【ピアノ】シューマン「サンタクロース」の楽曲分析:セクション毎の特徴に着目して

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【ピアノ】シューマン「サンタクロース」の楽曲分析:セクション毎の特徴に着目して

► はじめに

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-12 サンタクロース」について、楽曲構成と各セクション毎の特徴を詳しく分析していきます。

 

► シューマン「Op.68-12 サンタクロース」の分析

‣ 楽曲構成

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-12 サンタクロース」

譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

 

本作品は「三部形式の楽節群より成る、複合三部形式」で構成されており、以下のような構造となっています:

A(1-24小節)
  ├─ a(1-8小節)
  ├─ b(9-16小節)
  └─ a(17-24小節)
B(25-48小節)
  ├─ a(25-32小節)
  ├─ b(33-40小節)
  └─ a(41-48小節)
A’(49-72小節)
  ├─ a(49-56小節)
  ├─ b(57-64小節)
  └─ a(65-72小節)

 

構造上の特徴:

・各部分が8小節単位の規則的な構造を持つ
・各セクション内部でaba形式の三部形式を形成
・A’セクション(49-72小節)では、Aセクションと異なり57-72小節の繰り返しがない
・それ以外はAセクション(1-24小節)と全く同様
・全体として対称的な構造配置

 

‣ セクション毎の特徴把握①:「リズムや音の形」の分析

 

Aセクション、A’セクションの特徴:

・リズム的特徴
 - 4小節単位で1小節分の16分音符が規則的に挿入

・音の形の特徴
 - オクターヴユニゾンと重音の交互配置

 

Bセクションの特徴:

・リズム的特徴
 - 継続的な16分音符の使用(47小節2拍目-48小節目以外)

・音の形の特徴
 -「多声的な書法」の採用
 - 両手での和声構築による重層的なテクスチャー

 

譜例2(25-29小節)

ここで言う「多声的な書法」とは

16分音符の動きの中に、軸となるメロディ音(レッド音符)や軸となるハモリも兼ねたバス音(ブルー音符)が内包されています。このような書法は、一つの声部の中での多声表現と言えるでしょう。AセクションやA’セクションに出てくるトリルを書き譜にしたような16分音符の意味とは異なることに着目してください。

 

‣ セクション毎の特徴把握②:「ダイナミクス」の分析

 

(再掲)

Aセクション、A’セクションのダイナミクス:

1. アクセントの使用法

・くさび形アクセントによる規則的な強調
・1-3小節では「La Do La Do La Do」の潜在的メロディの強調
f の3連続使用による特徴的な表現(4小節目、24小節目など)

2. ダイナミクスの構造

・アクセントによる階層的な強弱設計
・4小節単位でのダイナミクスパターンの形成

 

Bセクションのダイナミクス:

表現的特徴:

・なだらかな強弱変化
・長いスラーと結びついたダイナミクス処理
・よりリリカルな表現を可能にする強弱設計

 

つまり、セクション毎の特徴は以下のようにまとめられます:

・Aセクション、A’セクションは、アクセントを入れる位置でダイナミクスを聴かせていく音楽
・Bセクションは、ダイナミクスの松葉と長いスラーが出てくる、表情的なウタの音楽

 

Aセクション、A’セクションの特徴である「アクセントを入れる位置でダイナミクスを聴かせていく音楽」とはどういうことなのか、もう少し詳しく見ておきましょう。

 

くさび形アクセントの位置に着目してください。これらのアクセントの音を取り出すと、「La Do La Do La Do」というメロディが隠されています。Bセクションに出てくるような多声的な表現とは別のものですが、アクセンテーションの位置が主要メロディの抽出であると同時にリズム表現でもあります。

さらに、4小節目に見られる3つの f はアクセント表現であると解釈できます。なぜなら:

・24小節目に出てくる f の3連続使用の表現は、17小節目から始まっている ff の中でのこと
・しかし、f の部分は音も厚くなっており、音域的にも楽曲の最高音であり、ダイナミクスを f に落とすとは考え難い
・そこで、「3つを言い切るように弾く」という意味のアクセントと解釈したほうが自然
・楽曲中のf の3連続使用部分は全てアクセント表現と解釈する

 

1-3小節までのアクセントと、4小節目のファンファーレのような言い切るアクセントは、その入れ方からして全く別の表現であることに注意しましょう。また、Aセクション、A’セクションではこの全4小節が繰り返されていきますが、12,16,20小節のように f が書かれていない部分など、アクセントの在り方に多少のバリエーションが見られる点にも着目してください。

 

‣ セクション毎の特徴把握③:「音域」の分析

 

(再掲)

音域的特徴:

特徴的な音域使用:

・24,72小節目での最高音の効果的な配置
・曲頭から出てくるトリルでの最低音の使用
・楽曲全体を通して、両手の基本的な近接配置による統一感

 

ここまでは、セクション毎の特徴把握として「相違点」を見てきましたが、特徴的な「共通点」についても見ておきましょう。

 

11,15,33-36,59,63小節目のように両手の音域が離れる部分もあります。一方、セクション毎の共通点について、「基本的には両手の音域は近くにいる」という特徴があります。なぜそのようになっていると思いますか?それは、書法の特徴から読み取れます:

・Aセクション、A’セクションでは、1オクターヴユニゾンの書法が多用
・Bセクションでは、両手で一つのハーモニーを作る書法が多用

したがって、これらの書法が取られている限りは、自然と両手の音域は近くところが多くなって当然ということです。

 

► まとめ

 

シューマンの「サンタクロース」は、明確な形式構造の中に多様な音楽的要素を効果的に配置した作品です。本分析で見てきた各観点から、以下のような特徴が浮かび上がりました:

1. 楽曲構成面での特徴

・三部形式の入れ子構造(ABA’)による複合三部形式という、明確な形式設計
・8小節単位の規則的な構造と、A’での繰り返しの省略による変化
・全体を通した対称的な構成

2. リズムと音の形での特徴

・セクションごとの書法の対比(オクターヴユニゾン/重音 vs 多声的表現)
・AセクションとBセクションでの16分音符の異なる扱い方
 – A/A’:装飾的な使用、4小節単位での規則的な挿入
 – B:多声的な書法における構造的な使用、継続的な使用

3. ダイナミクスでの特徴

・A/A’:アクセントによる構造的な強調と隠れたメロディの表出
・B:なだらかな強弱変化による歌唱的な表現
・セクションごとの異なるダイナミクス設計による音楽的表情の多様化

4. 音域での特徴

・全体を通した両手の基本的な近接配置
・キメの位置での最高音・地響きのような最低音の効果的な配置

 

これらの要素が有機的に結合することで、作品全体の統一性と多様性が見事に実現されています。特に、各セクションでの書法やアプローチの違いが、楽曲全体に豊かな表情をもたらしていることが、本分析を通して明らかになりました。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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