【ピアノ】リズム処理の唯一性から見る楽曲分析:シューマン「狩の歌」を例に
► はじめに
楽曲分析において、ある表現の持つ意味は、その前後の文脈によって大きく変化します。
本記事では、楽曲全体におけるリズム処理の文脈の中で、一見普通に見える表現が特別な意味を持つようになる例を、シューマンの作品を通して解説します。
► シューマン「狩の歌 Op.68-7」17-20小節の分析
基本情報
本作品は「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68」の第7曲として収められている小品。
狩りの角笛を模した音型やリズムが特徴的な作品です。
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-7 狩の歌」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、楽曲全体)
素材の特徴
17-20小節には、以下のような素材が使用されています:
・1小節を2分するアクセント表現(曲頭と同じ手法)
・左手パートのリズム(曲頭と同じリズムパターン)
・メロディ素材(3小節目からの素材を引用)
これらの素材は楽曲全体の統一感を生み出すために巧みに使用されていますが、この部分だけを切り取って聴くと、特に際立った特徴があるようには感じられないかもしれません。
► 文脈が生み出す特別な表現
リズム処理の独自性
17-20小節が特別な表現として聴こえる理由は、楽曲全体における「リズム処理の唯一性」にあります。
・曲頭から17小節目まで:両手が同じリズムを刻む(リズミックユニゾン)
・17-20小節:両手が異なるリズムを奏でる
・21小節以降:再び両手同じリズムに戻る
このように、楽曲のほとんどの部分で両手が同じリズムを刻む中で、17-20小節だけが異なるリズム処理を行うことで、この部分は特別な表現として際立つことになります。
► 楽曲分析の多角的な視点
楽曲分析というのは、どのような視点からその楽曲を見るかによって、発見できる内容が変わってきます。
今回取り上げた例のように「全体の中における一部分の表現の意味」というポイントは重要な分析視点と言えるでしょう。
本記事で取り上げた「全体の中における一部分の表現の意味」の他にも、以下のような視点が考えられます:
1. 調性計画からの分析
・調の移り変わりと楽曲構造の関係
・転調が果たす役割
2. モチーフの展開技法
・主題の変形や発展
・反復と変奏の手法
これらの視点を組み合わせることで、より深い楽曲理解が可能になります。
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