【ピアノ】「学習者のためのピアノ演奏の解釈」レビュー:必読の解釈特化指南書
► はじめに
1970年に邦訳された本書は、半世紀以上経った今でも色褪せない、ピアノ演奏の解釈に関する重要な一冊です。初級を終えた学習者から上級者まで、演奏の質を高めたい方々にとって、「目から鱗が落ちる」ような知見に満ちています。
・出版社:全音楽譜出版社
・邦訳初版: 1970年
・ページ数:152ページ
・対象レベル:中級~上級者
ジョーン・ラストとは:
・元、王立音楽アカデミー教授
・特にピアノに関する著作が多数
・学習者のためのピアノ演奏の解釈 著 : ジョーン・ラスト 訳 : 黒川武 / 全音楽譜出版社
► 本書の特徴
1. 実践的な解釈の指南
本書の最大の特徴は、演奏技術の解説ではなく、音楽的文脈における「解釈」に重点を置いている点です。例えば、スタッカートやレガートといった奏法も、楽曲の中でどのような表情を付けるべきかという観点から解説されています。
奏法の基礎テクニックを図例で詳しく解説してくれるタイプの書籍ではありません。
2. 明確な区別と定義
特筆すべきは、似て非なる音楽用語や記号の違いを明確に説明している点です。例えば:
・テンポ・ルバートとリタルダンドの違い
・休止符や複縦線上のフェルマータと、その他の小節線上のフェルマータの意味の違い
・テヌート記号とルバートの関係性
これらの区別は、多くの教則本では書かれていないか曖昧にされがちな部分であり、本書の価値を高めている要素の一つです。
3. 実践的なアプローチ
運指法の章では、正しい指使いだけでなく、誤りやすい例も具体的に示されています。これにより、読者は自身の演奏を客観的に見直すことができます。さらに、「あやふやな演奏は何も表現していない」という著者の指摘は、演奏者としての姿勢を問い直す重要な視点を含んでいます。
4. 総合的な音楽理解の促進
本書は、単に個々の要素を解説するだけでなく、フレージングや音楽の流れ全体を考える重要性を説いています。特に、「楽譜を小節ごとではなく、フレーズごとに読む」という視点は、音楽的な演奏を目指すうえで極めて重要な指摘です。
► 印象的な指摘
耳の敏感な人は、心理的に必要な瞬間で、ペダルが使われないのは、ペダルの使いすぎと同じ位の害があることに気がつくはずである。
(抜粋終わり)
あやふやな演奏というものは、何も表現していないということなのだから、絶対にさけなくてはならない。
(抜粋終わり)
旋律線のふくらみの表情は拍子にも部分的に影響されるが、フレーズの”かたち”とクライマックスの点でも決められる。
(抜粋終わり)
► 推奨対象者
本書は、以下の方々に特におすすめです:
・初級を終えて、より音楽的な演奏を目指す学習者
・楽譜の解釈に悩む中級~上級者
・ピアノ指導者
► 結論
本書は、技術的な「how to」を超えて、なぜそのように演奏すべきなのかという本質的な問いに答えてくれる貴重な指南書です。152ページという比較的コンパクトな量ながら、その内容は濃密です。古書であっても、現代のピアノ学習者にとって必読の書と言えるでしょう。
・学習者のためのピアノ演奏の解釈 著 : ジョーン・ラスト 訳 : 黒川武 / 全音楽譜出版社
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