【ピアノ】「演奏のための楽曲分析法」(熊田為宏 著)レビュー

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【ピアノ】「演奏のための楽曲分析法」(熊田為宏 著)レビュー

► はじめに

 

「演奏のための楽曲分析法」は、タイトル通り「演奏に活かすための」分析法に焦点を当てた一冊です。この種の比較的多くの音楽書が和声分析に比重を置く中、本書はグルーピングやアクセントの捉え方を中心に据え、演奏に役立つ視点を提供しています。

著者の熊田為宏氏(1913-1993、元 山形大学教授)は序文で、コンピューターのような速く非人間的な演奏の問題点を「意味のあるグルーピングやアクセントが感じられない」と指摘しています。急速なテンポの楽曲に限らず、このような問題点を意識的に改善していくヒントが本書に詰まっています。

 

・出版社:音楽之友社
・初版:1974年
・ページ数:130ページ
・対象レベル:中級〜上級者

 

・演奏のための楽曲分析法 著:熊田為宏 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ 本書の特徴

 

コンパクトさと実用性:
130ページという手頃な分量ながら、充実した内容

和声知識不要:
難解な和声理論の前提知識がなくても理解できる構成

読みやすい譜例:
ピアノ曲以外の作品例も基本的に大譜表で表記され、ピアノ学習者が取り組みやすい

親しみやすい楽曲例:
バロック期からロマン派までの基本的な作品を用いた説明

総合的実践例:
第6章の「総合分析」では、有名でシンプルな作品を例に実際の分析手法を展開

 

‣ 注目すべき著者の指摘

 

特に注目すべき著者の指摘として、以下の点が挙げられます:

音質とテンポの関係性:
両者が密接に結びついていることの指摘

多角的分析の重要性:
一つの視点からだけでなく、常に複数の観点から楽曲を見ることの大切さの指摘

作曲と分析の関係:
分析を「作曲の逆手法」として捉える視点の提案

表現の妥当性:
「表現の多様性には、それぞれの理由があり、そこにはエネルギー活動の処理の妥当性が認められれば、その表現は音楽的意味をもつ」という指摘、つまり、音楽エネルギーの読み取り無き表現は、仮に良く聴こえても無意味であることを言っている

 

‣「演奏のための」という書籍タイトルの真意

 

本書の内容は、楽曲分析だけでなく、表裏一体である楽曲の解釈についても深く触れています。例えば、楽譜にアクセント記号が記載されていなくても、表現のために必要と判断した場合には、演奏者の創意で様々な表情をもったアクセントやアタックを生み出すことの重要性を、具体例とともに説いています。

つまり、ただの機械的な分析に留まらず、「作曲家がどこまで意図していたかは定かでない要素にまで、演奏者が表現のために踏み込んでいく」ための楽曲理解を目指しています。これこそが、「演奏のための」という書籍タイトルに込められた真意と言えるでしょう。

 

‣ 章立てから見る内容

 

本書は6章構成で、音楽の基本要素から始まり、アクセント、旋律分析、提唱と応答、リズムの開始と終結、そして総合分析へと進みます。

特に第2章「アクセント」の充実度は圧巻で、「強勢的アクセント」と「表情的アクセント」の二つに大別し、それぞれ7種類ものアクセントを詳細に解説しています。これほど多角的かつ体系的にアクセントを論じた書籍は多くありません。

第6章の総合分析では、クーラウのソナチネやJ.S.バッハの組曲、ショパンのワルツなど馴染みのある作品を例に、実践的な分析手法を示しています。第5章までの方法の提示で終わらずに、実際の楽曲において総合的にどう活かされるかを学べる点は、本書の魅力と言えるでしょう。

 

► 大人のピアノ独学者にとって使いやすい一冊

 

独学でピアノを学んでいる大人の学習者にとって、本書は以下の理由からおすすめできます:

和声学の知識がなくても取り組める:
難しい理論的前提なしにアプローチできる

指導者不在の自己流の解釈に根拠を与えてくれる:
感覚だけでなく分析に基づいた演奏ができる

限られた練習時間で効果的な学習ができる:
非常にコンパクトな書籍であるため、大人の学習者にとって効率良い学習ができる

 

► 終わりに

 

「演奏のための楽曲分析法」は、和声分析に重きを置かない点、演奏に直結する分析法を提示している点で、実用的な内容となっています。難し過ぎないため、「和声知識は無いけれども、少しづつ楽曲分析を学び始めたい」という方には特に有益な一冊と言えるでしょう。

 

・演奏のための楽曲分析法 著:熊田為宏 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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