【ピアノ】ピアノ音楽事典系5冊の徹底比較レビュー:学習目的別の選び方ガイド
► はじめに
ピアノ学習者にとって、楽曲の背景や歴史的文脈を理解することは楽曲理解を深める重要な要素です。しかし、ピアノ音楽に関する事典や解説書は数多く出版されており、どれを選べばいいか迷われる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ピアノ音楽事典系の代表的な5冊を詳細に比較し、それぞれの特徴と適した学習目的を明確にしていきます。
比較対象の5冊:
・ピアノ音楽史事典 著:千蔵八郎 / 春秋社
・名曲事典 ピアノ・オルガン編 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
・鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.Kirby 訳 : 千蔵八郎 / 全音楽譜出版社
・ピアノ音楽事典 作品篇 著:分担執筆 / 全音楽譜出版社
・ピアノ・レパートリー事典 著:高橋淳 / 春秋社
► 基本情報比較表
書籍名 | 著者 | 出版社 | 初版年 | ページ数 |
---|---|---|---|---|
ピアノ音楽史事典 | 千蔵八郎 | 春秋社 | 1996年 | 674ページ |
名曲事典 ピアノ・オルガン編 | 千蔵八郎 | 音楽之友社 | 1971年 | 1070ページ |
鍵盤音楽の歴史 | F.E.カービー(訳:千蔵八郎) | 全音楽譜出版社 | 1979年 | 804ページ |
ピアノ音楽事典 作品篇 | 分担執筆 | 全音楽譜出版社 | 1982年 | 839ページ |
ピアノ・レパートリー事典 | 高橋淳 | 春秋社 | 1988年 | 504ページ |
► 各書籍の特徴と位置づけ
‣ 1. ピアノ音楽史事典 著:千蔵八郎
特徴:
・歴史解説と作品解説が一体化した構成
・バロック時代からモダンまで約300年のピアノ音楽史を網羅
・有名作品からマイナー作品まで幅広く収録
・連弾や2台ピアノ作品も詳しく解説
強み:
・音楽史の流れの中で作品を理解できる
・教材的作品も外さない実用性
制約:
・1996年以降の現代作品は未収録
・演奏ヒントや詳細分析は含まれず、各曲の解説は数行程度と簡潔
適用場面:
・音楽史を体系的に学びたい方
・作品や作曲家の歴史的背景学習の並行を重視する方
・ピアノ音楽史事典 著:千蔵八郎 / 春秋社
‣ 2. 名曲事典 ピアノ・オルガン編 著:千蔵八郎
特徴:
・1070ページの大容量
・173人の作曲家、997曲の楽曲を収録
・4745個の豊富な譜例
・明確な選曲基準による厳選された内容
強み:
・楽曲の基本情報が確実に記載
・視覚的に楽曲特徴を把握できる譜例の豊富さ
制約:
・演奏ヒントや詳細分析は含まれない
・編曲作品は原則として除外
適用場面:
・楽曲の基本情報を確認したい方
・譜例が豊富な事典を望んでいる方
名曲事典 ピアノ・オルガン編 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
‣ 3. 鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.Kirby 訳 : 千蔵八郎
特徴:
・著名な書籍の邦訳版
・本格的な音楽史学習に特化
・譜例は少なめで文字情報が中心
・楽曲ありきの詳細な解説スタイル
強み:
・鍵盤音楽史の専門書として高いレベルの内容
・多くの同類書籍の参考資料に挙がっている名著
・タイトル的には歴史書の位置付けだが、楽曲事典的な使用にも適している
制約:
・その楽曲を知らない読者には読み進めにくい
・初心者には敷居が高い構成
適用場面:
・本格的に音楽史を学びたい、ある程度ピアノ音楽史の知識がある方
・洋書からの知識も取り入れたい方
・鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.カービー 訳 : 千蔵八郎 / 全音楽譜出版社
‣ 4. ピアノ音楽事典 作品篇 著:分担執筆
特徴:
・楽曲解説のみならず、主要作品に関しては楽曲分析から演奏ヒントまで
・同系統の書籍と比較して、一曲あたりの解説量が多い
・分担執筆による専門性の高さ
・約850曲の厳選された収録
強み:
・主要作品に関しては演奏に直結する具体的情報
・目次が作品表として機能する使いやすさ
制約:
・網羅性よりも深度重視
・マイナー楽曲の調査には不向き
適用場面:
・演奏する作品について実践面も含めて知りたい方
・軽度の楽曲分析や演奏ヒントを求める方
・ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社
‣ 5. ピアノ・レパートリー事典 著:高橋淳
特徴:
・15段階の詳細な難易度表示
・独奏曲から協奏曲まで幅広くカバー
・340名の作曲家の作品リスト
・欧米主要出版社の解説資料を収載
強み:
・楽曲データベース機能
・客観的な難易度指標
・実用的な出版社情報
制約:
・作品解説はごく簡潔
・邦人作品の扱いが限定的
適用場面:
・難易度に合った作品を探したい方
・網羅的な作品リサーチをしたい方
ピアノ・レパートリー事典 著:高橋淳 / 春秋社
► 活用のヒント
‣ 学習目的別おすすめマトリックス
音楽史を学びたい方:
・本格派:鍵盤音楽の歴史
・実用派:ピアノ音楽史事典
選曲の参考にしたい方:
・網羅性重視:ピアノ・レパートリー事典
・基本情報重視:名曲事典 ピアノ・オルガン編
辞書的に使いたい方:
・データベース機能:ピアノ・レパートリー事典
・学術的価値:鍵盤音楽の歴史
ピアノ初心者の方:
・バランスの良さ:ピアノ音楽史事典
・豊富な譜例による視覚的理解:名曲事典 ピアノ・オルガン編
ある程度音楽史や楽曲の知識が深い方:
・学術的深度:鍵盤音楽の歴史
・分析的視点:ピアノ音楽事典 作品篇
演奏の参考にしたい方
・一択:ピアノ音楽事典 作品篇
‣ 組み合わせ活用のすすめ
これらの書籍は相互補完的な関係にあるため、複数冊の組み合わせ使用がおすすめです:
基本セット
ピアノ音楽史事典 + ピアノ・レパートリー事典 → 歴史的理解 + 網羅的データベース
実践重視セット
ピアノ音楽事典 作品篇 + 名曲事典 ピアノ・オルガン編 → 楽曲分析や演奏ヒント + 基本情報
学習の一貫性重視
ピアノ音楽史事典 + 名曲事典 ピアノ・オルガン編 → 同著者(千蔵八郎氏)の書籍の組み合わせによる整合性
► その他の類書について
今回比較した5冊以外にも、ピアノ学習者にとって有用な関連書籍があります。メインの5冊との違いや特徴を明確にして、補完的な選択肢として紹介します:
新訂 ピアノの学習 著:長岡敏夫 / 音楽之友社
・ページ数:475ページ
・対象レベル:初級~上級者
・特徴:15段階難易度付き、また、「ピアノの学習および演奏に関する諸問題」という有益な章も収載
バロック時代から邦人作品も含む現代に至るまでのピアノ作品について簡潔な解説と15段階の難易度を示した百科事典的な構成となっています。「ピアノ・レパートリー事典」と似た機能を持ちますが、より教育的な視点から書かれており、ピアノ学習の方法論についても言及している点が特徴です。
ピアノ学習ハンドブック 著:千蔵八郎 / 春秋社
・ページ数:249ページ
・対象レベル:初級〜上級者
・特徴:教材選択のための総合ガイド
通常の楽曲についても取り上げられていますが、今回比較した5冊では詳しく扱われていない段階別教本情報などが充実しています。楽曲事典というよりも、ピアノ学習の道筋を示すガイドブックとしての性格が強い一冊です。
・最新名曲解説全集 独奏曲シリーズ / 音楽之友社
・作曲家別名曲解説ライブラリー / 音楽之友社
これらは代表的な名曲解説集で、ピアノ以外の楽器も含む総合的な音楽事典です。両著の解説文言は重複している点に注意が必要ですが、作品背景について簡潔な情報が得られます。ピアノ専門ではないものの、音楽全般の知識を深めたい方には有用な選択肢となります。今回比較した5冊の中では、「名曲事典 ピアノ・オルガン編」に近い内容となっています。
補完的活用のすすめ:
・メイン5冊 +「新訂 ピアノの学習」→ 難易度情報の二重確認
・メイン5冊 +「ピアノ学習ハンドブック」→ 楽曲選択+教材選択の総合学習
・メイン5冊 +「名曲解説全集」→ ピアノ特化情報+音楽全般の知識
► 終わりに
ピアノ音楽事典系の5冊は、それぞれ異なる特徴と強みを持っています。最も重要なのは、自分の学習目的と現在のレベルに適した書籍を選ぶことです。いずれの書籍も、ピアノ学習者の書棚に加える価値のある貴重な資料です。
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