【ピアノ】「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)レビュー:片手ピアノ作品を探すための実用的リファレンス
► はじめに
※本書は英語で書かれている洋書です。
ピアノ作品の大半は両手で演奏することを前提として書かれていますが、その傍らで「片手のための作品」というジャンルも、年月をかけて少しずつ積み重ねられてきました。
今回取り上げる「One Handed:A Guide to Piano Music for One Hand」は、その片手ピアノ音楽の世界を丹念にカタログ化した一冊です。転倒で片方の肩を痛めた経験がある編者ドナルド・L・パターソン氏自身も音楽家として活動しており、長年にわたり収集してきた資料がこの本に結実しています。
・出版社:Greenwood Press(グリーンウッド・プレス)
・初版:1999年
・ページ数:313ページ
・対象レベル:初級~上級者(片手音楽に興味のあるすべての学習者・指導者)
One Handed:a guide to piano music for one hand 編集・注釈:Donald L. Patterson / Greenwood Press
► 内容について
‣ 書籍データ
本書はアメリカの学術系出版社Greenwood Pressから1999年に刊行された洋書で、全313ページというまとまった分量を持ちます。
Greenwood Pressは特定のジャンルを徹底的に掘り下げたカタログ・データベース的な専門書を多く手がけてきた出版社として知られており、本書もそうした特色をしっかり受け継いだ内容になっています。対象となるレベルは初級から上級まで幅広く、片手音楽に関心を持つ学習者・指導者であれば、経験を問わず参考にできる点が魅力の一つと言えるでしょう。
‣ 目次構成
全体の構成は、次のようになっています:
・序文/謝辞/注釈・略語ガイド
・はじめに
・第1章:右手のみのためのオリジナル作品
・第2章:左手のみのためのオリジナル作品
・第3章:片手のみのために編曲・トランスクリプトされた音楽
・第4章:片手のための協奏的作品(ピアノとオーケストラ、ピアノと声楽を含む他楽器、3手・5手・7手のアンソロジー、作曲家アンサンブル音楽)
・第5章:片手のためのレパートリー・アンソロジーおよび教育用アンソロジー
・第6章:選定ディスコグラフィー
・参考文献/索引
右手・左手それぞれのオリジナル作品から編曲もの、協奏曲、アンサンブル作品、ディスコグラフィーまでを一冊で網羅しており、片手ピアノ作品を調べるための基礎資料として重宝する一冊です。
‣ 収録作品数と巻末資料の充実度
何より印象的なのは、紹介されている作品の数です。著者によれば、大曲に含まれる個々の楽章や、ごく短い民謡の編曲などを除いたとしても、2,100を超える片手用作品が掲載されています。片手ピアノのレパートリーをまとめてチェックできる資料としては、かなり大規模なものではないでしょうか。
巻末の参考文献には、片手用ピアノ文献に関する76件の出版物が引用されており、これを辿ればさらに詳しい資料へとアクセスすることができます。あわせて、36種類の片手用アンソロジーに収録されている楽曲を一覧化した章も設けられており、実際に楽譜を選ぶ際の手がかりとしても役立つ作りになっています。
片手作品は資料そのものが限られている分野であるため、このようなハブ(拠点)になってくれる資料を手元に置いておいて損はありません。
‣「はじめに(Introduction)」で語られていること
本編に入る前の「はじめに(Introduction)」は11ページとさほど長くはありませんが、著者のパターソン自身の体験談からスタートし、ピアノに向かう際の姿勢(ポジショニング)、ペダリング、運指、演奏上の課題など、片手演奏に取り組む際の技術的なポイントが手短に紹介されています。
また、両手用の楽曲を片手向けに編曲する際のアイデアや、左手のほうが片手演奏に適応しやすいとされる理由についても触れられており、この分野について多視点から学びたい方にとって参考になるでしょう。
‣ 同系統の書籍との違い
片手ピアノ音楽に関する書籍としては、テオドール・エーデル氏による「Piano Music for One Hand」もよく知られていますが、本書とは少し方向性が異なります。エーデル氏の著作は、片手作品が生まれてきた歴史的な背景についての記述が手厚い一方、カタログとして紹介される作品の数は控えめでした。
これに対して本書は、歴史的な解説などの要素を最小限にとどめ、楽曲事典としての性格を前面に押し出した構成になっています。どちらが優れているというより、用途によって使い分けるのがいいでしょう。歴史的な流れや重要人物について知りたいときはエーデル氏の著作、具体的な作品を探したいときは主に本書、といった選び方が有効です。
► 終わりに
「One Handed:A Guide to Piano Music for One Hand」は、片手用ピアノ作品を探している演奏者や指導者にとって、手元に置いておきたい一冊だと感じました。
左手独奏作品だけでなく、右手独奏作品や片手用編曲作品まで含めて網羅的に探せる点も、本書の大きな特徴です。2,100を超える作品データに加え、参考文献やアンソロジー収録曲の一覧といった付録的な情報まで充実しており、レファレンスとしての完成度はかなり高いと言えます。
英語で書かれた専門書ですが、各エントリーは比較的簡潔にまとめられているため、必要な箇所だけをピンポイントで調べる使い方にも向いています。片手ピアノ音楽の世界を広げたいという方には、一度チェックしてみてください。
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