【ピアノ】対比がはっきり伝わる弾き方:「言い切り」表現の実践パターン集

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【ピアノ】対比がはっきり伝わる弾き方:「言い切り」表現の実践パターン集

► はじめに

 

ピアノを演奏していると、「もう少し表情豊かに弾いてほしい」「対比をはっきりさせて」といった指摘を受けることがあります。原因の一つとして見落とされがちなのが、「言い切るべき箇所を言い切れていない」点です。

ここでいう「言い切り」とは、フレーズやセクションの区切りとなる音を、ダイナミクスやテンポを不用意にゆるめず、構造的な区切りとして明確に鳴らし切ることだと捉えると分かりやすいでしょう。

本記事では、具体的な楽曲の譜例をもとに、「言い切り」表現のパターンとその演奏ポイントを紹介します。

本記事の対象者:初中級〜上級者

 

► なぜ「言い切り」が重要なのか

 

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」1〜4小節の楽譜。開演ベル的役割を持つ冒頭のつかみと、直後との対比を示している。

カギマークで示した部分で言い切り、その後に性格の異なる要素が続く例です。

 

なぜ「言い切り」が重要なのでしょうか。

最大の理由は、「対比を生み出す起点になるから」です。直後に p の繊細な部分や、性格の異なる新しい要素が続く場合、言い切りがあってこそ「切り替わった」という印象が聴き手にはっきりと届きます。言い切りが中途半端だと、対比の効果が薄れ、音楽のメリハリが失われてしまいます。

もちろん、すべてのフレーズやセクションの区切りとなる音を常に強く弾き切ることが音楽的とは限りません。「言い切るべき箇所」を見抜く必要があるのです。

「言い切り」は楽譜の中に様々な形で書き込まれています。アクセント記号、ダイナミクス記号の並び方、フレーズの構造、さらには編曲ものの場合は原曲の歌詞まで——読み方を知っていれば、作曲家の意図を読み取ることができます。

 

►「言い切り」表現のパターンとその演奏ポイント

‣ 開演ベル的役割を持つ言い切り表現

· 1. 冒頭のつかみ:基本的な言い切り

 

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」1〜4小節の楽譜。開演ベル的役割を持つ冒頭のつかみと、直後との対比を示している。

モーツァルトの時代、第1楽章の冒頭にダイナミクス指示がない場合、f で弾き始めるのが基本的な慣例でした。

カギマークで示した冒頭のつかみは、いわば開演ベルのような役割を担っています。ここでは表現を複雑にする必要はなく、力強く一気に言い切ってしまうのが効果的です。そうすることで、直後の柔らかな部分との対比が鮮明になります。

なお、アルペッジョは右手のみに付されている点に注目してください。優雅さを意識しながら、決して音を叩かないように心がけましょう。

 

この楽曲のより詳しい演奏ポイントは、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 全楽章」演奏完全ガイド で解説しています。

 

· 2. 冒頭のつかみ:問答構造を持つ言い切り

 

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.576 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.576 第1楽章」1〜3小節の楽譜。問答構造を持つ冒頭のつかみと、直後のトリルとの対比を示している。

冒頭のオクターヴユニゾンによる動きも、前項のK.311と同様、開演ベル的な役割を持っています。幕開けを告げるこの短いつかみは、細かく表現をつけすぎず、f で決然と言い切るように弾き切るのがいいでしょう。

K.311との違いは、この言い切りの部分が「問いかけ」として機能しており、直後のトリルからの部分が「応答」のように続く点です。ダイナミクスの指示はありませんが、2小節目のトリルの部分は p で応じるように弾く解釈が広く行われています。

 

この楽曲における演奏解釈をさらに学びたい方は、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.576 全楽章」演奏完全ガイド を参考にしてください。

 

· 3. 冒頭のつかみ:直後と極端なダイナミクス対比を持つ言い切り

 

ラヴェル「クープランの墓 より リゴードン」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ラヴェル「クープランの墓 より リゴードン」1〜4小節の楽譜。開演ベル的役割を持つつかみと、ffからmpへの大きな対比を示している。

カギマークで示した最初の部分は、前の2例と同じく「開演ベル」の役割を持つつかみです。

こうした冒頭のつかみを魅力的に聴かせるコツは、やはり「原則、ノンストップで弾き切る」ことです。2小節目へ入るときに不自然な間(ま)を空けたり、mp の直前でテンポをゆるめたりせず、一気に決然と弾き切ってしまいましょう。そうすることで、直後の部分との対比(ffmp という大きな対比表現)がはっきりと際立ちます。

 

‣ 場面転換を明確にする「言い切り」表現

· 1. セクション内における短い単位での場面転換

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、54-57小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」54〜57小節の楽譜。fの分散和音による言い切りと、直後のpのスケールとの場面転換を示している。

f の分散和音が言い切るように置かれ、それに対して p のスケールが応えるこの部分は、「言い切り」をきっかけとした「同セクション内における短い単位での場面転換」の典型例です。ダイナミクスだけでなく、音型も「分散和音 → スケール」というように対照的に置かれていることに着目しましょう。

f の部分の末尾でダイナミクスを弱めることなく言い切り、その後 subito で p にしてガラリと場面を変えて弾きます

 

· 2. セクションが変わる場面転換

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、11-14小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」11〜14小節の楽譜。セクションの切り替わりにおける言い切りと、直後の繊細なトリルとの対比を示している。

前項がセクション内での転換だったのに対し、こちらは「言い切り」をきっかけに、「セクションそのものが切り替わる場面転換」の例です。

12小節目はあいまいにせず、はっきりと言い切るように演奏しましょう。直後が繊細なトリルになっているため、そこで対比の効果が生まれます。ただし、「はっきり」とはスタッカートで音を跳ねることではありません。「テヌート+スタッカート」のようなイメージで、余韻も含めて4分音符弱としての長さが感じられるように演奏すると音楽的です。

 

実はこの楽章、他にも見落とされがちな重要ポイントが多くあります。演奏方法をさらに深掘りしたい方は【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 全楽章」演奏完全ガイド をご覧ください。

 

· 3. セクションが変わる場面転換のうち、やや特殊なもの①

 

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第2楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、53-57小節)

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第2楽章」53〜57小節の楽譜。fとpの16分音符のグループ分けとフレーズ構造を示している。

55小節目の f で始まる16分音符に注目しましょう。見た目は56小節3拍目の p による16分音符と似ていますが、楽曲構造上は全く異なる役割を担っています。

アウフタクトの構造などから考えると、カギマークで示した構成のとおり、f の16分音符は直前の文脈に属しており、後続の p の16分音符群とは別のグループを形成しています。したがって、55小節2拍目で間を取ることなく流れを維持し、56小節1拍目の4分音符までを一つの流れとして弾き通してください。フレーズの切れ目となる56小節2拍目で、初めてわずかな時間を使うと、楽譜に記された構造的意図を自然に伝えることができます。

55-56小節の f は、はっきりと言い切りましょう。

 

この楽曲のより詳しい演奏ポイントは、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 全楽章」演奏完全ガイド で解説しています。

 

· 4. セクションが変わる場面転換のうち、やや特殊なもの②

 

モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、78-81小節)

モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 第1楽章」78〜81小節の楽譜。提示部と展開部をつなぐ場面転換における言い切りの演奏ポイントを示している。

79-80小節に出てくる音型は、21-22小節の音型を反転させたものです。この2つを組み合わせることで、提示部と展開部をつなぐ蝶番(ちょうつがい)のような役割を果たしています。

80小節目からが展開部であることから、79-80小節の境目で時間を取りたくなりますが、少し立ち止まって考えてみましょう。80小節目は、81小節目以降をDes-durへ導くためのドミナントを用意しているに過ぎず、音楽的にはそれ以上の意味合いを持ちません。

79小節目と同型反復になっていることも踏まえると、セクションの変わり目だからといって途中で時間を使う必要はなく、80小節目の末尾までノンストップで言い切るように弾いてしまうのがいいでしょう。もし間を取るとすれば、81小節目の入り頭(Vマークを補足した箇所)で使うのが音楽的です。そのほうが同型反復の流れが自然に保たれ、f から p への対比効果も際立ちます。

 

この楽曲における演奏解釈をさらに学びたい方は、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 全楽章」演奏完全ガイド を参考にしてください。

 

‣ 言い切り表現が明確な例

· 1. 楽曲の締めくくりでアクセント記号までついている例

 

ドビュッシー「子供の領分 より 1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、72-76小節)

ドビュッシー「子供の領分 より 1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士」72〜76小節の楽譜。楽曲の締めくくりにおけるアクセント記号を伴った言い切り表現を示している。

最後の2小節は、「言い切る」ようにはっきりと発音してください。ただし、音価には注意が必要です。スタッカートが書かれているからといって、音を吐き捨てるように弾いてはいけません。元の音価が「4分音符」だからです。

この作品ではスタッカートのついた4分音符と8分音符が使い分けられているので、それぞれのニュアンスの違いを意識するようにしましょう。

楽曲の締めくくりでアクセント記号まで付されている場合は、「ここは言い切ってください」という作曲家からのメッセージとほぼ同義です。

 

この曲に挑戦中の方へ向けて、つまずきやすいポイントを体系的に整理しています。完成度を一段上げたい方はこちら。

【ピアノ】ドビュッシー「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」演奏完全ガイド

 

· 2. f の3連続使用の表現で示されている例

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-12 サンタクロース」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-34小節)

シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-12 サンタクロース」1〜34小節の楽譜。fの3連続使用によるアクセント的な言い切り表現を示している。

4,8,24小節目に見られる f の3連続使用は、アクセント表現として解釈するのが自然です。24小節目は ff の中での f の3連続であり、ダイナミクスを落とすとは考えにくく、また音域的にも楽曲の最高音が重なっています。これらの箇所はすべて、「3音を言い切るように弾く」というアクセント的指示と読み取ってください。

アクセントやアクセント的表現で連続した強調が示されている場合、その多くが「言い切ってほしい」という意図を持っています。

 

この作品を分析観点からさらに深掘りしたい方は、【ピアノ】シューマン「サンタクロース」の楽曲分析:セクション毎の特徴に着目して をご覧ください。

 

· 3. 編曲もので、原曲の歌詞に「!」がついている例

 

音楽の文脈上、強く言い切る必要がある場合です。

 

シューマン「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷」(クララによる編曲版)

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、21-24小節)

シューマン「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷」(クララによる編曲版)21〜24小節の楽譜。クライマックスにおける言い切りと、原曲歌詞「Glück!」との対応を示している。

21小節目で f となり一つの山が作られ、23小節目にさらに cresc. が書かれています。つまり、真のクライマックスは24小節目の頭であり、原曲の歌詞では「Glück!(幸福!)」と言い切る箇所にあたります。

本来、フレーズの最後の音は強く弾かないのが原則ですが、最後の音であっても、音楽的に言い切るべき箇所では、ためらわずはっきりと弾くようにしましょう。特にこの箇所は原曲の歌詞に「!」が付いており、言い切ることの必然性が歌詞の次元でも裏付けられています

 

この編曲作品における「原曲歌詞を踏まえた演奏解釈」をさらに学びたい方は、【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「美しい異郷」:特徴と演奏のヒント をご覧ください。

 

‣ 応用視点:広義の言い切り表現と解釈できる例

 

モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、45-50小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 第1楽章」45〜50小節の楽譜。小節構成を活かしたダイナミクス処理と、広義の言い切り表現への応用を示している。

大譜表の下にカッコで示されたダイナミクスはモーツァルト自身によるもの、大譜表の中に書き込まれたものは「モーツァルト ピアノソナタ 演奏と解釈」(著:山崎孝 / 音楽之友社)で提案されているダイナミクス指示です。

書籍で提案されているのは「小節構成を活かしたダイナミクス処理」という考え方で、汎用性の高い重要な視点です。

この箇所の小節構成:

・「A(2小節)+B(1小節)」
・その繰り返しで「A’(2小節)+B’(1小節)」

このグループ構成にフィットさせるように「pmf」→「mpf」とダイナミクスを変化させており、ダイナミクスチェンジのタイミングの判断に小節構成を活用していることに着目してください。

Aの部分はヘミオラ(3拍子系の曲で2小節を3分割するリズムのとり方)になっており、それを受けてBが1小節分のまとめとして挿入される構造です。BはAと比べて「言い切るようなキメの音遣い」になっているため、ここでダイナミクスを引き上げるのは理にかなっていると言えるでしょう。A’・B’はA・Bを変奏した繰り返しで、同様の考え方が適用されますが、ダイナミクスを1段階ずつ上げることで変化がつけられています。

このように、単純な「2+2」などとは異なる小節構成をしているところは、譜読みの段階でどのような構造になっているかを整理しておくことで、「小節構成を解釈に活かす」という選択肢を演奏解釈の中に取り込める可能性が出てきます。

 

本項目で取り上げた一冊を紹介しておきましょう。

モーツァルトの作品を扱っているこの書籍は、特に「譜面は読めても演奏に落とし込めない」と感じている方にとって、有効なヒントが多く含まれています。著者がピアニストというだけあり、「どう演奏に活かすか」という視点が徹底して書かれているのが特徴です。

・モーツァルト ピアノソナタ 演奏と解釈への助言 著 : 山崎孝 / 音楽之友社

 

この楽曲における演奏解釈をさらに学びたい方は、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 全楽章」演奏完全ガイド が参考になります。

 

► 終わりに

 

本記事では、「開演ベル的役割」「場面転換」「明確な記号による指示」「応用的解釈」という4つの切り口から、言い切り表現の実例を見てきました。

共通しているのは、「言い切る」という行為が、ただの強奏ではないという点です。それは、直後の音楽との関係を意識したうえで、必要な箇所をきちんと締めるという、構造的な判断です。言い切りを徹底することで生まれる対比は、聴き手が音楽の「切り替わり」を感じ取るための重要な手がかりになります。

「なんとなくフレーズの最後を弱めてしまう」「セクションの変わり目で無意識にテンポをゆるめてしまう」——そういった癖に心当たりのある方は、ぜひ本記事で取り上げた譜例を参考に、言い切るべき箇所を意識しながら練習してみてください。その一点を変えるだけで、演奏全体のメリハリが大きく変わります。

 

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