【ピアノ】「Piano Music for One Hand」レビュー:左手独奏作品を幅広く収録した楽譜集+解説集

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【ピアノ】「Piano Music for One Hand」レビュー:左手独奏作品を幅広く収録した楽譜集+解説集

► はじめに

 

ピアノの楽曲は、両手で演奏することを前提に書かれているものがほとんどですが、左手のみで弾く「左手独奏」のための作品も少し存在しています。右手にケガや病気などの事情がある方にとっては貴重なレパートリーとなりますし、両手で演奏される方にとっても、左手の技術を見直したり、選曲についての幅を広げる良いきっかけとなることでしょう。

今回紹介するのは「Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES」という、片手独奏作品(左手用作品を中心に、右手のみでも演奏可能な作品を含む)を集めた楽譜集です。レイモンド・レヴェンタール(RAYMOND LEWENTHAL)による選曲と編集が行われ、序文も添えられたうえで、1972年に出版されました。

ただの楽譜集に留まらず、左手作品・左手演奏についての詳しい解説が冒頭にまとめられているところが、本書の大きな特徴と言えるでしょう。

※文章部分は英語で書かれている洋書です。

 

・選曲・編集者:レイモンド・レヴェンタール(RAYMOND LEWENTHAL)
・出版社:G. Schirmer(販売は Hal Leonard Corporation)

 

Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES / Schirmer

 

► 内容について

‣ 本書の冒頭資料部分

· 楽譜の前に書かれている内容

 

本書の冒頭部分では、左手独奏作品をめぐる様々なテーマが取り上げられています。右手に何らかの事情を抱える奏者だけでなく、両手で演奏する奏者もなぜ左手作品に取り組むべきなのか、その理由が解説されているのが印象的でした。また、「左手パートが難しい通常の両手用ピアノ曲を使って手を鍛えればいいのではないか」という考え方と、左手独奏作品をあえて取り上げることとの違いについても触れられており、左手作品を演奏することで得られる様々な恩恵にも言及されています。

さらに、作曲家の立場から見た「左手作品を作曲するメリット」についても説明があり、演奏する側だけでなく、作る側の事情にも目が向けられているところが、興味深いポイントです。

 

· 片手用レパートリーの簡潔な調査

 

「A BRIEF SURVEY OF ONE-HAND REPERTOIRE」と題された章では、左手作品を手がけた重要な作曲家たちが取り上げられ、それぞれがどのような作品を残し、どのような動機で作曲に至ったのかが解説されています。左手作品を理解するうえで、その作曲の背景となる動機は欠かせない要素です。

ちょっとした豆知識として、スクリャービンが「左手のための2つの小品 Op.9」を作曲していたほぼ同じ時期に、別の左手作品も構想していたというエピソードも紹介されており、こうした逸話は読み物としても楽しめました。

 

· 左手の教育

 

「THE EDUCATION OF THE LEFT HAND」では、左手の技術を伸ばしていきたいときに意識すべきポイントが取り上げられています。少し触ってみて終わらせるのではなく、人前で演奏できるレベルまで仕上げることで、左手の表現力やコントロール能力がより深く身につくという考え方が示されていました。

 

· 片手用楽曲の2つの基本タイプ

 

「The Two Basic Types of One-Hand Pieces」の章では、左手作品が大きく2つのタイプに分類されており、楽曲の性質をつかむためのヒントが示されています。あわせて、どのような曲を左手用に編曲してみると学習効果が高いのか、という提案も行われているのが面白いところでしょう。

 

· 運指・ペダリング・振る舞いについて

 

「Fingering of One-Hand Pieces」では、実際の譜例を交えながら、左手演奏に特有の運指について詳しく解説されています。続く「Pedaling of One-Hand Pieces」では、両手演奏と片手演奏でペダリングがどのように異なるのか、また、ペダリングに対する基本的な考え方についても述べられていました。

さらに「Deportment(振る舞い・身のこなし)」という章では、椅子に座るときの姿勢や位置、避けたほうがいい椅子のタイプなど、演奏の前提となる身体面についても触れられており、地味ながら実践的な内容となっています。

 

‣ 収録されている曲目

 

本書には、以下のような作曲家・作品が収められています:

・バルトーク、ツェルニー、サン=サーンス、スクリャービンなどのおなじみの作曲家によるオリジナル作品
・J.S.バッハ、ショパンなどの名作の左手用編曲作品
・ライネッケ、レーガーなど、有名だけれどもピアノ音楽の分野ではあまり知られていない作曲家のオリジナル作品

以下、収録曲一覧を見てみましょう。邦題が一般的になっていない作品も多いので、楽譜集に記載の通りのタイトルを掲載します。

 

作曲家 曲名
Alkan, Charles Valentin Fantasy in A♭, Op.76, No.1
Bach, Carl Philipp Emanuel Klavierstück
Bach, Carl Philipp Emanuel Solfeggietto
Bach, Johann Sebastian Gavotte in E
Bartok, Béla Etude for the Left Hand
Berens, Hermann 9 Etudes(from The Training of the Left Hand, Op.89)
Berger, Ludwig Etude for the Left Hand, Op.12, No.9
Blumenfeld, Felix Etude, Op.36
Bonimici, F. Etude No.3, Op.273
Chopin, Frédéric Etude in E♭ Minor, Op.10, No.6
Czerny, Carl Etude for One Hand
Ganz, Rudolph Capriccio in E Flat, Op.26, No.2
Godowsky, Leopold Elegy
Godowsky, Leopold Meditation
Greulich, F. W. Etude for the Left Hand(from Etudes de Salon, Op.19)
Kalkbrenner, Friedrich Four-Voiced Fugue
Köhler, Louis Exercise in Arpeggio
Köhler, Louis Melody from Weber’s Freischütz
Köhler, Louis Rhythmic Studies
Köhler, Louis Three Folk Songs for the Left Hand
Liszt, Franz Hungary’s God
Marxsen, Eduard La Ricordanza
Moskowski, Moritz Etude, Op.92, No.4
Reger, Max Scherzo(from Four Special Studies)
Reger, Max Humoreske(from Four Special Studies)
Reger, Max Romanze(from Four Special Studies)
Reger, Max Prelude and Fugue(from Four Special Studies)
Reinecke, Carl Finale(from Sonata for the Left Hand, Op.179)
Saint Saens, Camille Moto Perpetuo, Op.135, No.3
Scriabin, Alexander Nocturne, Op.9, No.2
Scriabin, Alexander Prelude, Op.9, No.1
Tappert, Wilhelm Exercise(No.22 from 48 Exercises for the Left Hand)
Tappert, Wilhelm Exercise(No.45 from 48 Exercises for the Left Hand)
Zichy, Géza Viennese Pranks

 

►「左手作品の楽譜集を1冊だけ手元に置いておきたい」という方に

 

この楽譜集には、入門レベルから上級レベルまで、幅広いレベルの左手独奏作品が収められており、左手のみでの演奏を学んでいくうえで、頼りになる一冊と言えます。メカニカルなエチュードから抒情的な小品、本格的なピアノソナタの一部、民謡をもとにした作品まで、幅広い時代・長さの作品が揃っているのも魅力的でした。

左手作品の楽譜集を1冊だけ手元に置いておきたい、という方には、迷わずおすすめできる一冊となっています。全体としては上級者向けの楽曲が中心を占めていますが、初心者の方でも取り組める作品が含まれているのは、嬉しいポイントではないでしょうか。

 

► 初心者でも挑戦できる曲

 

ブルグミュラー25の練習曲を修了した程度の力があれば、次の2曲に挑戦することができます:

・C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」
・ケーラー「Three Folk Songs for the left hand from Op.302」

特にC.P.E.バッハの作品は、本書の中でも最も取り組みやすい一曲となっており、左手だけでも右手だけでも演奏できるように書かれているところが大きな特徴です。

 

► 段階的な取り組み方

 

左手のみで演奏するときには、両手演奏とは異なる注意点がいくつか出てきます。そのため、初級から中級の方はもちろん、両手演奏に十分慣れている上級の方であっても、左手演奏の入門となる1曲目には、できるだけシンプルな作品を選ぶことが大切なポイントです。

具体的には、次のような段階を踏んで取り組んでいくといいでしょう:

・第1段階:C.P.E.バッハまたはケーラーの作品に取り組み、左手のみで演奏する感覚に慣れる
・第2段階:スクリャービンのOp.9など、シンプルながらもより高度な音楽表現が求められる作品に挑戦する
・第3段階:様々な作品に触れてみて、自身の普段のレパートリーと相性の良い作品を見つけていく

 

► 終わりに

 

「Piano Music for One Hand」は、左手独奏というあまり知られていない分野について、楽曲そのものだけでなく、その背景や向き合い方までを知ることができる一冊です。右手に事情を抱えている方にとっては、新たなレパートリーとの出会いとなるはずですし、両手で演奏される方にとっても、左手の技術を見直したり、レパートリーを拡大するきっかけになることでしょう。

まずは取り組みやすい作品から少しずつ慣れていき、自身のペースで左手作品の世界を広げていただければと思います。

 

Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES / Schirmer

 

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