【ピアノ】モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」導入完全ガイド

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【ピアノ】モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」導入完全ガイド

► はじめに

 

左手のみで弾くピアノ曲というと、特殊な世界のように感じる方も多いかもしれません。しかし実際には、片手だけでも豊かな音楽表現が可能であり、その学習は両手での演奏にも良い影響を与えてくれます。今回紹介するモシュコフスキーの「左手のための12の練習曲 Op.92(12 Etudes for the left hand alone Op.92)」は、左手独奏のレパートリーの中でも、技術と音楽性の両方をバランスよく鍛えられる作品集です。

本記事では、この曲集の基本情報から各曲の特徴、取り組む順序の目安、楽譜の選び方、練習方法まで、これから挑戦してみたい方に向けて詳しくまとめました。

 

► 基本情報

 

「左手のための12の練習曲 Op.92」は、パリのEnoch & Cie社から1915年に出版された曲集で、ピアニストのハロルド・バウアー(1873-1951)に献呈されています。

モシュコフスキーといえば「15の練習曲 Op.72」を思い浮かべる方が多いかもしれません。それに比べるとOp.92の知名度は高くありませんが、左手独奏に必要なテクニックが巧みに取り入れられており、なおかつ身体への負担がかかりすぎないよう計算されて音が選ばれているのが特徴です。雰囲気としては、メンデルスゾーンを思わせる教材と言えるでしょう。

 

►「左手のための12の練習曲 Op.92」の内容

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第4番 1-4小節)

モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 第4番」1-4小節の楽譜。

本曲集は12曲から成り、無窮動的なパッセージ練習を中心とした作品と、演奏会でも取り上げられるような楽曲風の作品とが混在しています。

左手独奏の技術を体系的に学べるだけでなく、演奏会や発表会で取り上げられるようなレパートリーが含まれている点が大きな魅力と言えるでしょう。

 

‣ 全体構成

 

左手のみの作品には、大きく2種類のタイプがあります。一つは両手で弾いているかのように聴かせる作品で、もう一つは単一の音符の連続によるパッセージワークで成立している作品です。

以下の一覧では、前者を①、後者を②として示しました。

 

調性 テンポ タイプ 演奏時間
第1番 C-dur Allegro energico 約2分
第2番 a-moll Allegro ma un poco moderato 約2分
第3番 a-moll Allegro ma non troppo 約2分
第4番 e-moll Allegro moderato 約2分
第5番 G-dur Andante espressivo → Animato e deciso 約4分
第6番 g-moll Presto 約2分
第7番 G-dur Allegretto scherzando 約3分
第8番 g-moll Veloce 約2分30秒
第9番 Es-dur Tempo animato 約1分30秒
第10番 As-dur Veloce et con leggierezza 約1分30秒
第11番 Des-dur Moderato e cantabile 約3分30秒
第12番 b-moll Allegro impetuoso 約2分

 

‣ 各曲の特徴

· 第1番

 

練習目的、訓練意図:
・急速なテンポでの多声の弾き分け
・分散和音

楽譜の見た目はエチュード的ですが、実際の音楽は楽曲のような美しさを併せ持っています。

 

· 第2番

 

練習目的、訓練意図:
・同音連打を含む分散和音
・階段状の音型(2度上昇・3度下降の連続 など)

純粋な楽曲というよりはメカニカルなエチュードの雰囲気が強く、12曲中では比較的取り組みやすい作品といえます。

 

· 第3番

 

練習目的、訓練意図:
・和音のポジション準備
・和音の連続、和音でのトリル

メカニカルなエチュードの雰囲気が強く、シューマンの「トッカータ Op.7」を思わせる一曲です。

 

· 第4番

 

(再掲)

モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 第4番」1-4小節の楽譜。

練習目的、訓練意図:
・親指を軸とした、指をくぐらせる分散和音

レイモンド・レヴェンタールによる選曲と編集の「Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES」には、12曲中この第4番のみが収録されています。

12曲の中でも最も耳にする機会が多く、シンプルながらも美しいメロディがアルペジオの中から浮かび上がってくる作品です。

 

· 第5番

 

練習目的、訓練意図:
・和音として現れるメロディの処理
・場面転換

エチュードというよりは楽曲風のスケルツォ作品で、楽曲的な性格が強い点で第11番との共通点も感じられます。

 

· 第6番

 

練習目的、訓練意図:
・6度音程の分散による、単一趣旨の課題

12曲の中で最もメカニカルなエチュードの雰囲気が強い、ジーク風の軽快で流動的な作品です。

 

· 第7番

 

練習目的、訓練意図:
・軽さを伴った曲想の中での跳躍
・非和声音の連続の処理
・和音トリル

単一の趣旨に絞られておらず、様々なテクニックが盛り込まれた総合的な練習曲となっています。

 

· 第8番

 

練習目的、訓練意図:
・分散和音の練習

基本となる構成要素は分散和音ですが、単一のテクニックだけでなく折り返し方など様々な音型が含まれています。

 

· 第9番

 

練習目的、訓練意図:
・同音連打での運指の変更による、単一趣旨の課題

同音連打が特徴的なトッカータ風の練習曲で、12曲中でも難易度が高い作品の一つに数えられます。

 

· 第10番

 

練習目的、訓練意図:
・同音連打での運指の変更

比較的広い音域にわたるアルペジオが続き、同音連打による味のある表現も特徴の一つです。

 

· 第11番

 

練習目的、訓練意図:
・対位法的書法によるカンタービレの練習
・中間部での和音練習

エチュードというよりは楽曲風のワルツ作品で、楽曲的な性格が強い点で第5番との共通点も感じられます。10度音程の連続が出てくるため、全体的に手の大きさが求められる点には注意が必要です。

 

· 第12番

 

練習目的、訓練意図:
・オクターヴの連続
・手の横移動

12曲中でも難易度が高い作品の一つで、終始和音に支配された、演奏効果の高い書法となっています。

 

► いつから始めるべきか

‣ 推奨開始時期

 

この練習曲集の効果を最大限に得るには、基礎技術が必要です。一般的な目安として、ツェルニー40番を修了した段階以降での開始をおすすめします。

より具体的には、以下の2点をクリアしていることが望ましいと言えるでしょう:

・ツェルニー40番修了程度の作品に取り組んでいる、あるいは取り組める技術レベルに達している
・他のシンプルな左手独奏作品を数曲練習したことがある

これらの条件を満たしていれば、本教材から十分な効果を得られるはずです。左手演奏には独特の技術が求められ、手への負担も大きくなりがちな点が特徴です。そのため、これまで他の左手独奏作品に取り組んだことがない場合は、まずシンプルなものから始めてみましょう。

以下の記事は、左手独奏の総合入門記事です。座位の調整や脱力の徹底、右手の管理など基本姿勢の図解つき解説に加え、C.P.E.バッハやケーラーの入門曲も紹介しています。

【ピアノ】左手のみで演奏するピアノ曲:魅力と実践の入門ガイド

 

‣ 取り組み推奨順序

 

迷ったときは、まず「第2番、第4番、第5番、第11番」から取り組んでみるといいでしょう。

・第2番は、無窮動タイプの曲の中では比較的取り組みやすい一曲
・第4番は、最も知られている作品で、テンポをゆっくりめに仕上げても音楽的に聴こえるためおすすめ
・第5番と第11番は、テンポが緩やかな部分を含むため、実際の楽曲を学ぶような感覚で取り組める

反対に、特に難易度が高いのは「第9番、第12番」です。左手作品の演奏に慣れていないうちは、最初に取り組む曲としては避けたほうがいいかもしれません。

 

► 楽譜の選び方:ショット vs エノック

 

楽譜は、ショット社から出版されているものが、内容と価格の両面からおすすめできます。この作品は原曲の段階から運指やペダリングが指示されているため、この一冊で練習を進めてみましょう。

以前はエノック社の楽譜が定番とされており、現在も大型楽譜店で見つけることができます。ただし、価格はかなり高めです。

 

12 Etudes for the Left Hand Op. 92 for Piano / ショット社

 

► 効果的な練習方法

 

1. 書かれている運指とペダリングをまず試してみる

この作品は原曲の段階から運指やペダリングが指示されているため、作曲者がどのような音響や表現を望んでいたのか、ある程度のヒントを読み取ることができます。まずはこれらの指示を参考にしながら取り組んでみましょう。

例えば第1曲目の曲頭においても、ペダリングによって「どこまで低音が響き続けるか」「どこまで各音が和音化されるか」が変わってきます。少し変えるだけで、表現が大きく違ってくる点に注意が必要です。

 

2. 技術目標を明確にする

先述のとおり、各曲には習得すべき技術目標があります。それをしっかりと見極め、それに従った練習方法を自分なりに考案することが大切です。漠然と弾くのではなく、「この曲では何を克服するのか」を常に意識しながら取り組んでみてください。

 

3. 疲労を感じたらすぐに休む

左手独奏作品では、一つの手に負荷が集中します。特にOp.92は手を大きく広げる楽曲も多いため、疲労を感じた場合は練習を中断し、無理に続けないようにしましょう。

 

► 筆者自身の経験談

 

筆者は元々、レイモンド・レヴェンタールによる選曲と編集の「Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES」から左手独奏作品に取り掛かりました。この曲集には第4番のみが収録されていたため、まずこの作品から学習を始め、その後Op.92の全集から抜粋して取り組んでいきました。

第4番は、エチュードとしての無窮動の書法と音楽性とが両立している作品であり、筆者自身もコンサートで取り上げたことのあるレパートリーです。取り組む番号に迷っている方には、この一曲もおすすめできます。

 

► 終わりに

 

モシュコフスキーの「左手のための12の練習曲 Op.92」は、知名度こそ高くないものの、左手独奏の技術と音楽性を同時に育てられる、実用的な曲集です。各曲ごとに明確な練習目的が設定されているため、自身の課題に合わせて選びながら取り組める点も魅力と言えるでしょう。

まずは取り組みやすい曲から手をつけ、少しずつ難易度の高い作品へと進んでいくことで、無理なく学習を続けていけるはずです。本記事を参考に、モシュコフスキーによる左手独奏の世界を楽しんでみてください。

 

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