【ピアノ】演奏におけるaccel.の表現技法とその解釈

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【ピアノ】演奏におけるaccel.の表現技法とその解釈

► はじめに

 

音楽演奏において、テンポの変化は単なる速度の調整以上の意味を持ちます。

本記事では、ピアノ演奏におけるaccel.の本質的な表現方法と、陥りがちな誤りについて詳しく解説します。

 

► 表現技法とその解釈 4つ

‣ 1. accel.の音楽的意図を理解する

 

accel.rit. などのテンポ変化というのは、何となくテンポが動いたら良さそうだからという理由で書かれているのではなく、音楽の方向性などの表現と深く結びついています。

 

accel. の時は、楽曲の成り立ちとしてその到達点で達成感を感じるように書かれているのが通常なので、演奏者もそれに応えて達成感を感じるように演奏するべきでしょう。

 

例えば:

・accel. と同時に cresc. が書かれているのであれば、それをきちんと表現して音楽の方向性を示してあげる
・accel. と書かれているところですぐに速めきってしまわないように、配分をよく注意する

このようにして中途半端な表現を避けることで、弾き手にも聴き手にも達成感が得られます。

 

少なくとも力のある作曲家が作った作品であれば、意図なく各種記号や用語などが書かれることはありません。

必ず何かしらの表現として書かれていることを前提として譜読みをするようにしましょう。

 

‣ 2. 長いaccel.は坂道をのぼっていくように

 

accel.(だんだん速く)」と言っても、その表現には幅があります。

 

例えば、シューマン「謝肉祭 20.ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」では、28小節目から「多くの小節をかけて少しづつテンポを上げていくaccel.出てきます。

こういったところは、すぐにテンポが上がってしまい、下図の右側のようになってしまいがち。

 

(図)

 

「少しづつ坂道をのぼっていくようなイメージ」を持ってaccel.していくと、こういったところでは上手くいきます。

stringendoと異なり、accelerandoの場合は「自分でコントロールしながらテンポを上げていく」というニュアンスが強いからです。

 

坂道のぼりの加速はaccelerando、逆に、坂道くだりでついてしまう加速はstringendoと捉えてみるとイメージがつきやすいはず。

「謝肉祭 20.ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」の中でも、accelerando と stringendo は使い分けられています。

 

いずれにしても、少しづつテンポを上げていくaccel.では:

・どこから加速を始めるのか
・どこまで加速するのか
・どの辺りでどれくらい加速が加わっているのか

ということをしっかりと意識したうえで演奏していきましょう。

 

‣ 3. 音価によるテンポ変化を見分けよう

 

ショパン「ノクターン第20番 嬰ハ短調 レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ(遺作)」

譜例(PD作品、Finaleで作成、15小節目

この箇所では、「8分音符による3連符」→「16分音符」→「16分音符による3連符」といったように、テンポ自体は変わっていなくても、音価の変化によってaccel.しているように聴こえます。

このような表現を見つけ出すことが重要。

例えば、「音価でaccel.しているから、次の小節へ入るときには変な間(ま)を空けない方が音楽的だな」などと、音楽解釈の参考になるからです。

 

また、楽曲よっては、「音価の変化によるaccel.に加えて「実際のaccel.併せて書かれているケースがあります。

その場合は、

「実際のaccel.」をどのくらい表現するかどうかのさじ加減を決定するためにも「音価の変化によるaccel.も同時に起こっている」ということを意識していなければいけません。

 

‣ 4. 音量変化とaccel.の関係

 

accel.のときに、クレッシェンドが書かれていなくても音を強めていく
rit.のときに、デクレッシェンドが書かれていなくても音を弱めていく

これらの表現は入れてしまいがち。特に前者。入れても聴感上は問題が生じないケースも多いのでなおさらです。

音楽的にどうしても必要だと思えば、取り入れても間違いではありません。

しかし、原則、accel.rit.しか書いてないのであればやらない方が得策でしょう。

必要ならばクレッシェンドやデクレッシェンドも楽譜に書いてあるはずだからです。

 

「音楽的にどうしても必要だと思えば…」と書きましたが、たとえそれでもやらない方がいい場合もあります。

その作品の別のところで:

accel.とクレッシェンドの同時使用
rit.とデクレッシェンドの同時使用

これら及び、それに類似する表現が書かれている場合。作曲家があえて書き分けているということだから。

 

ちなみに、アンドレ・ジョリヴェなどの作曲家は、一部の作品でaccel.のところにあえてデクレッシェンドを書いたりと、通常の感覚の逆をいくような指示をしています。

 

► 終わりに

 

accel.の表現は、楽譜に書かれた記号の奥にある音楽的意図を理解することから始まります。

機械的な速度変化ではなく、音楽の方向性と感情を丁寧に表現することが、真の音楽的解釈につながります。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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