【ピアノ】音色と休符から読み解くフレージング分析
► はじめに
フレージングを理解することは、楽曲構造の把握に繋がります。多くの場合、スラーの指示を手がかりにしますが、以下のような場合は別のアプローチが必要となります:
・原典版などでスラーの指示が明確でない場合
・時代背景により解釈が異なる可能性がある場合
・現代の校訂版で編集者によって解釈が分かれている場合
本記事では、スラーに依存しない分析手法として、音色の変化と休符の配置に着目した構造分析の方法を解説します。
► 分析事例:ベーム「メヌエット ト長調」
‣ 楽曲の概要
分析対象として、ベームのメヌエットを見ていきましょう。特に冒頭1-4小節に焦点を当て、メロディのフレージング構造を詳細に検討します。
ベーム「メヌエット ト長調」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
‣ 分析の観点
本分析では、以下の2つの要素に着目します:
1. 書法の変化とフレージング
・テクスチャーの変化がフレーズ構造に与える影響
・音色の変化が示す構造的な意味
2. 休符の構造的役割
・休符の配置が示すフレーズの区切り
・同型箇所における休符の有無の比較分析
‣ 具体的な分析
1. 書法の変化の分析
冒頭部分(a)と対比部分(b)では、以下の変化が観察されます:
・a:単音による書法
・b:オクターヴユニゾンによる書法
この変化は単なる音色の違いを超えて、以下の構造的意味を持ちます:
・フレーズの区分点の明示
・新しい主題材の提示
2. 休符の配置分析
4小節目(c)と24小節目(d)の比較から、以下の構造的特徴が見えてきます:
c:8分休符による明確な区切り
・7度跳躍時の休符によるフレーズの分節
・新しいフレーズの開始点の強調
d:休符のない連続的な進行
・丸印の音が鎖の繋ぎ目となり
・D音とC音のフレーズを分断しない滑らかな接続
► 分析手法の応用
‣ 一般化できる分析ポイント
1. テクスチャーの変化
・書法の変化点を特定する
・その変化が示す構造的意味を考察する
・前後の文脈との関連性を検討する
2. 休符の配置
・休符の有無による違いを比較する
・休符の長さと配置の意図を分析する
・同型箇所での処理の違いを考察する
‣ 他の楽曲への応用
この分析手法は以下のような場面で特に有効です:
・バロック時代の装飾的な楽曲
・古典派の主題労作的な楽曲
► まとめ
フレージング構造の分析において、スラー以外の要素に着目することで、より深い楽曲理解が可能になります。特に:
・書法の変化は単なる音色の違いではなく、構造的な意味を持っている可能性がある
・休符の配置は、フレーズの区切りや連続性を示す重要な指標となる可能性がある
・これらの要素を総合的に見ることで、楽曲の構造をより客観的に把握できる
関連内容として、以下の記事も参考にしてください:
・【ピアノ】スラーに頼らず素材を切り出す楽曲分析
・【ピアノ】リズムパターンで見抜く楽曲構成の分析方法
【関連記事】
▶︎ 楽曲分析を体系的に学びたい方はこちら
楽曲分析学習パス
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント