【ピアノ】レガート奏法大全:ペダルに頼り過ぎず美しくつなぐテクニック
► はじめに
ピアノ演奏において、「レガート」は音楽表現の根幹を成す重要な奏法です。しかし、多くの演奏者が「レガート」において、安易にペダルに頼りがち。
本記事では、レガート奏法の本質と、そのテクニックを解説します。
► A. レガートの基本原理
‣ 1. 運指で魅せるレガート:ペダルに頼らない音のつなぎ方
ダンパーペダルに頼ることで、手は離してしまっても音をつなげることができます。
一方、レガートにすべきところでは可能な限り運指でつなげるように肉薄した方が、最終的な出音は、よりレガートに近づきます。
分散和音などで試してみて欲しいのですが、たとえペダルで音をつなげていても、手ではスタッカートで演奏すると、出てくる音の連なりは完全なレガートには聴こえません。
ペダルはレガートにとって補助的な存在でしかないということです。
ドビュッシー「前奏曲集 第1集 亜麻色の髪の乙女」
譜例(PD作品、Finaleで作成、14小節目)
ここでは、譜例に書き込んだ運指を使うと、指でレガートにすることができます。
特にこの譜例のような非和声音も絡みながら動いているようなところでは、ペダルに頼ってしまうと濁りが生じてしまう可能性が高い。
まずは、レガートを実現できる運指を探すことに力を注いでください。
分かっていても、すぐに諦めてペダルへ頼ってしまっていませんか。
本当にムリな部分というのももちろんありますが、以下のようなあらゆることを考えてください:
・替え指を取り入れたらどうか
・もう一方の手で取ることはできないか
・他の版に書かれている運指はどうか
・せめて、ペダルに頼るところを最小限にできないか
‣ 2. 音色の秘密:レガートを阻害する要因を理解する
次の2つのうち、「レガートに聴こえない」のはどちらだと思いますか?
1.「同じダイナミクス」で「音色が異なる」2つの音の連結
2. 「異なるダイナミクス」で「音色が同じ」2つの音の連結
「レガートに聴こえない」のは、「1. 同じダイナミクスで音色が異なる2つの音の連結」です:
・音量が変わってもダイナミクスの抑揚がついただけであり、ひとつながりに聴ける
・音色が変わると異質なものが入り込んできた印象になり、ひとつながりの中においては耳についてしまう
前の音と「同じ音色」の中であれば、ダイナミクスが異なっても基本的には別のものには聴こえないのです。
つまり、音の大小よりも、音色を揃えることがレガートに聴こえさせるコツ。
音色を揃えるためにできるテクニックには「打鍵速度」のことなどたくさんありますが、まずは自分の音を良く聴くことが第一歩です。
‣ 3. 唐突なイヴェントがレガートを乱す
レガートに弾こうと思っても、何だかゴツゴツしてしまったりと上手くいかないことはあります。
原因はいくつか考えられますが、たいてい、奏法的に唐突なイヴェントを起こしてしまっていることが問題となっています。
例えば、以下のように:
・出したい音色を想定せず、唐突に打鍵してしまう
・手の移動時間が充分にあるのに、唐突に移動させて準備不足の打鍵をしてしまう
► B. レガート奏法の技術
‣ 4. オクターヴ連結の魔法:ペダルなしでのレガート奏法
モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.333 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、43-44小節)
ここではオクターヴのメロディが連続しますが、まず、43小節目のそれはつなげる必要ありません。テヌートがついているイメージで演奏すればOK。
一方、ヘンレ版などの原典版では44小節目にはスラーがついています。
レガートでつなげたいところですが、ペダルを使うと左手で演奏する音の濁りが気になってしまう。
テンポがAllegroなので、つなぎだけ補助的に踏むのもギクシャクする原因になってしまいます。
解決策は、意外にもシンプル。以下のように弾くといいでしょう:
・上のオクターヴは4-5でつなげる
・下のオクターヴは親指をすべらせてつなげる
黒鍵のオクターヴから白鍵のオクターヴへの連結だからこそできるテクニック。
(再掲)
黒鍵から白鍵へつなぐ場合は、たとえ短2度 “下行” する場合であっても右手の4-5という運指が有効に使えます。それほど手をひねる必要もありません。
加えて、黒鍵から白鍵へつなぐ場合は、親指を滑らせてレガートに弾くこともできます。
したがって、これらを組み合わせれば、オクターヴの連続をペダルなしでもレガートに連結できます。
反対に、5-4というようにはじめに5の指を使うのはどうなのかというと、その場合、同時に親指をすべらせるのが意外と難しくなってしまう。
試してみると分かると思いますが、ほとんどの方は4-5で弾いた方が、オクターヴ全体としては美しく弾けるはずです。
黒鍵から白鍵へのつなぎにおいて、以下の3点がポイント:
・短2度 “下行” であっても、右手の場合は4-5でつなぐことができる
・左手の場合は、短2度 “上行” であっても、4-5でつなぐことができる
・短2度の連結であれば、親指をすべらせてつなぐことができる
また、これらの運指法はオクターヴではなく単音で弾いていく場合にも使えるテクニックなので、慣れておきましょう。
‣ 5. レガート・カンティレーナ奏法の基礎
ショパン「エチュード(練習曲)op.25-11 木枯らし」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
左の譜例は原曲です。それを右の譜例のように演奏するとレガートに聴かせることができます。
つまり、少しだけ音をオーバーラップさせるということ。
音は減衰していても、わずかなオーバーラップが耳に入ることで錯覚としてレガートに聴こえる、というわけなのです。
譜例では32分音符分オーバーラップさせましたが、楽曲のテンポなどによってはもっと短くしても長くしても成立するので、自分の耳を良く使って最適な被せ具合を探っていく必要があります。
明らかに濁った印象に聴こえてしまってはいけないので、被せ過ぎに注意します。
オーバーラップに関しては:
・指のみで残す
・指とダンパーペダルの両方で残す
これらのどちらの方法をとるかについて決まりはありませんが、レガートに肉薄していくことを考えると、可能であれば指とペダルの両面で表現するのがベターでしょう。
指で表現する際、ただ単にONとOFFのスイッチとして被せ具合をコントロールするのではなく、「次の音へどのように指を送り込むのか」という観点を持ってください。
レガート・カンティレーナは様々な場面で使えますが、以下の2つの条件がそろった場合に、とりわけ良い効果を期待できます:
・テンポがゆるやかなところのメロディ
・単旋律のメロディ
「レガート・カンティレーナ奏法」についてさらに学びたい方は、以下の書籍を参考にしてください。
・最新ピアノ講座 第6巻 ピアノ技法のすべて 音楽之友社
‣ 6.「和音のレガート」を攻略する
【「和音のレガート」を実現する演奏法】
和音の連続に対してスラーがかかっていることはよくありますね。
メロディに対してであったり、伴奏に対しての場合もあります。
譜例は、右手で演奏するメロディラインに対して和音のレガートが要求されている例。
譜例(Finaleで作成)
「和音のレガート」を実現する演奏法として重要なのは、以下の3点です:
・指でレガートにできるラインはしっかりとつなげる(特に、大事なメロディラインなど)
・その他のラインはテヌートで長めに音を保持する
・ダンパーペダルに頼りすぎない
ピアノという楽器は、同音連打が苦手な楽器。
譜例の親指で演奏するような同音連打は一度指を上げないと再打鍵できません。
したがって、切れてもいいのですが、その切れ方をなるべく少なくする必要があります。
その上で大事なラインは指でレガートにしてペダルでも補佐すれば、レガートに肉薄できます。
【「和音のレガート」の練習方法】
(再掲)
上の音と下の音に分けてそれぞれ練習してみましょう。
上下それぞれのラインのニュアンスをしっかりと身体に入れてください。
和音演奏する時に使う「実際の指遣い」で練習することが重要です。そうでないと、分解して練習する意味がありません。
► C. 高度な奏法テクニック
‣ 7. 親指だけでレガートに音階を弾く練習
「親指だけ、または小指だけでなるべくレガートに音階を弾いていく練習」
これは音大でも取り入れられることがある、実際の楽曲で使用する機会が多いテクニックに着目した良い練習方法です。
この2種のうち、特に重要な「親指だけでレガートに音階を弾く練習」を紹介します。
ハノン第39番のAs-durを使って、極めてゆっくりのテンポで右手だけで練習してみましょう。
練習のポイント:
1. 打鍵したらすぐに力を抜く
2. 指の腹で打鍵する
3. 隣の鍵盤の壁に指を滑らせる(白鍵同士の場合)
4. 最短距離で移動する
5. 移動するときには「上腕」で手を連れてくるイメージで
6. 手首は上腕の流れについてくるだけ
7. 頭を振ったりする動作はつけないで練習する
8. 他の指は力を抜いておく
この練習をするときは、3の指(中指)がつっぱらないようにすることが重要。無意識に不要な力が入りがちな部分だからです。
ちなみに、リスト「愛の夢 第3番」などでは、親指だけで演奏するメロディが登場するので、やはりこの練習が役に立つでしょう。
‣ 8. 腕を外側へ回す奏法は、どういったときに使うのか
「シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現」 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
という書籍に、
以下のような記述があります。
極端な状態 ——つまり過度に腕を外側へ回すこと—— については心配要らない。
なぜならピアノを演奏する際に、このポジションをとることは決してないからである。
(抜粋終わり)
シャンドールはこのように言っていますが、過度でなければ、腕を少々外側へ回す奏法が使われることもあります。
その例を挙げておきましょう。
ブルグミュラー 25の練習曲 Op.100 より「牧歌」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
こういった音型では、ただパタパタと真上から打鍵するのではなく、「手の平で砂を横へかき分けるときの手の使い方」の動きの中で打鍵すると、びっくりするくらいまろやかな音色のレガートが得られます。
勝手に、自然に、指の腹の広い面積を使うことになり、しかも、自然と各音同士がオーバーラップすることになるからです。
レガート・カンティレーナの一種とも言えますね。
右手の場合:
・音型が鍵盤の右方向へ向かうところは手が少し左側に傾く(手の甲が左側へ向く)イメージ
・音型が鍵盤の左方向へ向かうところは手が少し右側に傾く(手の甲が右側へ向く)イメージ
まさに「砂かき分け奏法」。指はできる限り鍵盤へつけたまま演奏します。
この前者、「右手の場合の、手を少し左側へ傾ける」というのが、腕を外側へ回す動作を用いる例。
反対に左手であれば「手を少し右側へ傾ける」となります。
シンプルな譜例だと分かりやすいと思いこの譜例を取り上げましたが、実際にこの作品へ取り組んでいる段階では砂かき分け奏法を使いこなすのはなかなか難しいでしょう。
「こんな奏法があったな」というのを、うっすら覚えておけばOKです。
また、すでに中級レベル以上の学習をしている方は、この譜例を使って身につけてみてください。
・シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
► D. 音楽的表現の深化
‣ 9.「響きを横へつなげて、一音一音にならないで」の感覚の身に付け方
「ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法」 著 : 大西愛子 / 全音楽譜出版社
という書籍に、
「Weight-Transfer Legato」という項目があり
以下のような解説がされています。
一音一音が別々に出ず、お互いに溶け合う様なレガートの出し方は、部屋にしのび入る動作に似ています。
しのび足ははまず身体の体重を片足にかけ、別の足を床につけてからソロっと体重を移します。
これと同じことをキイでするのです。
例えば2の指で弾いた後、3の指先をのばし腹側(下面)でキイをさわります。
次に、手首をまわしながら手全体の力を抜き、次の指にもたれ込みながら弾きます。
(中略)
手首を今弾いている方向に後から少し押し気味に動かす事がコツです。
指先は絶対にキイから上げず、濡れた雑布又はモップを引きずる様な動かし方で、決して指一本ずつの動きではありません。
(抜粋終わり)
これも、レガート・カンティレーナの一種と言えますね。音の境界線を溶かす奏法。
楽曲のあらゆる場面で使えますが、特に、以下のような片手のみで動く場面で有効です。
ショパン「ポロネーズ 第7番 幻想 Op.61 変イ長調」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、140-142小節)
他のパートが休んでいる時は、唯一動いているパートの音が裸になるので、デコボコしたり上手くレガートで弾けなかったりすると目立ってしまう。
このような目立つところでこそ、上記の奏法を身につけていることが望まれます。
筆者は昔、譜例のようなパッセージを弾く度に「響きを横へつなげて、一音一音にならないで」と注意されていました。
どうすればそのように弾けるのか教えてはもらえるものの、なかなか感覚をつかめないでいました。
そんな中、上記の文章を見つけたことで「音が見え過ぎないで」の意味を腑に落として練習へ向かうことができたのです。
・ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法 著 : 大西愛子 / 全音楽譜出版社
‣ 10. 用いるべき動作は、音型ごとにだいたい決まっている
「シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現」 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
という書籍に、レガートについての以下のような記述があります。
グループの弾き始めでは手首・手・腕を比較的低く構え、弾き終わりでは高くする。これが例外なき大原則である。
(中略)
腕を持ち上げる度合いは、いつもの要因で決まる。
グループが黒鍵と白鍵のいずれで終わるのか、そのパッセージが鍵盤のどの位置にあるのか、その指でグループを弾き終えるのかといった要因である。
(抜粋終わり)
この解説は重要な点を突いています。
すでにできる奏者にとっては当たり前のことのようですが、これを言語化してくれている書籍はかなり限られているのです。
ドビュッシー「ベルガマスク組曲 1.プレリュード」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、76-77小節)
右手も左手も1拍ずつスラーがかけられたカタマリを連続して演奏していきます。
右手のパッセージでやってみると特に分かりやすいでしょう。
スラーのはじめの音では手首が入り(ダウン)、4音ひとかたまりを演奏する中でだんだんと手首を上げていきます(アップ)。
手首を山の形にするのではなく「手の甲も一緒に上げていく」というイメージを持ってください。
手首を上げていくのはアップの動作なので、次のスラーはじまりの音をダウンで演奏する準備をしていることにもなる。
この繰り返しで、レガートのカタマリ同士をつないでいくわけです。
仮にですが、ダウンとアップを逆の動作にして弾いてみてください。弾きにくくて仕方ないはず。
つまり、「用いるべき動作は、音型ごとにだいたい決まっていて、それはすでに楽譜に書かれている」ということ。
あまりにも弾きにくいので逆の動作で弾く方はいないと思いますが、手首を完全に固定して弾いてしまう方は時々見られます。
先程も書いたように、音型ごとに用いるべき動作というものがあるので、譜例のところで手首を固定して懸命にさらっていても、一向に上手く弾けるようにはなりません。
仮に弾けるようになったとしても、もっとラクに弾ける方法はあるということになります。
手首を使うといっても数cmの世界であり、やり過ぎたらただのムダな動作になってしまいます。
上記の譜例を使って、まずは、手首を固定したまま弾いてそのやりにくさを体感してみてください。
そして、本項目を参考に少しずつ手首を使って「やりにくさが無くなる中で、一番動作が少ないポイント」を見つけましょう。
・シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
‣ 11. 弦楽器のポルタメントのような表現をピアノでつくる方法
ポルタメントの意味から確認しておきましょう。
演奏や歌唱において、ある音から次の音へ移る際、跳躍させずに急速に滑らせるように音間を移行していく奏法・唱法
(抜粋終わり)
①
上記抜粋の「跳躍させずに」という部分には様々な定義が存在し、跳躍してから次の音へずり上げるだけの分類もあります。
②
ピアノにおける「ポルタメント(ポルタート)」という用語には、スタッカートにスラーがかかった表現のことを指す場合もあります。
ポルタメントとポルタートはほんらい別物ですが、ピアノ分野の専門書では、かなり有名な書籍でもポルタメントとポルタートを同一視しているものがあります。
本記事ではそのポルタメント(ポルタート)については扱いません。
弦楽器などではポルタメントの表現を比較的たやすく取り入れることができます。
一方、ピアノのように一つの鍵盤で出せる音程が固定されている場合は、どのように表現すればいいのでしょうか。
半音階で2-3音だけを軽くすばやく引っかける方法もありますが、それだと音楽自体が大きく変わってしまいます。
もっと手軽なやり方は、以下の譜例のように弾く方法。
譜例(Finaleで作成)
はじめに発音した音を保持しておき、次の音が発言されたら、まもなく、はじめの音を消すようにする。
このようにすると、少しポルタメントがかかったような効果を得ることができます。
これも、レガート・カンティレーナの応用と言えますね。
ダンパーペダルを使ってしまうとニュアンスがつきにくいので、ノンペダルのところで必要に応じて取り入れてみましょう。
‣ 12. テヌートの連続とレガートの違いとは?
音楽演奏において、テヌートとレガートの違いは非常に重要であり、特に「テヌートの連続」と「レガート」は、一見似ているように見えて、実は全く異なる演奏表現となります。
以下の記事では、その違いを詳しく解説しています。
【ピアノ】テヌートの連続とレガートの違いとは?演奏法と使い分けのポイント
► 終わりに
本記事で紹介したテクニックは、すぐに完璧に習得できるものではありません。
自身の耳をよく使って練習することが最も大切です。
一音一音に命を吹き込むレガート奏法を追求してみてください。
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