【ピアノ】クレメンティ ソナチネ Op.36-1 第1楽章の分析:楽曲分析の基礎
► はじめに
クレメンティの「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」は、古典派の作曲技法を学ぶ上で理想的な教材。
本記事では、この作品の分析を通じて、楽曲分析(アナリーゼ)の基礎的な視点を身につけていきます。
シンプルな構造を持つこの作品には、より複雑な作品を理解するための重要な要素がコンパクトに詰め込まれています。今回は冒頭の7小節を詳しく見ていきましょう。
► 分析の基礎
‣ 1. 形式的特徴
基本構造:
・基本的に2小節単位、4小節単位で音楽が展開
・5-7小節(経過句)に変則的な3小節構造が現れる→音楽の流れを変える効果
・ソナタ形式の提示部における第1主題から第2主題への移行部分
小節構造の意図的な変化:
2小節・4小節という規則的な構造から、3小節構造(5-7小節)への変化には明確な意図があり、この「ずれ」が、8小節目からの第2主題への効果的な導入として機能しています。
‣ 2. メロディの分析
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-7小節)
1-4小節目のメロディ構造:
・1-2小節:和声音による分散和音
– C-E-G音のみを使用
– 安定感のある響き
・3-4小節:非和声音を含む順次進行
– 和声音と非和声音の混合(小さな⚪︎で示した音が和声音)
– より流動的な響き
– バス音との関係で和声音・非和声音を判別可能
6-7小節目のメロディ構造:
・「軸の音(◯で囲んだ音」を中心とした装飾的な動き
・主要な音(軸の音)と装飾音のジグザグ階層構造
・演奏への応用:軸の音を際立たせ、装飾音は控えめに
‣ 3. 伴奏部分の役割
(再掲)
リズム構造の段階的な変化:
低音というのは非常に「リズム要素」を感じるパートです。
・1-2小節:1小節1つのバス音によるパルス
・3-4小節:1小節2パルス
・5小節目:1小節1パルス
・6小節目:1小節2パルス
・7小節目:1小節4拍パルス
この段階的な変化は、第2主題に向けての推進力を生み出しています。
4小節目の左手は8分音符で動いていますが、これは一息で演奏するので、8分音符全体で1つ分のパルス。
1-2小節と3-4小節ではリズム骨格のつくりが異なります。仮に、1-4小節までずっと「1小節1パルス」だったとしたら、おそらく退屈した音楽になってしまうでしょう。
7小節目は「1小節4パルス」となっています。したがって、7小節目は「音楽の進行感」が強い。ハーモニーも移り変わりが細かくなっていますね。「8小節目からの第2主題に向かって音楽の進行感を強めてせきこんでいる」ということが分かります。
もちろん、テンポを速めるという意味ではなく、音楽の成り立ちの話です。
特徴的な「追っかけ」技法:
4小節目:
・右手の動きを左手が模倣
・つなぎとしての機能
・次のフレーズへの自然な導入
‣ 4. 和声進行と調性
(再掲)
基本的な和声進行:
・1-3小節目:T(トニック)で安定
・4小節目:D(ドミナント)への移行
・5小節目:Tへの解決
・6-7小節目:ト長調への転調
転調の技法:
・Fis音の導入による転調の示唆
・一般的な臨時記号の役割:
1. 非和声音としての使用(「エリーゼのために」の一番最初のDis音 など)
2. 「転調」、もしくは一時的な「部分転調(調性の拡大)」の指標 → ここでは、こちらに該当
► 分析の応用と発展
(再掲)
この7小節間に見られる要素は、後の展開部でより複雑な形で現れます。これらの基本的な要素を理解することで、より複雑な楽曲分析への足がかりとなります。
演奏への応用:
分析から得られた知見を演奏に活かすポイント:
・軸の音とそれ以外の強弱バランス
・リズム構造の変化に応じた拍感の表現
・追っかけにおける主従関係の応用(従の方が大きくならないように)
► まとめ
クレメンティのこのソナチネは、その明快な構造の中に、古典派音楽の基本的な要素を含んでいます。これらの分析視点は、より複雑な作品を理解する際の基礎となります。
本記事では詳しく触れませんでしたが、この作品はソナタ形式で書かれています。
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