術向上を目指す方から、新しい表現手段を求める方まで、あらゆるレベルの学習者に役立つ情報を提供します。
► 左手のみの演奏が持つ3つの価値
‣ 1. 演奏技術の根本的向上
左手のみの演奏では、メロディ・伴奏・副旋律、和声・リズムの全てを一つの手で表現する必要があります。この一種の制約が、実は演奏技術の飛躍的向上をもたらします。
指の独立性の向上:
・メロディ演奏時と伴奏演奏時、それぞれに適した筋肉の使い方を学べる
・一つの手の中で異なる役割を同時に担うため、指の独立した動きが活発化
両手演奏への還元:
・左手の表現力向上により、両手演奏時の音楽的バランスが改善
・左手で複数声部を扱うことに長けるので、ロシア作品に多い「3手的な音響を持った2手ピアノ曲」の表現力に直結
音楽的表現力の発達:
・一種の制約の中で豊かな音楽を作る必要があり、音楽的表現力に意識が向く
・微細な音色変化への感覚が鋭くなる
‣ 2. レパートリーの充実:音楽的視野の拡大
左手のみの作品群は、通常のピアノ曲とは異なる音楽的アプローチを提示してくれます。
知られざる名曲の発見
レーガー、ゴドフスキー、サン=サーンスなど、普段触れる機会の少ない作曲家による傑作に出会えるでしょう。これらの作品は、左手の可能性を最大限に引き出すように作曲されており、新しい音楽的発見に満ちています。
・マックス・レーガーなど、普段触れる機会の少ない作曲家による秀作
・技巧的にも音楽的にも充実した本格的な作品
・アンコールピースとして効果的な小品
‣ 3. 音楽教育への活用
幅広い作曲家の作品に触れることやハンディキャップのある方でも取り組める作品を知ることで、指導者としても、様々なケースに対応できる引き出しが増えます。
► 基本姿勢と身体の使い方
座位の調整:椅子をやや右寄りに調整し、高音部を演奏する際の身体への負担を配慮すべき(下図参照)
脱力の徹底:片手演奏では完全な休憩のタイミングがないため、普段以上に脱力を意識すべき
右手の管理:演奏しない右手は膝の上に自然に置き、余計な緊張を避ける(ピアノのサイドを掴むのは力みの原因)
図(Sibeliusで作成)
► レベル別おすすめ楽曲
‣ 左手演奏入門のおすすめ曲
以下の作品は、左手のみの演奏を始める際の最適な入門曲として知られています。
· C.P.E.バッハ「Klavierstuck for the right or left hand alone」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
・「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプト
・リピートを含めても1分強で演奏できるコンパクトな作品
· ケーラー「Three Folk Songs for the left hand from Op.302」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
・Schirmer版で抜粋されている3曲に取り組むのがおすすめ
・性格が異なる3曲が選曲されている
・各曲の演奏時間は数十秒で、非常にコンパクト
‣ 学習第2段階のおすすめ曲
· スクリャービン「左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
・演奏時間:約3分半
・シンプルながらも、上記2曲よりも格段に音楽的魅力が増した作品
・両手で演奏する作品とあわせてレパートリーとして定着しつつある作品
· スクリャービン「左手のための2つの小品 第2番 ノクターン Op.9-2」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
・演奏時間:約6分
・Op.9-1とセットで演奏されることも多い
・静寂さと劇的さをあわせ持ち、演奏効果も高い人気作
► おすすめの楽譜
左手独奏作品の総合楽譜集
本記事で紹介した作品は全て、Schirmer版の「Piano Music for One Hand A Collection of Studies, Exercises and Pieces」に収載されています。
この楽譜集は、入門から上級まで幅広いレベルの左手独奏作品を収録しており、左手のみの演奏を学ぶうえで非常に有用な教材となっています。
► 段階的なアプローチ方法
上記のような演奏上の注意点があるため、初級〜中級者はもちろん、両手演奏にどんなに慣れている上級者でも、左手演奏入門第1曲目は必ずシンプルな作品を使って行うことが重要です。
第1段階:C.P.E.バッハかケーラーの作品に取り組み、左手のみの演奏に慣れる
第2段階:スクリャービンの作品など、シンプルながらもより高度な音楽的表現が求められる作品に挑戦する
第3段階:多くの作品を触ってみて、普段のレパートリーとも相性の良い作品を見つける
► 終わりに
左手のみのピアノ演奏は、技術の向上だけでなく、音楽に対する理解を深める貴重な体験となります。一見制約に思える「片手だけ」という条件が、実は大きな可能性を秘めていることを、ぜひ自身で体験してみてください。
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