【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法⑨ ~共通点を見つける~
► はじめに
楽曲の中から共通点を見つける分析方法を学んでいきましょう。
作曲家は楽曲に統一感を持たせるために、意図的に共通する要素を配置します。
これらの共通点を見つけることで、楽曲の構造や作曲家の意図をより深く理解できるようになります。
► 対象者など
こんな方におすすめ
・楽曲分析の基礎を学びたい方
・楽曲への理解を深めたい方
・あらゆる楽曲に応用できる分析方法を身に付けたい方
前提レベル
・基本的な楽譜が読める程度
► 習得できるスキル
本記事を通じて、以下のような実践的なスキルが身につきます:
・楽曲の中の関連性や統一性を見抜く力
・作曲家の意図を読み取る具体的な方法
・より深い音楽理解につながる分析アプローチ
・発見した共通点を音楽的解釈に活かす視点
► この分析方法について
楽曲の中には多くの「共通点」を持つ素材が出てきます。
これは偶然ではなく、作曲家が意図的に配置した音楽的な「仕掛け」なんです。
例えば、特徴的なリズムを見つけたら、
それと同じリズムが他のところでも使われていないかをチェックしてみましょう。
多くの場合、そのリズムは楽曲の別の場所でも使われています。
特に古典的な作曲をしている作曲家たちは、
一度提示した音楽的素材を効果的に再利用することで、楽曲全体に統一感を持たせています。
例えばベートーヴェンは、提示した素材を様々な形で展開させながら、楽曲全体を有機的に構築していきます。
探すべき共通点:
・メロディの動きのパターン
・特徴的なリズムの反復
・和声進行の類似性
・フレーズの構造
・強弱や表情記号の使われ方
とにかく共通点をたくさん探してください。
そうすると、楽曲の様々な部分が次々と清算されていき、
気が付いたときには、楽曲について相当見え方が変わっているはずです。
学習のポイントとしては、ちょっとした共通点を発見するたびにいちいち喜ぶこと。
分析のひとつである「共通点探し」というゲームだと思って、楽しみながら楽譜を眺めてみてください。
► 分析の4つの視点
1. メロディの観点 ・音の動きの特徴
・特定の音程(3度、4度など)の繰り返し
・順次進行や跳躍進行のパターン
・フレーズの構造(4小節、8小節などのまとまり)
・装飾音の使用パターン
2. リズムの観点
・特徴的なリズムパターンの反復
・付点リズムや連符の使用法
・休符の配置パターン
・拍子感の変化
3. 強弱・表情の観点
・強弱記号の配置パターン
・アーティキュレーションの使用法
・表情記号の関連性
・音色の変化を示す指示の共通点
4. 全体構造の観点
・フレーズの反復と変奏
・調性の移り変わり方
・セクション間の関連性
・楽曲全体を通じた統一要素
►「共通点」を見つける手順
STEP 1:楽譜全体を見渡す
・楽譜を少し離れた位置から見て、視覚的な特徴を把握
・大きな区分(セクション)を見つける
STEP 2:以下の要素に注目する
・完全に同じ部分
・似ている部分
・変形された形での再現
・異なる声部での類似要素
STEP 3:見つけた効果を考察
・前後の文脈との関係性
・楽曲全体における構造的な役割
・聴き手への心理的影響
・音楽的な統一感への貢献
► 実例で分析
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)より 兵士の行進 Op.68-2」を例に、
具体的な分析方法を見ていきましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
重要な共通点とその効果
1. リズムの観点
・冒頭4小節のリズムパターンが基本単位として反復
・各セクションでこの基本リズムを保持
・終結部でも同じリズムを基にした締めくくり
2. 強弱・表情の観点
・一貫した f(フォルテ)の指示
・明確なアーティキュレーション
3. 音域・テクスチャーの観点
・中音域での展開
・一貫したテクスチャー
4. 構造的な観点
・4小節単位のフレーズ構造
・各セクション間の明確な関連性
これらの共通点が組み合わさることで:
・行進曲としての力強さと規則性の表現
・楽曲全体の統一感の形成
・子どもにも分かりやすい明確な構造の確立
► 実践課題
ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第1楽章」の一部を使って、
共通点を見つける練習をしてみましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、25-34小節)
分析のポイント
・音の連打に着目
・バス音の動きのパターン
・和声進行の反復
【解答例】
発見された共通点:
・同音連打の系統的な使用
・持続音としてのバスの働き
・和声進行の反復
カギマークで示した部分は、全て同音連打だという共通点があります。
また、丸印で示した執拗に保続されるバス音も、連打の一種だと言えるでしょう。
和声進行も4小節単位で繰り返しています。
これらの共通点が、25-34小節のコーダを一つのまとまりとして成立させる効果を生み出しており、
また、この部分は楽曲全体の終結感を高める役割も果たしています。
► 困ったときは
Q1: たくさんの共通点が見つかって整理できない
A1: まずは最も印象的な共通点から分析を始め、徐々に細部へと視点を移していきましょう。 特に、同じメロディや同じリズムといった明確な共通点から始めると理解しやすいでしょう。
Q2: 共通点の音楽的な意味がわからない
A2: 見つけた共通点が楽曲全体の中でどのような役割を果たしているか考えてみましょう。 統一感、対比、展開など、様々な可能性があります。
► まとめ
この記事で学んだこと:
1. 共通点の発見は、楽曲の成り立ちを理解する第一歩
2. 発見した共通点は楽曲の統一感や構造を理解する重要な手がかり
3. 文脈の中で効果を考察することで、楽曲への理解が深まる
4. 分析で得た知見は、より深い音楽表現につながる
► 次回予告
次回は「多声的な書法を見つける」について解説します。
具体的な内容:
・複数の声部の関係性を理解する方法
・楽曲の構造を立体的に捉える方法
・「声部分け」という、演奏解釈でも作曲・編曲でも重要な考え方
【おすすめ参考文献】
楽曲分析をより深く学びたい方へ:
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【シューマン ユーゲントアルバム より メロディー】徹底分析
・「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社
・「作曲の基礎技法」 著:シェーンベルク 音楽之友社
※「楽式論」「作曲の基礎技法」は、専門的な内容を含む中〜上級者向けの書籍です。
まずは本記事で紹介した基本的な方法から始めることをおすすめします。
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