【ピアノ】インヴェンション入門! 第1番「全運指」公開
► はじめに
本記事では、J.S.バッハのインヴェンションに初めて取り組む方のために「第1番 BWV772」を「全運指」付きで解説しています。初心者でも無理なく習得できるよう、具体的な演奏のヒントも説明します。
► インヴェンション入門に最適の楽曲
インヴェンションの中でも、第1番、第4番、第8番、第13番が入門用として多く用いられています。
特に第1番が入門に適している理由として、以下が挙げられるでしょう:
・ハ長調で書かれており、多くの学習者になじみやすい調性である
・中庸なテンポで練習しやすい
・広く知られた曲であり、イメージをつかみやすい
・対位法の技法が明確で、技術的な難所が少ない
►「全運指」の解説
この楽曲はパブリックドメインです。運営者が浄書ソフトウェアで作成した楽譜を使用しています。
運指について重要な注意点
この運指は一例です。手の大きさや個人差に合わせて調整してください。また、どのようなアーティキュレーションを付けるのかによっても適切な運指は変わります。お手持ちの楽譜の内容と照らし合わせながら、必要に応じて参考にしてください。
「’」記号について
楽譜中の「’」記号は、作曲上、少なくとも切るべき箇所を示しています。演奏解釈によってはさらに細かい区切りも考えられます。これらは最低限押さえるべき箇所と考えてください。
► 具体的な練習のヒント
‣ 適切なテンポ設定
推奨テンポ設定:
練習開始時:♩= 40-50(正確性と安定性重視)
中間段階:♩= 50-60(表現力の向上期)
目標テンポ:♩= 63(ヘルマン・ケラー提案)
なぜ、このテンポが適切なのか:
ヘルマン・ケラーが提案する♩= 63 は、以下の特徴があります:
・初〜中級者でも無理のない速度設定
・作品の持つ素朴さを失わない速度
・余裕を持って弾けるようになっても、速過ぎるテンポ設定にならないように
‣ 片手ずつ完璧にしてから両手で合わせる
対位法で書かれた楽曲では、各声部が独立した「線」として構成されています。通常の「メロディと伴奏」という構造とは異なるため、まず各パートを個別に練習することが重要です。
片手での練習が十分できてから、全体のバランスを整えていきましょう。
‣ 切る8分音符は跳ね過ぎないこと
J.S.バッハの作品における8分音符は、当時の楽器の特性を考慮して切って演奏することが慣例となっています。ただし、音を短く切り過ぎないよう注意してください。
「テヌートスタッカート」のような、やや保持する感覚で演奏することをおすすめします。
‣ プラルトリラーやモルデントは拍の前に出さない
バロック時代の作品に出てくる装飾音符は、拍の前ではなく、拍の頭から演奏を始めることが原則とされています。素早く演奏するよう心がけましょう。
「インヴェンション第1番 BWV772」の場合は、「プラルトリラー」や「モルデント」が該当します。
‣ 本楽曲でよくある問題点と対策
以下、本楽曲でよくある問題点と対策を取り上げます。少し余裕が出てきてからで構わないので、できる限り意識してみましょう。
· 曲の出始めの拍感が無くなってしまう
譜例(曲頭)
1小節目の頭の16分休符の長さが曖昧にならないように、しっかりと「イチ」の感覚を持って体内でカウントを取りましょう。この16分休符の取り方、つまり演奏開始の弾き方次第で、楽曲全体のテンポの基準が決まってしまいます。この作品では楽曲の途中でのテンポチェンジがないので、演奏を始めてしまったら、基本的にはそのテンポで最後まで通さなくてはいけません。
どのような楽曲でも、曲頭が「休符」で始まる場合には特にこのような注意が必要です。
· 15小節目からの両手の受け渡しがギクシャクしてしまう
譜例(15-18小節)
15小節目から始まる両手の受け渡しでギクシャクしてしまう演奏がよく見受けられます。
その主な原因は、レッド音符で示した音が少し早く入ってきてしまうことにあります。遅れてしまうことよりも、早く入ってきてしまう方が圧倒的に多いようです。ブルーで示した音符や休符が短くならないように注意しながら演奏するようにしましょう。
► 終わりに
「インヴェンション 第1番 BWV772」は、J.S.バッハの対位法技法と音楽的表現を学ぶのに良い、最も入門に適した作品です。段階を踏んで丁寧に練習していけば、必ず美しい演奏ができるようになります。焦らず、じっくりと取り組んでみてください。
► 関連コンテンツ
コメント