【ピアノ】演奏者のための音楽理論学習法:4つのポイント
► はじめに
ピアノを学ぶ中で、「音楽理論も勉強した方がいいのだろうか」と考える方は多いのではないでしょうか。演奏技術の向上に加えて、作曲や編曲にも興味が湧いてきた方もいるでしょう。しかし、どこから始めればよいのか、どこまで学ぶべきなのか、悩まれる方も少なくありません。
この記事では、ピアノ学習者が音楽理論を学ぶ際の効果的なアプローチ方法と、押さえておくべき重要なポイントを解説します。
► 4つのポイント
‣ 1. 音楽理論学習における、最初の一手とその次の一手の選び方
・演奏に役立てたいから
・取り組み始めた作曲や編曲の力をさらに伸ばしたいから
など様々な理由で音楽理論の学習を検討している方もいるはずです。
大人の学習者で、音楽理論の学習に取り組みたい時は何から手をつければいいのでしょうか。
面倒臭いと思うかもしれませんが、真っ先に取り組むべきなのが「楽典の復習」です。
黄色い楽典と言われる定番参考書である、「楽典―理論と実習 著 : 石桁真礼生 他 / 音楽之友社」を持っている方も多いと思いますが、ここに書かれている内容で実はきちんと理解できていない内容というのをゼロにしてから、次の一手を検討し始めてください。
「楽典―理論と実習」には、「和音の機能」の話などさらに高度な音楽理論へ入っていくにあたって欠かせないことが簡潔に書かれています。
ざっと楽譜が読めるようになると楽典の本は眠らされてしまいがちなのですが、「音階」や「和音」の章をはじめ、抜け落ちている知識があるはず。
まずはそれらを一掃することが出発点となります。
それが終わって次の一手を検討する段階になったらどうすればいいのか。
音楽理論の中でもどの分野を学習するのかによって手をつけるべき内容は異なりますが、重要なのは、その分野における定番書と言われているものを選んで一点集中で学習することです。
1冊で理解できない内容を調べるために他の書籍もめくるのは構いませんが、ホームポジションへ置く書籍は定番書1冊にしてください。
一番避けたいのは、「マニアックな書籍を選んでしまい、内容がかたよっていて、別の書籍で全部勉強し直しになる」という状況に陥ること。
その点、定番書というのは定番になっただけあって:
・最低限の知識の網羅性
・専門性と分かりやすさの同居
という点においては問題ありません。
いずれにしても、まずは楽典の復習です。
「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」の各機能について、説明できるくらい理解しているでしょうか。「減七の和音」「副三和音」などといった和音について、説明できるくらい理解しているでしょうか。
全て、黄色い楽典に書かれています。
まず初めにやるべきことを済ませてから、本格的な理論学習へ入っていきましょう。
・楽典―理論と実習 著 : 石桁真礼生 他 / 音楽之友社
‣ 2. ピアノ演奏者が持つ音楽理論学習の強み
ピアノ弾きの中には、ピアノ演奏に加えて「音楽理論」の学習にも興味を持つ方がいます。
いざそういった学習へ取り組む時に、あらゆる楽器の中でも「ピアノが弾ける」というのは大きな武器になるのです。
理由は、大きく以下の2つです:
① “狙った” 和音を出すのが得意な楽器だから
②「楽譜の配列」と「鍵盤の配列」が似ているから
【① ”狙った” 和音を出すのが得意な楽器だから】
和声をはじめ、あらゆる音楽理論の学習では、「同時に鳴る音の響き」を確かめる必要性が出てきます。その際に「和音を出せる」という楽器の特徴が有利にはたらきます。
和音を出すのが得意な楽器は、鍵盤楽器以外にも「ギター」などいくつかあります。しかし、ギターは弦が6本のみで各弦同士の音程関係も固定されているため、「和音を出すときに音の積み重ね方を細かく選ぶ」という面ではハードルがあります。
一方、ピアノは ”狙った“ 音の鍵盤を打鍵すればそれらの音だけが鳴ってくれるので、積み重ねを指定するのも容易です。
したがって、理論書に書かれている和音の響きをそっくりそのまま一発で確認することができるわけです。
ギターも素晴らしい楽器ですし、楽器それぞれの音楽的良さはあります。しかし、こと理論勉強をする場合においては、ピアノの和音奏の能力はピカイチです。
【②「楽譜の配列」と「鍵盤の配列」が似ているから】
この視点は意外と抜け落ちがちなのですが、よく考えてみると重要な部分です。
「ドレミファソラシド」と音階の低い音から高い音の方へ向かうにつれて、楽譜では下から上へ向かって順番に音符が並んでいき、鍵盤では左から右へ順番に並んでいる。よく似ていますね。
この事実からも分かるように、音を耳で聴くだけでなく「目で楽譜を読んで、楽器にも向かう」という視覚的要素も重要になってくる理論学習において、鍵盤楽器の配列というのは「理解しやすい」という点で理にかなっているのです。
楽器の中には音階と運指に規則性のないものも多くあります。また、それらにある程度規則性のある楽器でも、ピアノのように「全てが規則正しい横並び」にはなっていないことも珍しくありません。
・ピアノを弾けるのであれば、理論の勉強にも有利
・だからこそ、もし理論の勉強をする場合には、机上で終わらせずに積極的に音でも確認すべき
必ずしも和声でなくても、楽典で「音程」や「和音」などについて学習したりと、あらゆる場面でピアノを使うべきタイミングはあります。
すでに持っている「ピアノが弾ける」という特権を十分に活かして、音楽について学びを深めていきましょう。
‣ 3. 今からでも和声を勉強するべきか
大人の学習者から度々質問される内容として、「今からでも和声を勉強するべきか」というものがあります。「和声―理論と実習」などの書籍をはじめとした、古典和声の学習のことです。
結論的には、将来、作曲やピアノアレンジなどをやってみたいかどうかによります。
そのつもりがないのであれば、少なくとも体系的に積み上げ式でやる必要はないと考えています。
「ピアノ演奏のみをやるつもりだけど、これから専門に進みたい」という方はやる必要があるでしょう。
大前提として、和声のテキストを読むだけでは力はつきません。
・課題を実施して
・それを耳の良い力のある指導者に赤入れしてもらい
・しっかりと復習する
この繰り返しで、ようやく少しずつ耳が開いてきます。
独学で読破するだけでは、用語の知識を覚えたりするくらいしかできないのです。
ピアノを弾くだけでも忙しい中、さらに時間とお金を使ってレッスンに通い、課題を解き、復習もして…というのは、明確な目標がない限りは中々トゥーマッチです。
和声をやることによるメリットはたくさんありますが、楽曲分析の参考書などで自身が取り組んでいる楽曲の簡潔な和声構造は書かれていることもありますし、必要に応じてそちらからアプローチする方がベターでしょう。
以下のように提案します:
・将来的に作曲やピアノアレンジなどを手掛けたいのであればやるべき
・ピアノ演奏のみでも、専門に進みたいのであればやるべき
・この2点に該当しない場合は、必ずしも体系的な学習はしなくてよい
‣ 4. 本格的な理論学習へ進むための心構えと準備
本項目は、あくまでも「本格的に」音楽理論学習をやりたいという方へ向けた内容です。
西洋音楽の古典の音楽理論学習というのは、 もし本格的にやろうとするのであればかなり大変だということを覚悟してください。
学習の進め方には大きく2パターンあります:
・はじめからじっくり学習していく
・完璧主義を捨てて、ひと通りざっと終わらせる
通常の音楽書籍などを学習する場合は、後者のアプローチもおすすめできますが、和声などの専門の音楽理論学習でそれをやってしまうと、最悪、後々全てやり直しすることになってしまいます。
全体的な印象ですが、3色の和声(「和声―理論と実習」シリーズ)の場合、1巻の赤本すらきちんと理解していないのに、何となく読み進められるからといって3巻の緑本までやっている学習者が多過ぎます。
ではどうすればいいかというと、解決策はシンプル。
もしこういった伝統的な音楽理論を学ぶのであれば、原則、独学しないでください。
とうの昔に作曲科を卒業した作曲家に習うのでもなく、その音楽理論を専門で現役で教えている指導者を見つけてください。和声であれば、いわゆる「和声の先生」と言われる指導者のこと。
そして、大変なのは覚悟で時間をかけて体系的な積み上げ型学習をしてください。
暗記してどうにかする科目ではなく、
・課題を実施して
・それを耳の良い力のある指導者に赤入れしてもらい
・しっかりと復習する
この繰り返しで何年も学習して、ようやく少しずつ耳が開いてきます。
言い方は厳しいですが、そうしないで西洋音楽の古典の理論が身につくわけないんですよ。
対位法などもそうですが、今回取り上げたような基礎ができていないと先へ進んでも何にもならない分野は、とにかく、読破して数回レッスンを受けただけで満足しないでください。
諸々の事情でどうしても独学で学びたい場合、必ず動画教材や参考書なども併用しながらゆっくりと学習してください。
► 終わりに
音楽理論の学習は、適切な方法で計画的に行うのが大切です。
本記事で紹介した4つのポイントを参考に、自身の目的や状況に合わせた学習計画を立ててみてください。焦らず着実に、音楽理論の世界を探求していただければと思います。
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