【ピアノ】バッハ=ブラームス「シャコンヌ」完全ガイド:難易度・楽譜選択のポイント
► はじめに
左手のみで演奏するように編曲されたバッハのシャコンヌ、通称「バッハ=ブラームス シャコンヌ」。本記事では、この名作の特徴、難易度、おすすめの楽譜を解説します。
► 作品の基礎知識
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)
‣ 原曲について
J.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV 1004」の終曲として書かれた「シャコンヌ」は、バロック音楽の傑作の一つとして知られています。
シャコンヌとは:
・変奏曲かつ舞曲の一種
・低音主題(通常8小節)の繰り返しによる構成
・緩やかなテンポの作品が多い
‣ ブラームスの編曲について
· 編曲の背景
1877年頃、ヨハネス・ブラームスが左手のために編曲したこの作品には、逸話があります:
通説:右手を負傷したクララ・シューマンのため
実際:音楽学者のヨアヒム・ドラハイムの研究によると、複数の動機が考えられる
· 編曲の特徴
観点 | バッハ=ブラームス版 | バッハ=ブゾーニ版 |
---|---|---|
演奏形態 | 左手のみ | 両手 |
原曲への姿勢 | 忠実な再現を重視 | 創作的な拡張を重視 |
音響効果 | 室内楽的な親密さ | オーケストラ的な壮大さ |
技術的焦点 | 左手の解剖学的特性を考慮 | ピアノの音響的可能性を追求 |
シャコンヌには数多くのピアノ編曲版が存在しますが、その中でも特に注目すべき編曲が、ヨハネス・ブラームスによる左手のための編曲版です。この編曲版には、以下の特徴があります:
1. 原曲への忠実さ
・ヴァイオリン曲の音の配置を基本的に維持
・編曲者による過度な創作的改変を抑制
2. 演奏上の工夫
・左手の解剖学的特徴(特に親指の位置)を考慮した和音配置
・ペダル使用を前提とした音の保持方法の工夫
3. バッハ=ブゾーニ版との違い
・ブゾーニ版:両手での演奏を前提とした劇的な音響効果の追求
・ブラームス版:原曲の音楽的本質を保持しつつ、左手での実現可能性を追求
► 演奏難易度と必要な技術
‣ 演奏難易度
総合評価:★★★★☆ (中上級〜上級)
目安:
・ツェルニー40番の中盤程度の技術水準が必要
・左手単独での演奏経験がない場合は、より困難に感じる可能性が高い
‣ 必要な基礎技術
1. 本楽曲独自の技術ポイントの克服
・多出する3〜4音の和音の安定した演奏
・分割和音やアルペッジョ演奏における拍感の維持
・1本の線のみで進行するパッセージを安定して演奏する技術
2. 音楽的理解力
・変奏技法の理解:各変奏の性格と表現意図の把握
・舞曲の性格:シャコンヌという舞曲の特徴の把握
3. 左手演奏における諸注意
・座位の調整:椅子をやや右寄りに調整し、高音部を演奏する際の身体への負担を配慮すべき
・脱力の徹底:片手演奏では完全な休憩のタイミングがないため、普段以上に脱力を意識すべき
・右手の管理:演奏しない右手は膝の上に自然に置き、余計な緊張を避ける(ピアノのサイドを掴むのは力みの原因)
► 練習へのアプローチ
シャコンヌは変奏曲形式のため、以下のような学習も有効です:
・テーマ部分の確実な習得
・特に左手演奏に慣れていない場合は、技術的に易しい変奏から順次取り組む
・必要に応じて一部の変奏を省略しての演奏も検討
► おすすめの楽譜選択
‣ おすすめ度 第1位:ヘンレ版
特徴:
・原典版としての信頼性
・ブラームス自身の運指を斜体で明示
・最小限の編集による純粋な楽譜
・バッハ=ブラームス シャコンヌ ヘンレ版
‣ おすすめ度 第2位:舘野泉 校訂版
特徴:
・左手演奏の専門家による実践的校訂
・詳細な運指と演奏上の注意点
・大幅に余裕のあるレイアウトによる読みやすさ
こんな人におすすめ:
・左手演奏に慣れていない学習者
・校訂者による実践的なヒントを求める学習者
・舘野泉 左手のピアノシリーズ 左手のためのピアノ作品集 音楽之友社
► まとめ
バッハ=ブラームス「シャコンヌ」は、左手のピアノ文献の中でも特に重要な位置を占める作品です。技術的な課題は確かにありますが、変奏曲形式という特性を活かした段階的な学習が可能です。
演奏時間が約18分ある大作なので、挑戦する際は、自身の目的に応じた無理のない計画を立てて取り組むといいでしょう。
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