【ピアノ】単発レッスンで失敗しない事前準備のすべて:初中級者以上向け
► はじめに
普段独学でピアノを学んでいる方が単発(スポット)レッスンを受ける際の事前準備について、筆者自身の経験をもとにまとめました。
本記事は、弾けない部分を弾けるようにするためのレッスンではなく、「すでに弾ける楽曲をさらにブラッシュアップさせるためのレッスン」を受ける段階の学習者を対象としています。
► 準備のポイント
今回は、シューマン「献呈(クララによる編曲版)」をレッスン受ける前提として話を進めていきますが、どの楽曲であっても応用できる考え方です。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
‣ 1. 楽譜上に見えるすべてのものを調べあげる
「とにかく、準備不足」
これは筆者が過去の自身を振り返って痛感することです。
レッスン中に「最初に書かれている Innig, lebhaft. はどういう意味ですか?」などと問いかけられたとき、「分かりません」と答えるのは避けましょう。調べれば分かることを調べていないと、準備への真剣さが疑われてしまいます。
最も危惧するのは、音程とリズムだけを譜読みだと思っているケースです。楽譜の目に見えるすべての要素を調べ尽くすことを心がけましょう。
具体的な調査項目
音楽用語関連:
・楽語の意味と演奏上の解釈
・作曲家特有の記号の意味や表現(モーツァルトの calando は、テンポは下げずダイナミクスのみ下げる など)
原曲が歌曲の場合(「献呈」など):
・歌詞の作者
・歌詞の意味(ネットで拾わず、「シューマン歌曲対訳全集 / 音楽之友社」などの専門書を参照)
・歌詞とピアノ編曲版へのはまり方
・歌曲集の他の曲目の知識
筆者の場合、「作曲をする人として」ピアノを習いに行っていたため、「ここの和声はどうなっている?」などと逆に質問されることもありました。そのため、演奏に必要な最低限の分析のみでなく、もう少し踏み込んだ分析も準備の重要な一環でした。
「どんな問いかけが来るだろうか」と逆算して準備することで、結果的に音楽的理解も深まります。
‣ 2. 学習参考資料の整理をする
レッスン中に「誰の演奏を聴いていますか?」「原曲の歌曲の演奏は聴きましたか?どの演奏家ですか?」などと問われたとき、即答できるように準備しておきましょう。
特に重要なポイント
指導者の録音のチェック
レッスンを受ける楽曲について、その指導者が録音音源を世に出している可能性があります。必ず事前にチェックしてください。「私の演奏は参考になった部分がありましたか?」と聞かれて「聴いていません」と答えると、「それならなぜ私のところに来るのか」と思われてしまうのは当然です。
整理すべき項目:
・参考音源の演奏者名(ピアノ版のみでなく、原曲も)
・分析に使用した資料名
・その他すべての学習参考資料
これらを即答できるよう整理しておきましょう。
‣ 3. 当日暗譜で弾くわけでなくても、暗譜しておく
単発レッスンでは通常、1週間後のレッスンのような切迫した期日ではなく、比較的余裕を持って準備できるはずです。
レッスン当日に暗譜で弾く予定がなくても、暗譜まで完成させて臨むことを目標にしてください。
暗譜レベルまで仕上げることで、楽譜を見て弾く場合でも余裕度が格段に違います。演奏に余裕があると、レッスンで吸収できる量と質が大幅に向上します。完成度の高い状態でのレッスンでは、指導内容もより深いレベルに到達するでしょう。
‣ 4. 原曲歌詞との整合性を確認する
原曲が歌曲であるピアノ作品では、必ず原曲歌詞の意味と区切りを調べ、アゴーギクの付け方と矛盾がないかチェックしましょう。特にシューマン「献呈(クララによる編曲版)」のような原曲に忠実な編曲では、この重要性がより高まります。
よくある問題例:
・本来歌詞の意味が続いているのに、極端にテンポをゆるめて段落感をつけてしまう
・歌詞上必ず呼吸を取る箇所なのに、一気に次へ進んでしまう
これらは、歌詞がなく呼吸なしでも弾けてしまうピアノ演奏特有の問題です。作品への理解の深さや学習への真剣さが、指導者にダイレクトに伝わる部分でもあります。
‣ 5. 録音&チェックを徹底する
日頃から通し練習の録音とチェックを徹底し、自分の耳で聴いても明らかにおかしな箇所はすべて修正してからレッスンに臨みましょう。
効果的な練習サイクル
「録音&チェック → 修正練習 → 録音&チェック → 修正練習」
この繰り返しは確実に演奏力向上につながります。
学習初期段階では「明らかにおかしな部分」に気づけないことも多いでしょう。しかし、この過程を継続することで、「良い部分」と「改善点」の両方において、自身の演奏傾向が見えてくるようになります。
‣ 6. 通し演奏後の対応を準備する
筆者がレッスンで指導する際に行うのが、最初の通し直後の問いかけです。
「自分でどう思いますか?何か問題点はありますか?」
筆者の場合は作曲のレッスンでこれをやっているわけですが、学生時代にピアノを習っていた指導者が毎回この問いかけをしてきて刺激になったため取り入れています。
弾き終わって「はい、指摘をください」という受け身の姿勢は、相手への依存と甘えを示します。自己分析を踏まえて指導者の意見を求めるほうが、学習効果は格段に高まります。
避けるべき残念な回答例:
・「あそこをミスタッチしたのが…」
・「なんかうまく弾けなくて…」
望ましい回答例:
・「後半で疲れが出てしまったので、楽曲全体の体力配分が甘かったと思います」
・「第2部に入る箇所の時間の使い方に迷いがあったのですが、後ほどご指導いただけますか」
このようにスマートに対応できるよう準備しておきましょう。
‣ 7. 音楽面以外での準備
· 7-1. 指導者の演奏会情報をチェック
指導者によっては、レッスン後に自身の演奏会を案内してくることがあります。そのときに以下のような対応は印象を悪くします:
・「伺います → やっぱり予定が合いませんでした」
・「後で確認します → 予定が合いませんでした」
指導者のウェブサイトなどで事前に情報を確認し、声をかけられた際に正確な返答ができるよう準備しておきましょう。
· 7-2. レッスン代の準備
適切なレッスン代の準備方法と渡し方については、以下の記事で詳しく解説しています。
【ピアノ】ピアノレッスン代の上手な渡し方:失礼にならず、自然に
· 7-3. 会場の事前確認
単発レッスンでは初めて訪れる会場がほとんどでしょう。絶対に遅刻を避けるため、以下の準備を行いましょう。
推奨スケジュール:
・最低30分前に会場エントランスを確認
・近くのカフェなどでレッスン時間まで待機
・スマートフォンの充電をキープし、何かあった場合はレッスン時間「前」に連絡
筆者は方向音痴なので、一度確認しておいてもすぐ近くの待機場所から再度その会場へ行けなくなり焦った経験があります。結局間に合いましたが、必ずスマートフォンの充電をキープしておくことが重要です。
到着時の注意点
早く到着してもインターフォンを早々に鳴らすのは厳禁です。前のレッスン生がいれば中断してしまいますし、いなくても空いている時間は次の受講生の時間ではなく「指導者の時間」だからです。
早くてもレッスン時間の5分前になってからインターフォンを鳴らしましょう。10分前では早過ぎます。
► 終わりに
単発レッスンは、普段の独学では得られない専門的な指導を受ける貴重な機会です。十分な準備をして臨むことで、その価値を最大限に引き出すことができます。
本記事で紹介したポイントを参考に、充実したレッスンを体験してください。
推奨記事:
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