【ピアノ】フォスター「ケンタッキーの我が家」:ソナチネ程度編曲楽譜提供
► はじめに:本記事の趣旨
本記事では、スティーブン・フォスター作曲の名曲「ケンタッキーの我が家(My Old Kentucky Home)」を、ソナチネアルバム1入門程度の難易度でピアノソロにアレンジした楽譜を提供します。
筆者自身による編曲で、演奏解説と参考音源も用意しました。ピアノ編曲に挑戦したい方の参考資料として、また純粋にこの楽曲を弾いてみたい学習者にも適しています。
シンプルな音数ながら、美しく響くよう丁寧に音を編んでいます。運指やペダリングも詳しく記譜したので、ぜひ参考にしてください。
想定演奏レベル:ソナチネアルバム1入門程度
演奏時間:約2分30秒
►「ケンタッキーの我が家」について
フォスターによって1853年に世に送り出されたこの歌曲は、今日ではケンタッキー州の公式な州歌として親しまれています。日本国内では、ケンタッキー・フライド・チキンの広告音楽として使われてきた経緯があり、多くの方が一度は耳にされているのではないでしょうか。
この曲が生まれた前年の1852年には、奴隷制度の現実を描写した小説「アンクル・トムの小屋」が刊行されており、当時の社会的な関心事がフォスターの作曲姿勢に何らかの影響を及ぼしたと考える研究者もいます。また、タイトルに含まれる地名については、「スワニー河」などの他作品と同じく、歌詞の響きやリズムとの相性を重視して選ばれたという見方もあります。
飾り気のない旋律の中に、遠い故郷を想う気持ちや穏やかな日々への憧憬が込められた一曲です。
► 楽譜と参考音源
‣ 楽譜
以下、編曲楽譜を提供します。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)


PDF版ダウンロード:
より鮮明な楽譜が必要な方は、こちらからPDFファイルをダウンロードできます。
‣ 音源
上記楽譜に基づいた演奏音源です。表情付けなどの参考にしてください。
► この編曲の活用例
初中級レパートリー:発表会やコンクールの演奏曲として
編曲学習の教材:シンプルな編曲の参考資料として
季節の演奏曲:夏のイベント(楽曲本来の意図)やクリスマスシーズン(流行の使われ方)の演奏に
BGM:リラックスした雰囲気の鑑賞用音楽として
► 演奏ポイント
楽譜に記載した運指とペダリングで演奏可能ですが、手の大きさに応じて調整しても構いません。
‣ 1-4小節
譜例(1-4小節)

テンポ設定
・曲の出始めは特にテンポ設定が重要なので、体内のカウントを持ったうえで初めのアウフタクトを弾く
フレーズの方向性:
・レッドとブルーで示したように、1-2小節のメロディでは、下行と上行の差を意識する
・下行の落ち着いた表情(レッド)と、上行のより表現的な表情(ブルー)
休符の扱い:
・2-3小節にある両手共に休符になる箇所はきちんと守り、余韻を大事にする
・休符に挟まれた3音1組のため息のような表情(グリーン)をさりげなく
・ただし、大きいフレーズはあくまでも1-4小節まで続いていることを意識
・休符で音楽を止めない
ペダリングと解決音:
・3小節目に書き込んだ短く使用するペダルは、メロディのF音の連打をつなぐためのペダル
・4小節3-4拍目の2分音符は1-2拍目が解決する音なので、強くならないように
‣ 5-8小節
譜例(5-8小節)

補助音の処理:
・7小節目のメロディにおいて、レッド音符で示したF音は補助的な音
・したがって、F音は大きくならずに、A音とB音の音色的つながりを意識する
ペダリングと終止和音:
・7小節目の左手の4分休符の部分では忘れずにペダルを踏み変える
・8小節目の終止和音は強くならないようにおさめる
‣ 9-16小節
声部の独立とペダリング:
・9小節目からは対位法的な音遣いでアレンジ
・ペダルは最小限にし、それぞれの声部が和音のように響いてしまわないように注意する
・指でのレガートを心がける
左手の半音進行
・14-15小節にかけての左手の「D-Des-C」は、右手と音域が近いので、静かにさりげなく通り過ぎる
‣ 17-24小節
本編曲は、初中級用の教育教材という趣旨があります。したがって、17-23小節と33-39小節は全く同じ繰り返しにして、譜読みのハードルを下げるとともに暗譜もしやすくしています。余裕がある場合は、33-39小節をややダイナミックにアレンジして弾いてもいいでしょう。
フレーズの重み
・17-18小節はすべてを均等に弾いてしまわず、重みが18小節目にくることを意識する
表情の変化:
・17-18小節という太い響きに対して、19-20小節は柔らかめの表情で応えるように
・そして、21小節目から改めて深く響かせる
新素材の認識
・17-20小節の4小節間が唯一の新しいメロディ素材であり、それ以外は基本的に反復の音楽
内声の扱い
・20小節目の右手の内声はメロディと音域が近いので静かに弾く
低音の響き:
・24小節目の低いC音は叩かずに丁寧に押し込むだけで十分響く
・このC音は、深い響きが欲しいが、大きい音が欲しいわけではない
‣ 25-32小節
表情の変化を読み取る:
・25小節目からは、オルゴールのようなイメージで軽く演奏する
・25-28小節は、1-4小節をそのまま1オクターブ上げることで、練習や暗譜をしやすくしてある
・しかし、音域やダイナミクスの変化による表情のさを感じて演奏する
・オクターブの違いだけで雰囲気が随分違うことを感じ取る
ピールオフ技法:
・32小節目は、右手の響きの中から左手の8分音符の動きが静かにこぼれ落ちてくるように
・この書法は「ピールオフ」と呼ばれる(詳細:【ピアノ】ピールオフとは:基礎分析と演奏のポイント)
‣ 最後の3小節間
主なポイント:
・追っかけになっているので、それぞれのニュアンスを合わせ美しく階段状に重ねていく
・アルペッジョに入る直前にメロディの関連性がなくならないように、「B-C」のつながりを大切に
・最後の低音オクターヴは極めて静かに演奏に、遠くで鳴っているイメージを持つ
‣ 全体の構成を意識した演奏
この編曲では、メロディの繰り返しが多いものの、各セクションで表現を変えています:
・アルペッジョ混じりのシンプルな伴奏(1〜8小節)
・対位法的なセクション(9〜16小節)
・少し盛り上がるセクション(17〜24小節)
・オルゴール風のセクション(25〜32小節)
・静かなコーダ(最後の3小節)
場面転換が明瞭になるよう、それぞれのキャラクターを意識して演奏しましょう。
► 終わりに
この編曲が、ピアノ学習や編曲学習の参考になれば幸いです。
関連内容として、以下の記事も参考にしてください:
・【ピアノ】初心者からステップアップできるアレンジテクニック集
・【ピアノ】ピアノアレンジの手順:全体ざっくり作成 vs 細部集中 どちらを先行させるのが得策か
・【ピアノ】ピアノアレンジの質を高める「原曲理解」と楽曲分析の重要性
・【ピアノ】別声部へのタイを活用したアレンジテクニック
・【ピアノ】ドミナントの第3音を美しく響かせるコツ:創作と演奏の両面によるアプローチ
・【ピアノ】ロー・インターヴァル・リミットとは?:作曲と演奏に役立つ音楽理論
・【ピアノ】演奏者のための音楽理論学習法:4つのポイント
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
YouTubeチャンネル
・Piano Poetry(オリジナルピアノ曲配信)
チャンネルはこちら
SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

コメント