【ピアノ】J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集「入門最適曲」と「楽譜の選び方」
► はじめに
J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集は最も重要な作品の一つですが、どこから始めるべきか迷う方も多いでしょう。
本記事では、この曲集に初めて挑戦する方へ向けて、以下の内容を詳しく解説します:
・平均律入門者におすすめの楽曲3選とその理由
・楽譜の選び方と推奨版
・学習を進めるうえでのポイント
► 選曲の基本原則:フーガの難易度で決める
なぜフーガで選ぶべきなのか
平均律クラヴィーア曲集(計48曲)は、各曲が「プレリュード」と「フーガ」のペアで構成されています。選曲において最も重要なのは、フーガの難易度を基準にすることです。
フーガの難易度を基準にすべき理由:
・プレリュードは多声処理のハードルが高くなく、技術的に対応しやすい楽曲が多い
・フーガには「声部数」という明確な指標がある
・フーガの構造理解が平均律学習の核心となる
声部数について:
2声のフーガ:全48曲中1曲のみ(第1巻 第10番 ホ短調)だが、テンポが速く導入には不向き
3声のフーガ:比較的取り組みやすいが、楽曲により難易度差が大きく、4声より高度な作品も
4声のフーガ:常に4声ではなく「部分的4声」の楽曲も多数存在
► 入門者におすすめの楽曲 3選
‣ 第1位:第1巻 第6番 ニ短調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
推奨理由:
・平均律入門曲として最も定評がある楽曲
・プレリュード・フーガ(3声)ともに美しく親しみやすい
・技術的難易度が適切で、音楽的充実度も高い
・フーガは、単純な2部構成に短いエンディングがついたものであり、理解がしやすい
・バランスの取れた反行主題も使用された整ったフーガ
その他情報:
・フーガの推奨テンポ:♩= 72(ヘルマン・ケラー推奨)
・演奏時間:約4分(プレリュード+フーガ)
親しみやすさ、取り組みやすさ、作曲面での充実度などあらゆる要素がそろった、平均律入門者に適した作品です。
‣ 第2位:第1巻 第2番 ハ短調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
推奨理由:
・3声フーガが簡明で親しみやすい曲調
・ストレッタ(主題の重なり)が出現せず、技術的ハードルが高くない
・メロディックで音楽的魅力に富む
その他情報:
・フーガの推奨テンポ:♩= 60-63(ヘルマン・ケラー推奨)
・演奏時間:約3分30秒(プレリュード+フーガ)
上記「第1巻 第6番 ニ短調」とともに平均律入門として使われることも多く、フーガの基本的な声部進行を学ぶのに適した楽曲です。
‣ 第3位:第2巻 第2番 ハ短調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
推奨理由:
・取り組みやすい4声フーガの代表例
・部分的に4声になるだけなので、全体的には無理なく学習可能
・オルガンを想起させる堂々とした音楽性
その他情報:
・フーガの推奨テンポ:♩= 58-63(ヘルマン・ケラー推奨)
・演奏時間:約6分(プレリュード+フーガ)
平均律入門に使うことも可能ですし、4声フーガへのステップアップ作品としても適しています。
► 楽曲比較表
楽曲名(推奨順位) | テンポ・演奏時間 | 入門での位置づけ | 重点学習ポイント(フーガ) |
---|---|---|---|
第1巻 第6番 ニ短調(1位) | ♩=72 / 約4分 | 平均律入門の定番楽曲 | 反行主題などの仕掛けの理解 |
第1巻 第2番 ハ短調(2位) | ♩=60-63 / 3分30秒 | 平均律入門の準定番楽曲 | 3声の基本的な声部進行と、アーティキュレーション |
第2巻 第2番 ハ短調(3位) | ♩=58-63 / 約6分 | 4声フーガへのステップアップにも適す | 部分的4声の処理と、堂々としたオルガン的演奏 |
「第1巻 第1番 C-dur(ハ長調)」はプレリュードが有名なので興味を持つかもしれませんが、この番号のフーガはかなり高難度です。フーガの技法が入り組んでいてプレリュードと難易度に大きな開きがあるので、はじめて取り組む楽曲としてはおすすめできません。
► 推奨楽譜:園田高弘校訂版
「ヘンレ版」などの原典版を一冊持っておくことはおすすめですが、アーティキュレーションが書かれていないので、「平均律クラヴィーア曲集」にこれから挑戦したい独学の方には向きません。したがって、「解釈版」をそのまま使って学習するといいでしょう。
園田高弘校訂版の利点:
・詳細なアーティキュレーション表記
・実用的な運指法
・装飾音符の具体的な演奏法
・校訂者による参考CD音源付き
第1巻、第2巻それぞれ2冊(計4冊)に分かれています。
おすすめ度 第1位・第2位の楽曲収録:
・園田高弘 J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集 第1巻(1) (CD付)
おすすめ度 第3位の楽曲収録:
・園田高弘 校訂版 J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集第2巻 (1) (CD付)
► 終わりに
「平均律クラヴィーア曲集」は、適切な作品を選んで丁寧に取り組みさえすれば、今すぐ挑戦できる楽曲もあります。本記事を参考に一歩踏み出してトライしてみましょう。
練習方法についての具体的なヒントについては、以下の記事を参考にしてください:
・【ピアノ】はじめての「平均律クラヴィーア曲集」:フーガの学習法(導入)
・【ピアノ】フーガの譜読み:効率的なアプローチと実践的なコツ(発展)
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