【ピアノ】「弾けているのに音楽的でない」と言われる理由とその解決法
► はじめに
ある程度曲が弾けるようになってきたのに、「なんとなく音楽的に聴こえない」「機械的な演奏に聴こえる」と感じたことはありませんか。あるいは、人に聴かせたときにそのような指摘を受けたことがある方もいるかもしれません。
音楽的でない演奏には、大きく分けて2つのパターンがあります:
・すべての音を平等に扱ってしまっている演奏
・変なところに変な間(ま)がある演奏
本記事では、それぞれの具体例と改善のポイントを解説します。
本記事の対象者:初中級〜中級者
► すべての音を平等に扱ってしまっている演奏から脱する
音楽的な演奏とは、すべての音に同じ重みをかける「強弱のない一本調子」のような演奏ではありません。仮にダイナミクス指示がなかったとしても、音と音のあいだには、自然な強弱の流れや方向性があります。それを無視して均等に弾いてしまうと、どんなに正確に弾けていても「機械的」「のっぺりしている」という印象を与えてしまいます。
‣ 隣り合う音とのバランスを意識する
一つひとつの音を単体で考えるのではなく、前後の音との関係の中で捉えることが重要です。具体例を見てみましょう。
J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第2番 ハ短調 BWV 871 より フーガ」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

1小節3拍目裏に出てくる「低いC音」:
・この音は「直前のG音」や「直後のF音」よりも大きく飛び出てしまうと音楽的に不自然
・流れの中で下降する裏の音だから
そのG音とF音との関係も大切:
・「G音 → F音 → Es音」といったように「2度で下がっていく音階」が内包されていることに着目する
・様々な音で装飾されているだけ
したがって、以下のように美しい階段となるようにバランスを作ると音楽的:
・G音よりもF音がやや小さく
・F音よりもEs音がやや小さく
まとめると:G>F>Esの順に音量を下げていく
強弱記号が書かれていないから全部均等に弾くのではなく、このように音楽そのものが要求するエネルギーを捉えて多少のニュアンスをつけることが音楽的な演奏のコツです。
‣ フレーズの頂点(ヤマ)を意識する
モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 (284c) 第2楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

括弧つきのダイナミクスの松葉は、原曲には書かれていません。しかし、音楽の方向性を考えると実際にはこのように演奏すべきでしょう。
メロディには、重心へ向かっていき、そこから落ち着いていく、という流れがあります。この「ワンフレーズの中の盛り上がりのピーク=ヤマ」を意識しないまま弾くと、すべての拍が同じ重さで並んでしまい、「1拍子の集合」のような印象の演奏になってしまいます。
ヤマを見極めるシンプルな方法として、メロディを声に出して歌ってみることが効果的です。自然に歌えば、どこで盛り上がり、どこで落ち着くかは感覚的に分かるでしょう。楽譜に強弱記号が書かれていなくても、音楽の流れとして「ここはこう演奏するべき」という方向性は存在しています。それを自分で読み取ることが、音楽的な演奏への第一歩だと理解してください。
もっと専門的にヤマを見極める方法を学びたい場合は、以下の記事で紹介している名著「楽式論」で「重心」などの項目を学んでみましょう。
推奨記事:【ピアノ】名著「楽式論」がピアノ学習者に必須な理由:70年を超える影響力
► 変なところに変な間(ま)がある演奏から脱する
もう一つのパターンは、音楽の流れを止めてしまう「不自然な間(ま)」の問題。これは技術的な問題というよりも、音楽のエネルギーの流れを読み取れていないことから生じます。どんなに練習を重ねても、この点を意識しないと自然には改善されにくい部分です。
‣ 音楽が前へ向かっているときは止めない
クレッシェンドやアッチェレランドなど、明らかに音楽が前方向に動いているところで、不自然なタメや間(ま)を入れてしまうことがあります。演奏者本人は「表現」のつもりでも、「音楽が急に止まった」「音楽のエネルギーに反した」ように聴こえます。
具体例を見てみましょう。
ブルーメンフェルド「左手のためのエチュード Op.36」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、43-44小節)

音楽エネルギーの捉え方:
・小音符のところからは、カデンツァ風になっている
・ここの入り、つまり「①(小節の変わり目)」の部分で「間(ま)」をとってしまうと音楽が停滞してしまう
・クレッシェンドで音楽の方向性が示されており、明らかに丸印をつけたFes音が頂点
・そこへ音楽が向かっているのに、その前で一息つかない
・もし待つのであれば、②で待つ
・ノンストップで②へ入ってしまって、それからショートフェルマータ
「ここで止まりたい気持ち」と「音楽が求めている方向性」が一致しているかどうかを、常に確認する習慣を持ちましょう。
‣ rit.からa tempoへの移行を自然につなぐ
rit.(リタルダンド)でテンポを落とした後、a tempoで元のテンポに戻る場面は、多くの楽曲に登場します。この切り替えのタイミングで、境目に不自然な「間(ま)」が入ってしまうのは、最も起こりがちな気をつけるべきことと言っても過言ではありません。
「rit.が終わったから、一呼吸おいて、次の小節から新たに気持ちを整えて弾き直す」という感覚で弾いてしまうと、そこで音楽が一度止まったように聴こえてしまいます。rit.はあくまでも音楽の流れの中でのテンポの変化であり、境目をまたいで音楽はつながっています。区切りではなく、流れの延長として次の音へ進むことを意識してみてください。
・NG例:rit. → 一呼吸(ヨイショ)→ a tempo
・望ましい例:rit. → a tempo(rit.とa tempoの境目を一つの流れの中に捉える)
► 終わりに
「弾けているのに音楽的でない」と感じさせる原因は、大きく以下の2点です:
・すべての音を平等に扱ってしまっている(音の強弱・音楽エネルギーの方向性・フレーズのヤマが意識されていない)
・変なところに変な間がある(音楽エネルギーの流れに逆らった間の取り方をしている)
どちらも、「音楽が何を求めているか」を読み取る力に関わっています。楽譜を音にするだけでなく、音楽の流れや方向性を意識して弾くことで、演奏の印象は大きく変わります。ぜひ日々の練習の中で取り入れてみてください。
本記事の内容をさらに深く理解したい方へ:
・【ピアノ】ダイナミクスの理解と表現技法:完全ガイド
・【ピアノ】アゴーギク関連記事まとめ:音楽表現としての時間の扱い方
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