【ピアノ】バスラインの声部分けを理解して表現力を高める方法
► はじめに
ピアノ曲を演奏する際、楽譜に書かれた音符の「声部分け」に気づくことがあります。バスラインが別の声部として明確に表記されることは多く、これには作曲家の明確な意図が込められているケースがほとんど。
本記事では、シューマンの「Op.68-20 田舎の歌」を例に挙げ、バスラインが声部分けされる理由について掘り下げていきます。
► 声部分けとは
ピアノ楽譜における「声部分け」とは、一つの譜表上に複数の独立した音楽的ラインを明確に区別して表記する方法。この表記法は通常、音符の符尾方向の変更によって視覚的に区別され、各声部が独自の音楽的役割を持っていることを演奏者に伝えます。声部分けされた音は、ただの和音の一部ではなく、独立したラインとして把握されることになります。
右手パートを声部分けした例:
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-1 メロディー」
譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、11-12小節)
► バスラインの声部分け
‣ バスラインの声部分けの重要性を理解するのに適した例
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-20 田舎の歌」
譜例2(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
楽曲構造:
Aセクション:1-16小節
Bセクション:17-24小節
A’セクション:25-40小節
注目すべきは、Bセクション(17-24小節)に見られるバスラインの声部分けです。この部分では、左手が和音を演奏しながらも、下声部(バス)が独立したメロディックな動きを見せています。特にレッド音符の部分では、ものを言っていますね。
譜例3(PD楽曲、Sibeliusで作成、17-24小節)
‣ バスラインが声部分けされる主な理由
作曲家がバスラインを声部分けする理由は、大きく以下の4つに分類できます:
1. 個別の表現指示を与えるため
バスラインに特定の表情(スタッカート、テヌート、スラーなど)を指示したい場合、独立した声部として表記することで演奏者に明確に伝えることができます。声部分けされていない団子和音の場合、「その特定の表情は和音の中のどの音に対するものなのか」という分かりにくさが生じることになってしまうのです。
2. 重要なラインの強調
「このバスラインは重要な要素である」というメッセージを演奏者に伝えるためのサインとなります。
3. 楽曲構造の一貫性または対比の表現
他のセクションとの書法における一貫性を保つため、あるいは逆に対比を強調するために声部分けを行うことがあります。
4. 音の持続時間の明確化
特にバスラインがどこまで音を伸ばすべきかを正確に指示するために利用されます。
「田舎の歌」のBセクションでは、これら全ての理由が関連していると考えられます。特にレッド音符で示した部分のバスラインはメロディックな動きを持ち、ただの和声的支えではなく、積極的に音楽を形作る要素として機能しています。
‣ バスラインの声部分けの演奏への影響
バスラインの声部分けを理解することは、演奏にどのような変化をもたらすのでしょうか。
1. 音色のコントロール
声部分けされたバスラインは、他の脇役の声部とは異なる音色で演奏することが求められます。特に「田舎の歌」のBセクションでは、第二の旋律のように扱うことで、曲の表情が格段に豊かになります。
2. バランスの調整
バスラインが声部分けされている場合は特に、その声部と他の声部とのバランスを意識的に調整する必要があります:
・メロディとバスラインを浮き立たせる
・中間声部は響きの中へ隠すようにやや控えめに
・それぞれの声部の役割に応じた音量バランス
このバランス調整により、平面的だった演奏が立体的になります。
3. フレージングの独立性
団子和音でまとめられている場合と比べて、声部分けされたバスラインからは、独自のフレージングが読み取りやすくなります。「田舎の歌」では、バスラインも4小節単位のフレーズを形成しており、その流れを感じながら演奏することで音楽的な演奏を期待できるでしょう。
► 終わりに
バスラインの声部分けは、作曲家の音楽的意図を伝える重要な手段。特にシューマンの「田舎の歌」のような作品では、バスラインが単なる和声的支えではなく、音楽の語りの一部として機能しています。
声部分けを理解し、それぞれの声部の役割と関係性を意識した演奏を目指しましょう。
► 楽曲分析を体系的に学びたい方はこちら
コメント