【ピアノ】ソナタ形式学習のための5つの実践ポイント
► はじめに
ソナタ形式の学習ポイントを、実践的な視点から5つのポイントに分けて解説します。
これらの要点を押さえることで、より深い演奏表現へとつながっていくでしょう。
► 5つのポイント
‣ 1. ソナタを全楽章学ぶべき理由
多楽章制のソナタから一つの楽章だけを抜き出して学ぶケースは多く見られます。
例えば:
・月光ソナタの第1楽章だけを練習する
・悲愴ソナタの第2楽章だけを練習する
といった具合です。
もちろんこれでも構いませんが、もし他の楽章にも挑戦できるくらいの力がついてきた場合には、ぜひ「全楽章」を練習してみましょう。
ソナタにおける各楽章は意図を持って位置付けられています。例えば、悲愴ソナタの第2楽章は、明らかに前後の楽章との「対比」も意図されています。
また、少し踏み込んだ話をすると、「変イ長調」の第2楽章が他の楽章とどのような調性関係になっているのかを考えて調べることも、作品を理解する上で欠かせません。
作品によっては、第1楽章で出てきたテーマが第3楽章で再登場したりと、分かりやすい形で関連しているものもあります。
全楽章を学ぶことで各楽章同士の関連性が分かり、その結果、演奏解釈などの表現面にまで影響が及びます。
‣ 2. 一番のヤマが展開部にあるとは限らない
ピアノ演奏において「クライマックスの活かし方」には注意しましょう。「一番のヤマ」がどこなのかに気をつけて演奏しないと、ヤマがいくつもできてしまいます。
展開部というのは、提示部で出てきた重要な素材の展開を主としていますが、必ずしも楽曲(楽章)の一番のヤマがくるとは限らないのです。展開部よりも「再現部の(後の)終結部分」に音楽的、音量的な頂点がくる楽曲も多いのです。
関連して、ダイナミクス面での演奏ポイントをお伝えしましょう。
「f(フォルテ)を見たときにすぐにマックスにならないこと」が重要。「f よりも上のダイナミクス領域」というのはまだまだあります。sf などの各種アクセントがつくこともあれば、ff、fffなど、時代によってはさらにダイナミクスの指示に幅があります。
‣ 3. 他の楽章の特徴を調べる
これは、ベートーヴェンなどのピアノソナタで「第1楽章がソナタ形式になっている作品に取り組んでいる場合」でのことです。そのようなケースでは、必ず「他の楽章の特徴」を調べてみてください。
特に「ハイドン以降」のソナタの場合、形式、テンポ、調性、拍子、素材など、様々な点で楽章同士のバランスがとられています。
つまり、他の楽章の特徴を調べることで、ソナタ形式になっている(ケースが多い)第1楽章の特徴もより浮き彫りになってきます。
例えば、「このソナタは第2楽章がレッジェーロで第3楽章がプレストだから、第1楽章はテンポを速くし過ぎない方がバランスがいいかな」などと、全体のバランスを考えていくきっかけになります。
‣ 4. ソナタ全体を考慮したテンポ設定
ピアノソナタなどの多楽章による楽曲を弾く場合、単独の楽曲を弾くのとは違った注意点も出てきます。
各楽章間の性格の違いを読み取ったうえで、それぞれをどう表現するのか。「音色」「アーティキュレーション」など、キャラクター表現一つとっても様々な視点がありますが、最も基本的かつ注意すべきものは、テンポ設定です。
多くの古典派のソナタにおける第1楽章と最終楽章のように、急速な楽章は大抵複数含まれています。まずは、これら同士のテンポの違いを調べてください。
仮にその時は第1楽章しか学習しないとしても、いったん他楽章の楽譜を眺めてそれぞれのテンポについて調べてみることで、第1楽章のテンポを決める参考にもしていくのがおすすめ。
テクニック面でのテンポのコントロールについては、以下のような傾向に注意しましょう:
・緩徐楽章は、音は弾けてしまうので速くなりがち
・急速楽章は、弾くのが忙しくて遅くなりがち
このように両端が圧縮されてしまう場合、全楽章の視点で捉えるとテンポ表現が平坦に聴こえてしまうので注意しましょう。
フレーズごとのニュアンスが「木」だとしたら、一つの楽章は「森」。全楽章で「地域」でしょうか。「地域」の特徴を知った上で、「木」を育む。そうすることで、その地域に根ざす「森」が出来上がります。そんなイメージを持ってみましょう。
ソナタはトータル演出をすべき音楽です。
‣ 5. 似ているけれど異なっているところを調べる
例えば、ロンド形式では「Aのセクション」が何度も出てきますが、ソナタ形式でも「セクションの分かりやすい繰り返し」があります。それはもちろん、「提示部に対する、再現部」のことです。
再現部は「一種の繰り返し」ですが、ほとんどの場合は提示部に「変更」が加えられています。そこで、「どこが同じで、どこが似ているけど異なっているのか」を譜読みの段階から丁寧に整理しておくことがポイント。
これは暗譜の際に特に重要です。ソナタ形式の楽曲で暗譜が飛んでしまうケースの多くが、「再現部で提示部と同じことを弾いてしまって、それ以降が分からなくなってしまう」という理由によるものです。
暗譜で苦戦する箇所の定番は、似ているけど少し異なっている箇所。ここを丁寧に整理することで、確実な暗譜が可能になります。
► 終わりに
独学をしていく上で、これらのポイントを頭の片隅に入れておくことで、確実に演奏の質が向上していくはずです。一つ一つの要素を丁寧に研究し、実践していってください。
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