【ピアノ】ロー・インターヴァル・リミットとは?:作曲と演奏に役立つ音楽理論
► はじめに
「ロー・インターヴァル・リミット(low interval limit)」を理解すると、楽曲理解の参考になります。
また、ピアノ音楽の作曲や編曲をする時にクオリティアップを期待できるでしょう。
► 基本概念
「ロー・インターヴァル・リミット(low interval limit)」とは、
「各音程ごとに定められた、”その音域よりも低くなると響きが濁ってしまう” という限界値」のことです。
「響きが濁ってしまう = 正しい音程感覚を失う」ということでもあります。
►「長3度」「短3度」のロー・インターヴァル・リミット
(譜例、Finaleで作成)
ポイント:
・長3度、短3度については特に注意
・推奨される最低音域を超えない
・意図的な表現(恐怖感など)の場合は例外的に許容
ロー・インターヴァル・リミットは音程ごとにおおよその限界値が決まっていますが、今回は問題となりやすい「長3度」「短3度」に限定して解説します。
演奏する楽器によって多少の違いはありますが、一般的に「長3度」「短3度」に関しては、上記譜例の音域よりも低くなると正しい音程感覚を失うとされています。
これらはあくまでも「リミット(限度・限界)」であって、リミットの音域ではすでに相当響きが重いと感じるはずです。
実際にピアノで音を出してみてください。
ピアノ音楽の作曲や編曲をする時は、これらよりも低い音域で同時発音する音は書かないように気をつけると、響きのクリーンな創作ができます。
► 例外①:「怖さ」などを表現する時の重い響き
例外があり、「怖さ」などを表現する時にはあえてロー・インターヴァル・リミットを大幅に超えた低い音域で音を密集させて、重い響きを表現することもあります。
► 例外②:ベートーヴェンが使った、低い密集和音
もう一つの例外は、ベートーヴェンです。
例えば有名どころである、以下の3曲の最終和音を見てみましょう:
・ピアノソナタ第8番 悲愴 op.13 第3楽章
・ピアノソナタ第14番 月光 op.27-2 第3楽章
・ピアノソナタ第23番 熱情 op.57 第3楽章
譜例(PD作品、Finaleで作成)
先ほどの譜例と比較してみましょう。
3曲とも、ロー・インターヴァル・リミットを下方へ大幅に超えて和音が組まれていますね。
どうしてだと思いますか?
ベートーヴェンが作曲時に使ったとされているピアノ:
・悲愴と月光は、音域5オクターヴ強のヴァルターのピアノを使って作曲
・熱情は、1803年にエラールより送られた5オクターヴ半のピアノを使って作曲
復元楽器などで音を聴いてみると分かりますが、当時の楽器は現代のピアノのように倍音をたっぷり含んだ豊かな音はしません。
どことなくチェンバロに近いようなサウンドがします。
したがって、ロー・インターヴァル・リミットを大幅に超えている和音を弾いても、現代のピアノで弾くほどには重い響きにならなかったのでしょう。
もちろん、作曲家によって音の選び方に個性があるので、当時どんな楽器だったかに関係なく、ここまで低い密集和音は書かない作曲家もいましたが。
► 終わりに
以下の2点を注意点として踏まえたうえで習得しましょう:
・音楽的文脈の理解が重要
・理論書によって多少の音域差があるので、「自分の感覚にどう訴えるのか」という観点を重視する
・絶対的なルールではなく、ガイドラインとして扱う
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