【ピアノ】クレッシェンドの記譜法の違いから読み解く作曲家の意図
►【理論編】
‣ クレッシェンドの記譜法とは
クレッシェンドには2種類の記譜法があります。
松葉記号(<)と文字による表記(cresc.)です。
一見、同じ意味に思えるこの2つの記号。
しかし、作曲家たちは意図的に使い分けているんです。
‣ 基本的な違い
結論から言うと、「cresc.(文字によるクレッシェンド)」のほうが広い意味を含みます。
重要な違い
【松葉のクレッシェンド】
図形の通りふくらませていくのが原則なので、その間の細かなニュアンスは制限される
【cresc.(文字によるクレッシェンド)】
全体としてクレッシェンドしてさえいれば、その間の表現は比較的自由
►【実践編】
‣ 基本的な解釈方法
まずは、ショパン「ワルツ 第2番 変イ短調 Op. 34-1(華麗なる円舞曲)」を例に、具体的に見ていきましょう。
譜例(PD作品、Finaleで作成、9-13小節)
ここで注目してほしいのは、10小節目に記された「cresc.」です。
なぜ作曲家は、ここで松葉記号ではなく、文字による指示を選んだのでしょうか。
演奏上の考察
・1小節ごとにブロックとして段階的にクレッシェンドすることで、各フレーズの形を保持できる
・フレーズ終わりの音を適切におさめることが可能になる
・11小節3拍目、12小節3拍目の音が不自然に突出することを防げる
‣ 応用的な解釈方法
【上昇音型を活かすアプローチ】
ドビュッシー「子供の領分 5.小さな羊飼い」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、22-24小節)
この譜例から分かるように、
22小節目からの「crescendo」指示は、単純な音量増加以上の意味を持っています。
解釈のポイント
・「上昇音型」に着目してクレッシェンドを実現
・音型のおさまり尻は自然な強さに抑える
・全体の流れを保ちながら部分的な強弱変化を組み込む
具体的には、以下の譜例へ補足した強弱を付けるといいでしょう。
【フレーズ単位での処理】
ハイドン「ソナタ 第60番 Hob.XVI:50 op.79 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、71-76小節)
ハイドンの時代にはmf などの記号は一般化されておらず、ほとんどが p と f で記譜されていました。
本記事では現代的な解釈に基づくダイナミクス表記を採用しています。
この例では、フレーズ構造に基づいた2つの解釈方法を比較します:
1. 従来型の解釈(上段)
・単純な漸次的クレッシェンド
・フレーズ終わりが強調されてしまう
2. 推奨される解釈(下段)
・フレーズごとの自然な強弱処理
・1小節単位の音楽的な呼吸を考慮
‣ 実践のポイント
松葉記号を見たら
・フレーズの形状に沿った滑らかな音量増加を心がける
・開始点と終了点の音量差を意識する
・基本的に途中での強弱の揺れを避ける
cresc.を見たら
・フレーズ構造を確認する
・フレーズ毎の強弱バランスを考慮する
・必要に応じて段階的な音量増加を検討する
・フレーズの終わりの処理に注意を払う
►【まとめ】
‣ 記譜法の違いが示唆すること
クレッシェンドの記譜法の違いを理解することは、作曲家の意図をより深く読み取ることにつながります。
この違いは単なる記号の選択ではなく、音楽表現の可能性を示唆する重要な情報なんです。
‣ 注意点
やや混同して使用されている例もあり、作曲家によって記号や音楽標語の用い方は千差万別です。
この解釈は基本的な指針として理解しておくと良いでしょう。
留意事項
・作品の様式や時代背景も考慮に入れる
・楽曲全体の文脈の中で判断する
・必要に応じて柔軟な解釈も検討する
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