【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法④ ~各音の役割分担を把握する~
► はじめに
楽譜を見ると、音符の羅列に圧倒されてしまうことはありませんか?
本記事では、各音符の役割を把握してシンプルに整理していくための指針をご紹介します。
マーカー2色で始められる、初心者の方でも実践できる分析方法です。
► 本記事の対象者と前提知識
こんな方におすすめ
・楽曲の構造を理解したい方
・各音の役割を見抜けるようになりたい方
・表現力を高めたい方
必要な準備物
・書き込み可能な楽譜
・マーカーか色鉛筆 2色
・1日30-60分の練習時間
► 音楽における役割分担とは
音楽における役割分担のうち、もっともシンプルなのは、
「その箇所では右手と左手がそれぞれ何の役割になっているか」ということです。
例えば、
「右手が伴奏に変わって、左手にメロディが来た」などといったケースは、役割分担の交代。
もっと細部へ踏み込むと、以下のような役割が見られます:
・旋律(メロディ)
・対旋律(カウンターメロディ)
・内声
・バス
実際の楽曲では、これらの素材がはっきりと出てくる場合もあれば、そうでない場合も。
後ほど具体例で解説します。
► 習得できるスキル
本記事で学習することで身につく能力
・それぞれの音符の役割を把握する力
・あらゆる作品を多声体で把握する力
・作曲家の意図を理解するための分析的視点
► 役割分担を見抜くことの重要性
役割分担を見抜くことは、演奏に直結する楽曲分析です。
どこをいちばん聴かせればいいかということが明確化し、
バランスをとっていくことができるから。
聞いたところ当たり前のことのようですが、
メロディよりも伴奏が目立ってしまっていたりと、音楽を立体的に捉えられていないケースは散見されます。
また、役割分担を見抜いて楽曲を多声で把握する力がつくと、楽曲を立体的に捉えられるようになるので、
作曲・編曲の力も格段に向上するでしょう。
役割分担を理解することで、以下のような音楽的な洞察が得られます:
・聴かせるべき音と、隠してもいい音の区別
・楽曲全体の構造理解
・作曲家の意図する立体的な音響の理解
► 具体的な分析方法
‣ 実例で解説
ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第1楽章」を例に説明します。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-16小節)
基本の手順
1. それぞれの音の役割を考える
2. メロディとバスだけでも見つける
3. マーカーで色付けする(メロディを赤色、バスを青色、それ以外は塗らない)
赤色で示したメロディの把握については問題ないと思います。まずこれが、重要な役割分担の一つ。
他の役割について小節毎に見ていきましょう。
【1-4小節】
青色で示した最低部がバス。
団子和音になっており声部分けされていませんが、そのバスの上に別の音が乗っていますね。
これらは内声です。
内声というのは、最上声や最下声などの両端の音に囲まれている、内側にある音であり、
多くの場合、ハーモニーの足りない音を満たすために用いられます。
2小節2-4拍目は、内声とバスがいなくなりましたね。
このようなやり方も書法の一つ。
この部分はメロディのソロということになります。
3-4小節も同様。
【5-6小節】
ここからは、おなじみアルベルティ・バス(いわゆるドソミソ伴奏)が出てきますが、
アルベルティ・バスというのはただの伴奏ではありません。
青色で示したように、「バス+内声」に分解可能。
バスの音を青く色付けするだけでも構いませんが、
細い青色で示したように、次のバス音まで伸びていると想定して色付けしても構いません。
【7-8小節】
ここでは、メロディとバスのみになり、内声が不在となります。
これもまたよく出てくる表現。色付けをしない音符はありません。
(再掲)
【9-12小節】
ここは少し難しいのですが、
バス音が同じ音で保たれている書法(保続)なので、譜例のような色付けになります。
10小節目のバスA音は内声と共有されている音と解釈すればいいでしょう。
その後はまた、メロディのソロです。
11-12小節も同様。
【13-16小節】
ここからは、内声とバスが断片的に出ては消えてを繰り返しますが、
これまでにすでに出てきている書法なので、迷うことはないでしょう。
上記の譜例では、色分けをするために様々な書法を学びました:
・バスと内声が団子和音になっている書法
・バスと内声が不在になり、メロディがソロになる書法
・アルベルティ・バスの書法
・内声が不在になり、メロディとバスの2声のみになる書法
・バスに保続が出てくる書法
ここまでを理解できたら、たくさんの書法における役割分担を見抜けるようになります。
理解が浅い場合は、次の実践課題へ進む前に復習しておきましょう。
役割分担として、以下の3つを見抜く練習をしました:
・メロディ
・内声
・バス
高度な楽曲になると、ここへ「対旋律」なども入ってくることがありますが、
入門段階では、「メロディとバスと、それ以外」と思っておけば十分分析できます。
大きなポイントは、
今まで単に「伴奏」だと思っていた音符群を「内声+バス」という視点で見るクセをつけることです。
‣「メロディ+内声+バス」へ分解できないケース
J.S.バッハ「インヴェンション第1番 BWV772」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-2小節)
この作品のように、対位法で書かれた作品では
「メロディ+内声+バス」ではなく、「メロディ+メロディ」というように複数の「線」で組み立てられています。
したがって、作品によっては今回のような役割分担分析はできませんが、
その場合は、「線」が何本あるのかを見ていけばOKです。
また、「メロディ+内声+バス」と「メロディ+メロディ」のところが、一曲の中で両方出てくるケースもあります。
例えば、以下の譜例をご覧ください。
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-16 初めての悲しみ」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、19-25小節)
点線で示した部分は2本の線で書かれており、対位法的書法。
それ以外の左手パートが出てくる部分は、「メロディ+内声+バス」へ分解できます。
► 実践課題
ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第1楽章」の残りの小節を使って、
役割分担を見抜く練習をしてみましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、25-34小節)
分析の手順:
1. それぞれの音の役割を考える
2. メロディとバスだけでも見つける
3. マーカーで色付けする(メロディを赤色、バスを青色、それ以外は塗らない)
【解答例】
楽曲前半部分の色分けをした時に出てこなかったことは、
右手パートに内声の音がきている部分があることのみです。
► 困ったときは
よくある疑問と解決のヒント
Q1: 役割分担が見つけられない
・まずは、メロディを見つけようとしてみる
・場所によっては、メロディ、内声、バスのいずれかが不在になることもある
・「メロディ+メロディ」で書かれているところでは、内声やバスの役割はない
Q2: 分析結果の活用方法が分からない
・メロディとバス以外の音は控え目に弾くことを前提とする
・常に、各役割の主従関係の音量バランスを意識する
・他の作品を譜読みするときも、必ず、多声で捉えるクセをつける
► 次回予告
次回は「メロディの音程関係を調べる」について解説します。
具体的な内容:
・「同音連打」「順次進行」「跳躍進行」の意味を知る
・メロディがもつ意味を理解する方法
・演奏解釈へのつながり
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1)」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【ベートーヴェン ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1)】徹底分析
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