【ピアノ】マルグリット・ロン「ラヴェル―回想のピアノ」レビュー

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【ピアノ】マルグリット・ロン「ラヴェル―回想のピアノ」レビュー

► はじめに

 

20世紀を代表するピアニスト、マルグリット・ロン(1874-1966)による貴重な証言集「ラヴェル―回想のピアノ」は、ロンと作曲家ラヴェルとの直接的な交流から生まれた貴重な音楽情報を提供する一冊です。

 

・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1985年
・ページ数:194ページ
・対象レベル:中級~上級者

 

・ラヴェル―回想のピアノ 著:マルグリット・ロン 訳:北原道彦、藤村久美子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ 本書の特徴

 

当事者だけが知る生の証言

本書の最大の価値は、ロンがラヴェルと過ごした長い時間の中で実際に見聞きした体験情報が提供されている点にあります。作曲家の人間性と音楽観を間近で観察した演奏家の証言として、音楽史上貴重な記録となっています。

印象的なのは、「左手のためのピアノ協奏曲」の初演者ヴィットゲンシュタインとラヴェルが激しく対立したエピソード。このような場面に居合わせたロンだからこそ語れる生々しい証言は、ラヴェルの音楽に対する真摯な姿勢と、同時に人間としての繊細さを浮き彫りにしています。

 

作曲家と演奏家の関係性への言及

本書が提起する重要なテーマの一つが、作曲家と演奏家の関係性です。ラヴェルの有名な言葉「私は、私の曲を自分なりに解釈してほしいとは思わない。ただ演奏してほしいと思うだけである」を軸に、具体的なエピソードを通して両者の緊張関係が描かれています。

これらの記述は、現代の演奏者にとっても考えさせられる内容であり、作品への忠実さと個性的な解釈の間のバランスを考えるうえで貴重な指針となります。

 

個別楽曲への実践的アプローチ

本書では、ラヴェルの主要ピアノ作品について、ロンの演奏家としての視点から具体的な解説が展開されています。「水の戯れ」「ソナチネ」「鏡」「夜のガスパール」「クープランの墓」といった代表作について、作曲家本人から直接聞いた話と、ロン自身の演奏経験を織り交ぜた解説は、実際に演奏に取り組む方にとって実用的な価値を持ちます。

 

‣ ラヴェルの音楽史的位置

 

「現代音楽」の章では、少しラヴェルから離れ、ロンが「当時の」現代音楽についての見解を述べています。ミヨーやシェーンベルクなど、現在では古典とされる作曲家たちが「現代」として論じられている点は、20世紀前半の音楽界の動向を知るうえで興味深い時代証言と言えるでしょう。

この章があることで、ラヴェルの音楽史的位置も相対的に眺めることができます

 

► 活用のヒントと留意点

‣ 活用のヒント:関連書籍との関係

 

本書は、同じ著者による「ドビュッシーとピアノ曲」「回想のフォーレ―ピアノ曲をめぐって」とともに三部作を構成しています。これらを通読することで、20世紀フランス音楽の全体像と、ロンの音楽観の変遷を理解できるでしょう。

 

‣ 留意点

 

本書が回想録という性格上、客観的な音楽分析書ではないことは留意すべき点です。ロンの主観的な視点に基づいた記述が中心となっているため、学術的な研究においては他の資料との照合が必要となります。

 

► 筆者の経験談

 

筆者自身、一次資料を重視したアプローチが重要だと思っているので、ラヴェルのピアノ曲を分析・演奏する際には、本書を必ず参照するようにしています。特に、作品の背景や作曲家の意図を理解するうえで、ロンの証言は重要な手がかりとなります。

また、同じくラヴェルに直接師事したピアニスト、ヴラド・ペルルミュテールによる「ラヴェルのピアノ曲」と併読することで、複数の一次資料からラヴェルの音楽観を多角的に学んでいます。両書は補完的な関係にあり、ロンの回想録的な視点とペルルミュテールのより技術的な解説が相互にヒントを与えてくれます。

 

書籍「ラヴェルのピアノ曲」については以下の記事でレビューしているので、あわせて参考にしてください。

【ピアノ】ラヴェルの弟子が語る「ラヴェルのピアノ曲」:演奏解釈の決定版

 

► 終わりに

 

「ラヴェル―回想のピアノ」は、20世紀音楽史における貴重な一次資料として、また実践的な演奏指南書として、二重の価値を持つ優れた書籍です。ラヴェルの音楽を深く理解したい方にとって必読の一冊と言えるでしょう。

 

・ラヴェル―回想のピアノ 著:マルグリット・ロン 訳:北原道彦、藤村久美子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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