【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法⑦ ~”はじめて” の要素から読み解く~
► はじめに
クラシック音楽には、聴く人の心を揺さぶる「はじめて」の瞬間があります。
例えば、ベートーベンの交響曲第9番。静かな管弦楽の演奏の中、突如として人声が現れる瞬間。
この「はじめて」の衝撃は、200年経った今でも聴く人の心を捉えて離しません。
もちろん、すべての楽曲がそこまでドラマチックな「はじめて」を持っているわけではありません。
しかし、作曲家は必ず意図を持って「はじめて」の要素を配置しています。
本記事では、その「はじめて」を見つけ出し、作曲家の意図を読み解く実践的な方法をご紹介します。
► 対象者など
こんな方におすすめ
・楽曲分析の基礎を学びたい方
・楽曲への理解を深めたい方
・どんな楽曲にも応用できる分析方法を身に付けたい方
前提レベル
・基本的な楽譜が読める程度
► 習得できるスキル
本記事を通じて、以下のような実践的なスキルが身につきます:
・楽曲の特徴的な要素の見つけ方
・作曲家の意図を読み取る具体的な方法
・より深い音楽理解につながる分析アプローチ
►「はじめて」を見つける手順
STEP 1:楽譜全体を見渡す
まずは楽譜全体を見渡し、大きな変化が起きている箇所をざっと確認します。
STEP 2:以下の要素に注目して「はじめて」を探す
・音域の変化(極端に高い音、低い音)
・リズムパターンの変化(新しい音価、リズム型)
・強弱記号の変化
・調性の変化
・テクスチャーの変化(伴奏型、声部数)
STEP 3:見つけた「はじめて」を時系列で整理
見つけた要素を曲の流れに沿って整理します。
STEP 4:それぞれの「はじめて」が生む効果を考察
・前後の文脈との関係
・楽曲全体における役割
・聴き手への影響
► 実例で分析
モーツァルト「ピアノソナタ K.545 第1楽章」を例に、具体的な分析方法を見ていきましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-16小節)
重要な「はじめて」とその効果
1. 16分音符の連続(5小節目)
効果:
・それまでの8分音符主体の静かな導入部との対比
・新しいセクションの開始を印象付ける
2. 休符を伴う左手(5小節目)
効果:
・右手の16分音符を際立たせる
・テクスチャーの変化による場面転換
3. 低音域の使用(11小節目)
効果:
・第1主題の終結感を強める
・続く第2主題との音域的コントラストを準備
► 実践課題
バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.114 ト長調」
を題材に、「はじめて」の要素を見つけ出して、その意味を考えてみましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
分析のポイント
1. 最初に全体を見渡し、目立つ変化を探す
2. 特に以下の要素に注目してみましょう:
・音域の広がり
・リズムの変化
・声部の増減
3. 見つけた「はじめて」が楽曲にどのような効果をもたらしているかを考察する
【解答例】
重要な「はじめて」とその効果
1. 最低音の使用(16小節目)
効果:
・前半部分(1-16小節)の明確な終結感を作り出す
・続く高音域のメロディとの対比を準備
・楽曲の構造的な区切りを印象付ける
2. 最高音域のメロディ(17小節目)
効果:
・新しいセクションの開始を印象的に示す
・前半との音域的コントラストによる場面転換
・楽曲の頂点となる瞬間を作り出す
3. 臨時記号の出現(20小節目)
効果:
・D-durへの一時的な調性の揺れを作り出す
・音色の微妙な変化による表情付け
・楽曲に新しい色彩を加える
4. 声部分けされた書法(25小節目)
効果:
・楽曲の終結部分を特徴付ける
・第1小節と最終小節の和音との構造的な関連を示す
・より豊かな響きによる印象的な締めくくり
► 困ったときは
Q1: たくさんの「はじめて」が見つかって整理できない
A1: まずは最も耳に残る変化から分析を始めましょう。音の高さや強弱の変化は特に聴き手の印象に残りやすい要素です。
Q2: 「はじめて」の意図が読み取れない
A2: その要素の前後の文脈を見てみましょう。多くの場合、対比や強調のために「はじめて」が使われています。
► まとめ
この記事で学んだこと:
1. 「はじめて」の要素は作曲家の重要な表現手段
2. 系統的な手順で「はじめて」を見つけることができる
3. 文脈の中で「はじめて」の効果を考察することで、楽曲への理解が深まる
► 次回予告
次回は「両手の離れ方の移り変わりを調べる」について解説します。
具体的な内容:
・楽曲の特徴的な要素の見つけ方
・作曲家の意図を読み取る具体的な方法
・音域の変化に意識的になる分析アプローチ
【おすすめ参考文献】
楽曲分析をより深く学びたい方へ:
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【シューマン ユーゲントアルバム より メロディー】徹底分析
・「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社
・「作曲の基礎技法」 著:シェーンベルク 音楽之友社
※「楽式論」「作曲の基礎技法」は、専門的な内容を含む中〜上級者向けの書籍です。
まずは本記事で紹介した基本的な方法から始めることをおすすめします。
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