【ピアノ】シューマン「3つのロマンス Op.28」特徴と演奏のヒント:中上級者向け
► はじめに
シューマン「3つのロマンス Op.28」は、ピアノ学習者にとって隠れた名作と言える作品です。知名度こそ高くありませんが、シューマンらしい詩的な表現とユーモアと適度な技術的挑戦を兼ね備えた、非常に魅力的な楽曲集です。
本記事では、この作品を初めて学ぶ方に向けて、その魅力と演奏のポイントを解説します。
► 作品の概要と主な特徴
‣ 作曲背景
この作品は1839年に作曲されました。シューマンがクララ・ヴィーク(後の妻)と結婚する前年にあたり、彼のピアノ音楽創作期における重要な作品の一つです。シューマンは1830年代にピアノ曲の創作に特に力を入れており、クララとの結婚が近づくにつれて、歌曲の作曲が増えてきました。この「3つのロマンス Op.28」は丁度その過渡期辺りで生み出された作品です。
‣ 主な特徴
中上級作品にしてはコンパクトで親しみやすい構成:
・第1番、第2番:約3-4分の演奏時間
・第3番:約7分の演奏時間
・比較的コンパクトで取り組みやすい規模
適切な難易度設定:
・第1番:ツェルニー40番修了程度
・第2番:ツェルニー30番中盤程度
・第3番:ツェルニー40番修了程度
個性豊かな3つの楽曲
各曲は明確に異なるキャラクターを持ち、単独での演奏も効果的です。全体として統一感を保ちながらも、それぞれが独立した魅力を持っています。
► 各楽曲の解説
‣ 第1番 変ロ短調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
演奏時間:約3分30秒
楽曲の特徴
終始分散和音の書法で貫かれた無窮動作品です。表面的には技巧的に見えますが、ただのエチュードとは一線を画す詩的な表現が求められます。
表現や技術的なポイント:
・各拍毎に出てくるオクターヴのバス音を叩かず、低音同士の響きの繋がりを意識して演奏する
・内声はただ隠すだけでなく、そのときの内容に応じてエネルギー表現として主張しても構わない
・技巧性を誇示するような急速なテンポよりも、音楽的な流れを重視したテンポ選択が好ましい
テンポ設定の参考演奏
全体として楽曲のエネルギーさえ伝わってくれば、必ずしも速く弾く必要はありません。イーヴ・ナットが録音しているように遅めのテンポで演奏するのも魅力的です。
‣ 第2番 嬰ヘ長調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
演奏時間:約3分
楽曲の特徴
美しいカンタービレが印象的な作品。タールベルクの奏法(メロディを中間部に配置し、その上部と下部に伴奏部を織りなす書法)が使われています。「トンプソン 現代ピアノ教本5」に収載されているため、3曲中最も知られた作品でもあります。
表現や技術的なポイント:
・メロディラインを明確に歌わせ、伴奏部分は控えめに演奏する
・特にメロディより高い音域で動く伴奏は、主旋律を邪魔しないよう細心の注意を払う
・譜例のところでは p のダイナミクスになっているが、メロディは mf 、最低でも mp で弾いて構わない
‣ 第3番 ロ長調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
演奏時間:約7分
楽曲の特徴
ユーモアとシリアスな表情が交錯する、3曲中最も内容豊かな作品です。テーマの再現部分では突然の回帰によるクスッと笑ってしまうようなサプライズ的な効果も見られ、シューマンの作曲技法の上手さが光ります。単独演奏でも十分に演奏会のメインプログラムとなり得る充実した内容を持っています。
表現や技術的なポイント:
・リズム重視の部分とウタ重視の部分が入れ替わるので、性格の差を明確に表現する
・様々な変化を効果的に演出するため、まずは基本テーマの特徴的なリズムを正確に表現する
・テンポ設定に関しては様々な解釈が可能な楽曲なので、比較学習してみる
テンポ設定の参考演奏:
・ゆったりとした解釈:ヴィルヘルム・ケンプ など
・快活な解釈:イーヴ・ナット など
► 推奨楽譜
推奨楽譜
学習には原典版の使用を強く推奨します。この作品は長く愛用できるレパートリーとなるため、信頼できる版での学習が重要です。
・シューマン 3つのロマンス Op.28 ヘンレ版
► 演奏会での活用方法
抜粋演奏のパターン:
・第2番+第3番:約10分のプログラム構成
・第3番単独:約7分の充実したソロ作品として
全曲演奏:
所要時間:約14分(楽章間の間隔含む)
適用場面:15-20分程度の持ち時間がある演奏会
他作品との組み合わせ:
・導入として:第1番または第2番を演奏し、他のドイツものなどの大曲と組み合わせる
・シューマンプログラム:「子供の情景 Op.15」などからの抜粋と、第3番の組み合わせ
筆者自身は、全曲を学習したうえで、本番に関しては第3番の単独演奏を経験しました。内容が充実していながらも演奏時間約7分とコンパクトなので、出入りを含めて持ち時間10分の本番でも披露できます。
► 終わりに
シューマン「3つのロマンス Op.28」は、技術的な挑戦とユーモアと音楽的な深みを持ち合わせた優れた作品集です。各楽曲それぞれが独立した魅力を持ちながら、全体として統一された世界観を形成している点も、この作品の大きな魅力です。知名度こそ高くありませんが、学習者にとって多くの学びを提供してくれる貴重なレパートリーと言えるでしょう。
同難易度帯の別の作品は、「おすすめの楽曲(上級)」カテゴリーで紹介しています。
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