【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法⑤ ~メロディの音程関係を調べる~
► はじめに
音楽を聴いて「なぜこの旋律は魅力的なのか」と感じたことはありませんか?
メロディの奥深さは、音と音との関係性にあります。
本記事では、音楽の神秘を紐解く、最も基本的で本質的な分析手法をご紹介します。
► 対象者など
こんな方におすすめ
・音楽をより深く理解したい方
・表現の引き出しを増やしたい方
・感覚的な音楽理解に頼り過ぎず、分析的アプローチへも踏み出したい方
前提レベル
・バイエルなどの楽譜が読める程度
► メロディラインの理解の重要性
メロディ分析は単なる技術的作業ではありません。
それは、作曲家の感情の流れ、音楽的な物語を理解する鍵なんです。
音の進行には、それぞれ固有のエネルギーと感情があります:
・同音連打:平穏、静止
・順次進行:なだらか、穏やか
・跳躍進行:緊張、興奮
これらの要素を読み解くことで、音楽の本質的な表現を掴むことができます。
順次進行 → ある音が、2度の音程で次の音へ進むこと
跳躍進行 → ある音が、3度以上の音程で次の音へ進むこと
「楽式論」著:石桁真礼生 音楽之友社 より重要な文章を紹介しておきましょう。
・同音の音に進行する場合は全く緊張も力も不要で、全くの平穏さ
・順次進行はエネルギーが少なくてすみ、平静な、なだらかな感じを伴う
・同じ順次進行でも、下降の場合は全くエネルギーを不要とする
・跳躍上昇では、音程が広ければ広いほどエネルギーが必要で、興奮と緊張をもたらす
・跳躍進行でも下降する場合、やはりエネルギーは少なくてすむ
(抜粋終わり)
もちろん、「リズム」「強弱」「テンポ」などによっても随分と印象は変わりますし、
ここで抜粋した内容は絶対的なものではありません。
しかし、音の進行によるエネルギーの観点としては、最も基本的なものとなります。
► 習得できるスキル
本記事を読むことで、以下のような実践的な音楽分析能力を身につけることができます:
・メロディの音程進行から感情的な変化を読み取る力
・音楽的な緊張と弛緩のメカニズムを理解する能力
・楽曲の感情表現を分析的に解釈するスキル
・演奏や創作の表現の深みを引き出すための音楽的洞察力
► 具体的な分析方法
実例で解説
モーツァルト「メヌエット ト長調 K.1」を例に説明します。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-8小節)
【A】
・下行だが、1オクターヴの大きな跳躍をしていて表情的
・アウフタクトの「つかみ」として印象に残る表現
【B】
・Aのエネルギーとは対照的に、順次進行による滑らかな表情
・順次進行による下行という最もエネルギーを必要としない動きが、フレーズ終わりに来ている
その後、A・Bが同型反復で繰り返されますが、
メロディ全体が2度音程下行して反復するために、ややエネルギーは下がって響きます。
【C】
・跳躍中心で、3音毎に3度音程上行、6小節目へ入ると下行して落ち着く
・跳躍の連続から、1-8小節の中では一番運動性が高く、緊張感も高い
【D】
・Cの運動性の高さをおさめるかのように、Dは順次進行による下行
【E】
・3連音符が入ってきてリズムの細かさはあるが、順次進行による下行のみで平静な表情
・1-8小節というひとカタマリの楽節をおさめるにふさわしい、感情的なだらかさ
トリルなどの装飾的な要素はいったん外して、幹の音を見るようにすると、
そのメロディが持つ本来の姿が見えてきます。
こういったことを読み取ると、解釈の手がかりになりますね。
例えば:
・AよりもBの方が強くならないよう、平然と弾く
・Cは運動性が高いので、締めくくりのDのところまで一息で弾く
・Eでは順次進行による下行のみの特徴を活かして、大きな表情をつけずにサラッと弾く
など。もちろん、どのように解釈を巡らせても間違いではありません。
メロディの音程関係を調べる中で感じたことを、素直に表現してください。
この分析方法の有効性は、あらゆる時代の楽曲分析の時にも、原則として普遍的。
まずは、上記譜例のようなごくシンプルな作品で学習を進めれば、間違いありません。
► 実践課題
同じく、モーツァルトの初期メヌエットより「メヌエット ヘ長調 K.5」のメロディを使って、
メロディの音程関係を調べる練習をしてみましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)
この課題に唯一の答えはありません。
メロディの音程関係を調べる中で感じたことを、そのまま書き出してみましょう。
【解答例】
【A】
・3連符の連続で動きが細かく、順次進行だが上行もしていき、運動的でエネルギッシュ
・5度上の到達点まで上がっていくために、1小節ひとつで持っていくエネルギー
【B】
・Aのエネルギーとは対照的に、順次進行による下行の滑らかな表情
・この滑らかな表情により、A-Bという2小節のカタマリをひとつにまとめている
【C】
・譜例の箇所では唯一の跳躍進行で、上行でもあるため、強いエネルギーと緊張感
・このエネルギーにより、1-4小節の小クライマックスが3小節目の頭にくることが明確化
【D】
・開始部分は跳躍直後でエネルギーが高いが、順次進行による下行のみで平静な表情
・1-4小節という小さなカタマリをおさめるにふさわしい、感情的なだらかさ
► 困ったときは
よくある質問と解決方法
Q1: 音程関係は調べたが、何も思い付かない
・それをピアノで弾くことも取り入れてみる
・上記の書籍抜粋文章をもう一度読んでみる
・メロディラインをマーカーなどで結んでみて、よりはっきりと視覚化してみる
► 次回予告
次回は「クライマックスの位置を調べる」について解説します。
具体的な内容:
・楽曲におけるクライマックスとは何か
・クライマックスの位置を知るメリット
・あらゆる楽曲は、頂点までどのような工夫をもって到達しているのか
本記事で扱った、モーツァルト「メヌエット ヘ長調 K.5」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【モーツァルト メヌエット K.4 K.5】徹底分析
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