【ピアノ】ベートーヴェン作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド

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【ピアノ】ベートーヴェン作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド

► はじめに

 

本記事では、ベートーヴェンのピアノ作品における実践的な演奏アドバイスをまとめています。各曲の重要なポイントを、譜例とともに具体的に解説していきます。

この記事は随時更新され、新しい作品や演奏のヒントが追加されていく予定です。

 

► ピアノソナタ

‣ ピアノソナタ第1番 ヘ短調 Op.2-1

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、10-12小節)

11小節目の「右手の内声As音」は、メロディに聴こえないよう静かに打鍵しましょう。

 

12小節目の頭のトップノートDes音には重みを入れて。直前からDes音が3連続しているので、全て同じ音量でDes音が並んでしまうと音楽的ではありません。

 

12小節目の右手の内声は、重くならないようにさりげなく演奏しましょう。

ポイントは、伸びているメロディのDes音を耳で聴き続けること。そうすることで内声とのバランスを取ることができます。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、8-9小節)

第8小節3拍目のメロディに注目してください。この部分が典型的な「無伴奏部分」となっています。

 

演奏上の注意点

この箇所でペダルを2拍目から保持し続けると、前の和声が無伴奏部分に被ってしまい、作曲家の意図する音響効果が損なわれてしまいます。

無伴奏部分では、先行する和声を完全に切り、純粋な「ソロ」として演奏することが求められます。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

2小節3拍目からの右手パートは:

・内声はテヌートで長めに音を保持し
・上のラインは「レガート」で

こうすると、全体的には滑らかに聴こえます。

 

左手の「3度和音の動き」は、「上の音だけ」「下の音だけ」といったように、1声部ずつ取り出して練習してみるといいでしょう。

ポイントは、1声部ずつ取り出す場合でも、必ず実際の指遣いのまま練習すること。そうすることで積み重なる練習になります。

 

· 第4楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

最初に出てくるカギマークで示した右手で奏される和音に注目してください。

・短い音価
・弱奏
・和音にメロディが含まれる

という3点が揃っていると、どうしても:

・音が欠けたり
・メロディ以外の音がほとんど聴こえなかったり

という風になってしまいがち。

 

はじめのうちはやや大きめの音量を出してでも、ハーモニーを確実に耳へ入れるようにしてください。

自分に聴こえない音は、基本的に聴衆にも聴こえていません。

 

もちろん、上記の3点がそろっていない場合でも、和音演奏ではその響きをきちんと作ってあげることが大切です。

 

‣ ピアノソナタ第2番 ハ長調 Op.2-2

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、112-117小節)

一つのセクションが終わりを告げる時に、音の鳴る間隔が広がっていくカタチで音楽が閉じています。

 

このような閉じていく部分では、基本的にダイナミクスも閉じていくように演奏しましょう。

反対のことを作曲家が指示しているのであれば別ですが、何も書かれていないのであれば閉ざして弾いていく方が音楽的に響きます。

 

‣ ピアノソナタ第3番 ハ長調 Op.2-3

· 第1楽章

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第3番 第1楽章」の曲頭は難所として知られています。

3度の重音トリルが高速で出てくるので、音がバラけてしまいやすい。

 

1小節目のそれに限って、4パターンの運指を紹介します。

どれでも演奏可能ですが、やりやすさには個人差があるはず。

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第3番 第1楽章」

譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

一番上の運指では「13・24・15」という番号を使っていることに注目してください。1の指をくぐらせていますね。

単純に横並びで「13・24・35」 にしてしまうと、とてもバラけやすくなってしまいます。

「24・35」の重音トリルをやってみると分かりますが、指自体は隣りあっていても、この運指での連続はとても弾きにくいのです。

「くぐらせることができる1の指を上手く取り入れる」というのが、こういった難しい運指ではポイントとなってきます。

 

上記3つの運指案はオーソドックスなやり方です。一方、もうひとつの案は「両手で分担する」というもの。

 

(譜例2)

小指でバスを残し、1小節3拍目以降はノンペダルで弾きます。

相当手が開く場合は3の指で全音符G音も残して弾くことができますが、少なくともバスの全音符C音は残しましょう。

 

全音符G音を指で残せない場合は、ある意味「簡略版」になってしまうということですし、両手で分担するのはあくまで最終手段にしてください。

 

【補足】
楽曲を弾き始める前に低音の5度のみをソステヌートペダルで用意しておくと、それらを指で残さずとも響きを残すことができます。
良い結果が得られますが、「楽曲開始前にソステヌートペダルを準備する」という作業が必要になる意味でも、1小節目のトリルでしか使用できない方法です。

 

‣ ピアノソナタ第4番 変ホ長調 Op.7

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、55-61小節)

p のところからが提示部第2主題。

そこへ入る前にカギマークで示したあたりでゆっくりしてしまいそうになりますが、そうせずにサラリと第2主題へ入ってください

 

第2主題からは付点4分音符の音楽になるので、そのまま弾いていてもテンポの感じ方が変わって音楽が柔らかくなるからです。

その前でわざわざ段落感をつける必要はありません。

 

‣ ピアノソナタ第6番 ヘ長調 Op.10-2

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

アウフタクトは「8分音符+スタッカート」、1小節1拍目は「4分音符+スタッカート」になっていますね。

ニュアンスとしては、4分音符についたスタッカートの方が長めの音価になります。やや余韻を残すようなイメージで切るといいでしょう。

 

スタッカートのついている音が並んでいると、こういった細かなところはどうしても見落としてしまいがち。

譜読みの最初の段階から、丁寧に読んでいきましょう。

 

‣ ピアノソナタ第7番 ニ長調 Op.10-3

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、8-10小節)

10小節目の四角で囲った箇所では、両手とも休符になります。

注意点は2点:

・休符が詰まってしまわないように注意する
・頭や顔でカウントをとらないように注意する

 

休符が詰まってしまう状態には本当によくなりがち。

片手さえ動いていればそうならないのですが、両手ともに休符になった途端に休符が詰まってしまいます。特に譜例のような、p から f へとダイナミクスが急激に変化する時には、この傾向が顕著になります。

自身では意外と気づきにくい部分なので、十分に気をつけましょう。

 

また、頭や顔でカウントをとってしまう動作も起きがち。

やはり片手が動いてさえいればその動きがカウントになるのですが、両手ともに休符になるとどこかでカウントをとらないといけないので、顔を振ってしまったりします。

 

もちろん、”体内” でカウントをとるべきところです。

日頃の練習から意識しておくことが一番の対策と言えるでしょう。

 

‣ ピアノソナタ第8番 ハ短調 Op.13 悲愴

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、10小節目)

この下降クロマティックスケールは、タメたりrit.したりせずに「一気に」フェルマータの音まで流れ込んでください。

理由は以下の2つです:

・「6連符」「7連符」「128分音符」と音価を細かくなっていくから
・たどり着いた先に「停止」という意味のあるフェルマータが付いているから

 

つまり、ここでの連符は「速くしていく」というよりも、rit.をしないで下さい」という意図だと考えられます。

だからこそ、たどり着いた先に「停止」という意味のあるフェルマータがついているのですね。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、20-22小節)

ここでハードルになるのは、以下の2点についてです:

・20-21小節のターンの入れ方
・22小節目の装飾音

 

【20-21小節のターンの入れ方】

(再掲)

これらのターンは、奏法譜で示したように5連符で弾くといいでしょう。

難しく感じる方は64分音符4つで弾くのもアリですが、筆者の感覚としては、それではどことなくモタモタして聴こえます。

5連符で入れる方が軽さが出ますし、割り切れる数で入れた時のような硬さもありません。

 

機械的に弾くのではなく「ターンもウタにする」という意識を持って弾いてください。

 

【22小節目の装飾音】

(再掲)

22小節目の装飾音は3音もあるうえに前後が共に32分音符で動いているため、うまく弾かないと拍の感覚が分からなくなってしまいます。

 

練習のコツは、以下の2点です:

・装飾音を取っ払って練習する
・矢印で示した「装飾音の直後の32分音符C音」を意識する

 

まずは、装飾音を取っ払って弾いてみてください。そうすることで、1拍目を意識して練習することができます。

楽曲の骨格が見えますね。

このやり方で骨格と拍の感覚を身体へ入れておき、その後に装飾音を戻して楽譜通り演奏しましょう。

 

戻した後は、矢印で示した「装飾音の直後の32分音符C音」を意識して練習してください。そこが1拍目の頭だと意識するということ。

はじめのうちは、このC音をやや強めに弾いて意識するのもアリです。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、18-20小節)

この部分の音楽を音型やダイナミクス記号などを参考に捉えると、「重」と書き込んだ小節から「軽」の小節へ解決しているのが分かると思います。「軽い」というよりは「重さが解放される」というイメージ。

 

このような小節連結の時に、それぞれの小節が一つ一つになってしまって繋がりがなくなってしまう演奏を耳にします。

必ず、「重」から「軽」へのつながりを意識して演奏しましょう。「重」の部分を演奏している時に、出した音をしっかりと聴いていて緊張感を持ち続けているようにするのがコツです。

 

‣ ピアノソナタ第9番 ホ長調 Op.14-1

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、5-6小節)

・赤色ラインで示したところ → 10度音程
・水色ラインで示したところ → オクターブ
・黄色ラインで示したところ → 6度音程

 

メロディラインが埋もれないようにハモリのバランスをとっていきましょう。「バランスをとる」ということは「優先順位を見極める」ということです。

・「10度音程」「6度音程」は柔らかい響きがするのに対し
・「オクターブ」は空虚で硬い響きがする

というサウンドの違いにも注目しながら譜読みをしてください。

 

こういったサウンドをバランスよく取り混ぜて作曲することで、色彩のバランス感がとられています。

 

‣ ピアノソナタ第10番 ト長調 Op.14-2

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、74-77小節)

丸印をつけたようなメロディの音域を一瞬越してくる伴奏部分というのは、あらゆる楽曲でよく見られます。

 

ピアノという楽器は減衰楽器でメロディの音も弾かれたら減衰していくため、このようなメロディの音域よりも上に行く脇役の扱いが難しくなってきます。下手すると、メロディの一部に聴こえてしまう。

 

演奏上、どのように気を付ければいいのかというと、大きく2つあります:

・音色を柔らかく音量的にも目立たないように打鍵する
・そのところでテンポを下手にいじらない

 

音色を柔らかく弾くべく丁寧に音を出そうとしてテンポをゆるめてしまうと、その部分が意味を持ってしまい、かえって目立ってしまいます。

少なくとも譜例の交差部分に関しては、テンポでサラリとすり抜けましょう。

 

「目立たせたくない音には不用意な意味を与えない」

これを原則としてみてください。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、41-44小節)

こういった左手は「伴奏形としてはよく出てくる形」ですが、あえて「連桁(れんこう)」が分断されているのは、「2声であることのメッセージ」でしょう。

 

ふたつのラインがあることを意識して、立体的に演奏しましょう。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲尾)

こういったサラッとした終わり方ではrit. せずに弾き終えてしまうと、良い空気感を演出できます

聴衆に「あれっ?終わったの?」と思わせることができたら成功と言えるでしょう。

 

‣ ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op.27-1

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、13-16小節)

13小節目からも、和音の中からトップノートのメロディが際立って聴こえるように

水色ラインのところでは、右手のメロディを呼応するように左手の低音が出てきます。したがって、右手はもちろんこの左手の低音も骨太の音で歌いましょう。

 

14小節目の矢印で示した箇所は「ダウンビート」が無いので、付点のリズムが曖昧になりがち。そこで、この箇所は2/2拍子ですが、臨時的に4/4のようなイメージを持って「4拍目のザッツ」を体内でとるべきです。

 

‣ ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 月光

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、15-17小節)

16小節目のメロディにC音とAis音が出てきますが、これらはどちらも非和声音。17小節目の和声音のH音へアプローチする音です。

・C音は半音上からH音へアプローチ
・Ais音は半音下からH音へアプローチ

このようにしてメロディが作られています。

したがって、「16小節目は緊張感を持って、それが17小節目で解決する」という意識を持って演奏しましょう。

 

16小節目の左手で点線カギマークで示した部分は「対旋律的要素」なので、メロディを隠蔽しない程度で少し際立たせてください。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、16-22小節)

丸印をつけた音を見てください。

それらの音をたどっていくと、「Re-Do-Si-Mi」というメロディを枠としてフレーズができています。このメロディは「1-2小節目のメロディ」

 

つまり、ここのフレーズは、「最初のメロディの変奏(引き伸ばし)」となっています。このことを踏まえると、音楽が細切れにならない方がいいことが分かります。

引き伸ばしを長いフレーズで演奏しましょう。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、13-14小節)

この譜例では、14小節目に右手でGis音を単音強打します。

「黒鍵の単音強打でミスをしないコツ 3点」は、「束ねて・寝せて・近くから」これらを組み合わせて使います。

 

【束ねて】

(再掲)

「束ねて」というのは、2の指だけ、3の指だけ、のような打鍵をせずに、「2と3の指を束ねて打鍵する」というもの。

 

黒鍵は非常に細いうえに白鍵よりも一段上がっているので、一つの指で打鍵しようとズルリと滑り落ちてしまう可能性があります。一方束ねた指で打鍵することでしっかりと黒鍵をつかむことができるので、失敗の確率を下げられるというわけです。

それに、束ねることで関節が強固になるため、強打でも関節がペコっとならなくなります。

 

1の指で打鍵する場合であれば強い指なので1本でもOKですが、1と2の指を束ねて打鍵する方がテクニック的には安定します

 

 

【寝せて】

 

(再掲)


「寝せて」というのは、打鍵する時の指の角度のこと。

 

先ほども書いたように黒鍵は細いので、指を立てた状態(手首が上がった状態)で打鍵すると、仮に束ねていてもミスをする確率が上がってしまいます。

手首をあまり上げずに指を寝せ気味にし、指の腹を使って黒鍵をつかむイメージで打鍵しましょう。

 

【近くから】
(再掲)

「近くから」というのは、打鍵をする時の準備位置のこと。

強打だからといって離れた高いところから打鍵すると、ミスをする確率が上がるうえに叩く結果となり、音も散らばってしまいます。

 

「鍵盤のすぐ近くから押し込むように打鍵する」ようにしましょう。つまり、迅速なポジションの準備が必要です。

 

‣ ピアノソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 テンペスト

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、8-12小節)

テンポ記号などは省略しています。

点線ラインは、リズムの句切れごとに分けたもの。

これを見ると、区切りの間隔がだんだん狭くなっていくのが分かります。「13小節目のフォルテに向かって切迫感を上昇させている」と言えるでしょう。

cresc.があるので、ダイナミクスとの相乗効果にもなっています

 

演奏上としては、「区切りの間隔がだんだん狭くなっていく」という特徴を活かすためにも、途中でタメたり揺らしたりせずに、ノンストップで13小節目のフォルテに入るようにしましょう。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、34-35小節)

カギマークで示したところは「別の楽器」で演奏しているかのようなメロディックなラインです。

ここは、チェロで演奏しているようなイメージをもって。

 

ベートーヴェンが親切に「連桁(れんこう)」を分断してくれているので、どこからが別のラインかの見分けがつきやすいですね。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

この楽曲で一番注意しないといけないのは、拍子のとり方

3/8拍子の楽曲ですが、「2拍子」でとってしまっている演奏がかなり散見されます。譜例は「良くない例」。

 

2拍子系でとってしまうと、「重みの入る位置」が歪められてしまいます。

いきなり3/8を意識するのが難しいという方は、まず、テンポをゆるめた状態で「1小節を1つでとる」という練習から始めてください。そうすれば、重みの入る位置は修正できます。

 

‣ ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、75-76小節)

ここでは跳躍が大きく「ミスタッチ」の可能性が懸念されるので、両手で分担する方法を譜例で示しました。

丸印をつけた音の弾き方を参照してください。

 

ある音をとる運指が変わるとわずかながら出てくる音色も変わります。

何でもかんでも両手で分担するのではなく、どうしても難しいと思うところのみ検討をしてみるのが良いでしょう。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、トリオの最初部分)

このような和音の跳躍で少し音が変わる場合は、すぐに手のポジションを準備し直さないといけません。

しかし、跳躍する時にわざわざ卵形に近いくらいに縮こめたりと、無駄な動きを挟んでしまう例が見受けられます。

 

譜例のような和音から和音への跳躍では、原則、手指が余分な動きをせず最短距離で移動してください。

加えて、次の和音を弾くためにポジション移動しないといけない指のみを動かし、それ以外は前の和音の形をそのまま維持させましょう。

当然、音域が上がるときと下がるときのどちらも。

 

「手を移動させてポジション準備のみをする練習」をしてみるのも、有効な方法です。

 

‣ ピアノソナタ第20番 ト長調 Op.49-2

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-5小節)

「ピアノソナタ第20番 Op.49-2」はOp.49-1と共に「2つのやさしいソナタ」というタイトルでも知られていますが、実は、やさしくない点があります。

原典版には、「第20番 第2楽章」の一部以外は、「一切」強弱記号が書かれていない点です。

つまり、第1楽章には強弱記号が存在しません。各出版社が編集版を出していますが、それほど情報は多くありません。

 

譜例は、ダイナミクスやその他のアーティキュレーションなどを筆者の方で補足したものです。これを参考に解釈のヒントにしてください。

 

‣ ピアノソナタ第21番 ハ長調 Op.53 ワルトシュタイン

· 第1楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、35-38小節

メロディに対して、下ぶらさげでコラール風の伴奏がつけられています。

こういったところでは、和音を刻んでしまい音楽が縦割りになってしまいがち

 

このようなメロディを含むコラール風の和音連続でも音楽を停滞させないコツについて解説します。

 

 

【メロディのみを取り出して弾いてみる】

 

まずは、メロディのみを取り出して弾いてみてください

それだけであれば、長いフレーズでとれるはず。その感覚を覚えておきましょう。

 

1回やって終わらせるのではなく、何度も行ってメロディを長いフレーズでとる感覚を身体へしっかりと入れるようにしましょう。

 

ポイントは「必ず、楽譜通りへ戻した場合に用いる指遣いで弾く」ということ。そうすることで、応用可能な積み重ねのある練習になります。

 

 

【「意思」と「意識」をもって、全パート練習】

 

(再掲)

次に、楽譜通りにコラールの全パートを弾く練習へ戻ります。この時に、「意思」と「意識」を持って練習してください。

・和音1個1個というよりも、フレーズ全体でカタマリとして捉える
・音楽をグーっと横へ引っ張っていくイメージを持つ

つまり、一つの和音を鳴らした瞬間に安心せず、その和音の響きをずっと聴きながら次の和音へつなげていく意識をもって弾く、ということ。

 

 

【手首でいちいち抜かない】

 

(再掲)

手首を使ったところではフレーズが切れて聴こえますこれは、たとえダンパーペダルを使って音が伸びていたとしてもです。

譜例のような和音連続でも、一つの和音を弾くごとに手首でいちいち抜いてしまうと、フレーズがつながりません。

 

どうしてそうなるのかについては、以下の記事で解説しています。

【ピアノ】手首の柔軟性と演奏テクニック

 

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、26-28小節)

28小節目の下段の丸印で示した8分休符はとても重要です。

最後の上段G音は、必ず「単音(Solo)」で聴かせたい音。というのも、このG音は「第3楽章におけるメロディの一番最初の音と同音」なので、音色のつながりを意識したい音だからです。

フェルマータで伸ばしている間にその音色をしっかりと聴き続け、第3楽章へ入りましょう。楽章をまたいでも音楽はつながっています。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、80-81小節

80小節目の右手のパッセージに運指を書き込みました。

345と235のどちらでも弾けるのですが、この箇所は最終的には相当速く弾くことになるので、弱い指が2本も含まれる345よりも、235で弾いた方が本番で音が抜けたりする可能性は下がります

 

問題になるのは、ゆっくりのテンポで弾いている時には、隣り合った指を使う345の方がむしろ弾きやすく感じてしまう可能性があるということ。

 

何度も何度も同じ運指でさらった後、テンポが上がると、ようやく弾きにくい運指だと気付くことになる。これは、あまりいい手順とは言えません。

 

相当な速さで弾くことになるところは、テンポ上げて弾いて運指を探ってみることも最初の段階から取り入れてください

まだ上手く弾けなくても問題なく、その運指でいけるかどうかの見当をつけることが大切です。

 

‣ ピアノソナタ第23番 ヘ短調 Op.57 熱情

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、24小節目)

左手に出てくる同音連打の箇所に、2パターンの運指を書き入れてみました。

上に書き込んだ運指(212121…)と、下に書き込んだ運指(321321…)は、どちらでも成立します。

 

3音+3音+3音で進んでいくので、ほとんどの方が(321321…)で弾くと思いますが、ここは(212121…)で弾くのもおすすめ。むしろ(321321…)よりも音色を揃えやすいのです。

もし行き詰まっている場合は、変更を検討してみてください。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、28-31小節)

この箇所は弾きにくい印象です。

右手が動き回っているのに左手が交差して、なおかつ、16分休符混じりのリズムが入ってくるので、タイミングをとりにくく縦のリズムを合わせづらい。

 

右手のパッセージはそれほど弾きにくい動きはしていません。つまり、解決したいのは「左手」の奏法。

 

攻略のカギは、16分音符の直前の休符のとり方にかかっています。何かにうまくいかない時は、その直前で失敗している可能性が高いのです。

 

休符のとり方に直結する演奏ポイントは、28小節目および30小節目のバスF音を音価分しっかり伸ばすこと。

そうすることで「休符の始まる位置」が明確になります。

 

他の注意点としては、以下の3点:

・交差打鍵するときに、身体の軸を締めていること
・交差打鍵は、鍵盤の近くから行うこと
・交差打鍵の16分音符は強く弾こうと思わず、直後の sf の音へ向かう意識を持つこと

 

‣ ピアノソナタ第24番 嬰ヘ長調 Op.78 テレーゼ

· 第1楽章

 

譜例(Finaleで作成、8-10小節)

丸印をつけた音を辿っていくと、「Ais-H-H-Cis」といったように上昇していきます。これらのバランスをとっていきましょう。

 

左手は、右手に応答するかのように出てきます。

「対話」になっているところで重要なのが、以下の2点です:

・それぞれのニュアンスを合わせる
・後出が先出よりも目立たないようにする

 

この2点を守ると、ここでは左手が「エコー」のように感じられ、立体的な演奏になります。

 

‣ ピアノソナタ第25番 ト長調 Op.79 かっこう

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、119-122小節)

ここでは、カギマークで示したように「4分音符2つ(かっこうのモチーフ)」の組み合わせで音楽ができています。

 

3拍子であるにも関わらず2拍子のように進行しているので、「せき込みの効果」が出ていて、cresc.と非常に相性がいい音楽表現になっています。

こういった cresc. は、グーッっとダイナミクスを上げていくのではなく、「4分音符2つ(かっこうのモチーフ)」のブロック毎にダイナミクスを段階的に上げるのが効果的です。

参考までに、原曲には書いてないダイナミクス記号を書き入れました。

 

123小節目から最初のテーマに戻りますが、せっかく直前でせき込みの効果が表現されているので、rit. などをせずにノンストップで123小節目へ入りましょう。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、15-17小節)

水色ラインで示した箇所に注目してください。

メロディ自体は装飾されていますが、順次進行のライン(軸になるメロディ)が隠れていることに気づくと思います。これらの音同士のバランスをとっていきましょう。

 

左手の赤色ラインで示したところはカンタービレで。メロディの動きが少なくなっているため、左手の表情がよく見えるからです。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-8小節の右手)

音自体は細かく動いていますが、その中での重要な音というのは確実に隠れています。

ここでは、丸印をつけた音が「幹になる音」これらを中心に装飾されているだけなのです。

 

「幹になる音を見極める → それらの音同士のバランスを考える」

これが、装飾されているパッセージが出てきた時にやるべきことです。

 

見極める方法は以下の記事で解説していますので、あわせて参考にしてください。

【ピアノ】楽譜の奥に隠れた重要な軸音を見抜く

 

‣ ピアノソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a 告別

· 第2楽章

 

譜例(PD作品、Finaleで作成、23小節目

丸印をつけた音は「右手」でもとれますが、そうするとメロディラインを「指で」レガートにできなくなります

レガートにとってダンパーペダルというのはあくまでも補助的なものなので、真のレガートにするには指でつなげなければいけません。

したがって、丸印をつけた音は(手が届かない方はアルペッジョにしてでも)左手でとった方がベターです。

 

「何を優先するのか」という問題なのですが、「メロディをレガートで美しく聴かせること」を優先しました。

「アルペッジョにしないで済む演奏方法をとる」ということを優先するのあれば、多くの場合は丸印の音を右手でとることになるわけです。

しかし、より重要であり優先すべき要素は何でしょうか?

もちろん、メロディラインですね。

このような運指テクニックというのは、何を優先するかによって変わってくるわけです。

 

‣ ピアノソナタ 第27番 ホ短調 Op.90

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

非常にオーケストラが聴こえてきそうな作品です。

演奏上も、「仮にオーケストラで演奏されるとしたら、どんな楽器が聴こえてくるだろう」という観点をもって弾くと、音色を考えるヒントになるでしょう。

 

オーケストレーションを学ぶときの超定番教材に、

「管弦楽技法」 著 : ゴードン・ヤコブ  訳 : 宗像 敬  / 音楽之友社

という書籍があるのですが、その中に、譜例部分のオーケストレーション例が載っています。

・2小節1拍目までが弦楽器
・2小節3拍目から、上段が2本のクラリネット、下段が2本のファゴット

このように提案されています。

 

ピアノでの演奏方法としては、例えば:

・弦楽器の部分はしっかりとダンパーペダルを使って
・木管楽器の部分はあえてノンペダルで弾く

このようにするのもいいですね。

 

・管弦楽技法 著 : ゴードン・ヤコブ  訳 : 宗像 敬  / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 

‣ ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、12小節目)

多くの学習者が陥りがちなのが、「拍を整理できていない状態で音源で聴いたままに何となく弾いてしまうこと」です。「拍の感覚がいい加減にならないこと」が重要。

 

最終的に多少自由に演奏する可能性はあるにしても、まずは譜例のように、「各拍のどの位置にどの音価が入ってくるか」を譜読みの段階で丁寧に整理しておくべきです。

それをしておかないと、楽曲の骨格が歪められてしまいます。

 

3拍目表には cresc. があり、3拍目裏では にします。

そこで問題になるのが、水色ラインで示したcresc.の最後の部分。

こういった箇所はいい加減になりがちなので、しっかりと耳で聴いて焦らずに3拍目裏へ入りましょう。

 

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、51-54小節)

ここでのメロディは、非常に遠くで鳴っているイメージをもって leggiero 。特に pp の方は、エコー表現ですね。

オーケストラでは間違いなく「木管楽器」で演奏するフレーズです。

その後、55小節目からの cresc. で音像がグッと近づいてくる音楽。

 

単独で出てくる4分音符にはスタッカートがついていないので、「音価」に気をつけましょう。

 

このメロディは、「55-56小節の右手の上声」にも出てくるので、見落とさないように。

 

· 第3楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、9-12小節)

この4小節間は、ちょっと変わっています。

・9-11小節目まで各1拍目に4分休符があり、音の厚みが薄くなっている
・各2拍目には低いバス音があり、なおかつ、4声体が揃う

つまり、作曲構造上、重みが入るのは1拍目ではなく「2拍目の方」なのです。

 

極端にやる必要はありませんが、譜例の「重」と書いた箇所に少し重みを入れ、1拍目は強くならないように

バスラインにカギマークを書き入れましたが、この構造を見ても、2拍目に重みが入る理由を納得していただけると思います。

 

‣ ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110

· 第2楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、93-94小節)

92-95小節目は、両手の受け渡しをスムーズに。

特に、譜例の93小節目と94小節目は「同じ高さの音」なので、音色にも気をつけないといけません。

 

前後関係から判断すると片手で弾いてしまうこともできますが、あえて両手に分けて演奏するのは、その方がフレーズ感が強調されるからです。

 

‣ ピアノソナタ 第32番 ハ短調 Op.111

· 第1楽章

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

 

曲頭から難しいのですが、カギマークで示したはじめのリズムを両手で分担して弾いてはいけませんなぜかというと、それではサウンド的には成立しても、ステージとして成立しないからです。

 

この部分は、「鋭いリズム」や「不安定な和声」のみでなく、「跳躍における緊張感」も含めて楽曲の聴きどころであり、聴衆の心をつかむ部分

この3つ目のポイントを失わないようにしましょう。

ハンス・カンなどのピアニストも指摘しています。

 

非常に有名な作品ですが、楽曲のことを聴衆が知っているかどうかは関係ありません。

仮にピアノを弾いたことがない方ばかりが聴衆の本番だとしても、ここだけは片手で弾いてください。

 

► 小品

‣ エリーゼのために

 

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、31-34小節)

この「記号P」の箇所で下声のラインは順次下降していますが、右手のメロディは順次上行しています。したがって、矢印で記したような「反行のライン」が生まれます。

ベートーヴェンはダイナミクス指示をしていませんが、開いていくように、多少ふくらませましょう。

 

► 終わりに

 

ベートーヴェンの作品には、独特の音楽語法と表現技法が詰まっています。

本記事では、実践的な演奏アプローチを紹介していますが、これらはあくまでも一つの解釈として捉えていただければと思います。

今後も新しい作品や演奏のヒントを追加していく予定ですので、定期的にご確認いただければ幸いです。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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