【ピアノ】映画「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」レビュー:音楽演出と名曲の魅力

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【ピアノ】映画「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」レビュー:音楽演出と名曲の魅力

► はじめに

 

本記事では、1989年に公開された映画「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ(The Fabulous Baker Boys)」を音楽の視点から深掘りします。この映画はピアノ演奏が物語の中核を成す作品で、音楽と物語が見事に融合しています。

 

・公開年:1989年(アメリカ)/ 1990年(日本)
・監督:スティーヴ・クローヴス
・音楽:デイヴ・グルーシン
・ピアノ関連度:★★★★★

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はお気をつけください。

 

‣ ストーリーの核心にあるピアノ

 

「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」は、ラウンジで長年ピアノデュオとして活動してきたベイカー兄弟の物語です。真面目な兄フランクと、才能はあるが不遇な弟ジャック。人気凋落に悩む彼らが、新たな試みとして女性ボーカリスト「スージー」を迎え入れることから物語は動き出します。

 

‣ 音楽演出の妙

· 1. 状況内音楽の巧みな活用

 

「状況内音楽」(ストーリー内で実際にその場で流れている音楽)の効果的な使い方を見ていきましょう:

 

ピアノの音色が語る人物像:

冒頭、ジャックの自宅でピアノを弾く少女のシーンがあります。「ジングル・ベル」を演奏するその調律の狂ったピアノの音色は、彼の生活環境を雄弁に物語っています。後にスージーとの会話で明かされる「安アパート暮らし」という設定を、音だけで観客に伝える演出の妙が光ります。

 

音による場面の連結:

同じピアノの音色を使って別のシーンをリンクさせる手法も見事です。スージーがジャックの自宅を訪れるシーン。最初は映像だけでは場所が特定できませんが、あの特徴的な調律の狂ったピアノの音と「ジングル・ベル」が聴こえてくることで、観客は「ああ、ジャックの家だ」と理解できるのです。

同様の手法は、ベイカー・ボーイズのオーディションで不採用だったモニカ・モランが後半で再登場するシーンでも。彼女が歌う「キャンディマン」という曲で、観客の記憶を呼び戻しています。

 

· 2. 演奏編成で表現する人間関係

 

二人だけの親密な時間を表す「シンプルなピアノ曲」:

映画中には通常のBGM(状況外音楽)として様々な音楽が使われていますが、シンプルなピアノ曲が使われるのは、ジャックが女性と二人きりになる場面だけ。スージーと過ごす大晦日の夜、そして自宅に出入りする少女と屋上で過ごす時間。このシンプルな音楽設計には明確な意図が感じられます。

 

演奏編成の変化が示す関係性の変化:

ジャックとスージーの関係が深まるにつれ、演奏の編成にも変化が生じます。用事で席を外した兄フランクを抜きにした二人だけの大晦日のステージは、二人の距離が縮まったことを暗示しています。

また、本編より「客からのリクエストがあったとき、ジャックは即興で弾ける」ということが分かります。このことから推測すると、日頃の演奏活動でも、リクエストの際にはフランクが引っ込み、ジャックとスージーの二人だけのステージとなる場面があったのかもしれません。

 

· 3. 感情の高まりを音楽で表現

 

「初めて」の要素による感動の醸成:

映画終盤、兄弟二人がついに声を合わせて弾き歌いするシーンがあります。序盤に、ライブで一人ずつ交互に歌う場面はありましたが、それまで二人が “一緒に” 歌う場面はなかったため、この「初めて」の瞬間は、兄弟の和解も含めた深い感動を誘います。この音楽演出を先に使ってしまっていたら、感動は半減していたでしょう。

 

歌詞と物語の共鳴:

ジャックとスージーの関係が発展していく中盤以降、彼らが演奏する曲の歌詞が物語の展開とある程度リンクしていくのも興味深いポイントです。「Feelings」などの曲の歌詞が、その時の登場人物たちの心情を反映するかのように感じられます。

 

► 映画で演奏される名曲たち

 

映画の最も印象的なシーンの一つが、赤いドレスを纏ったスージー(ミシェル・ファイファー)がグランドピアノの上で歌う「Makin’ Whoopee」。スージーの妖艶な歌声とジャックのピアノが織りなす情感豊かな演奏は、二人の関係性の変化を象徴すると同時に、映画史に残る名シーンとなっています。ミシェル・ファイファー自身が実際に歌っている(エンドクレジットに記載あり)ことも、このシーンの魅力を高めています。

その他にも:

「More Than You Know」
「Can’t Take My Eyes Off You」
「The Look of Love」
「The Girl from Ipanema」
「Feelings」
「My Funny Valentine」

等の名曲が多く取り上げられています。主にジャズラウンジでの定番曲が選ばれており、時代と場所の雰囲気を表現しています。楽曲によっては、「ボーカル&2台ピアノ」という独特の編成で演奏されるのも注目ポイントと言えるでしょう。

 

► 演奏者情報

 

ベイカー兄弟のピアノ演奏は、以下のピアニストが担当しています:

・ジャック・ベイカー(ジェフ・ブリッジス)のピアノ演奏:デイヴ・グルーシン
・フランク・ベイカー(ボー・ブリッジス)のピアノ演奏:ジョン・エフ・ハモンド

 

この他、本映画の中で使用されたボーカル作品の一覧や演奏者情報は、エンドクレジットに表示されているので、興味のある方は確認してみてください。

 

► 終わりに

 

「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」は、ただピアノが登場する映画というだけなく、音楽そのものが物語を語る映画です。状況内音楽と状況外音楽を絶妙に使い分け、登場人物の心情や関係性の変化を音で表現する手法など、面白い音楽演出が豊富に確認できます。

本記事の内容を参考に、一度、「ピアノ的視点」で鑑賞してみてください。音楽と映画の織りなす表現に、新たな発見があるはずです。

 

 

 

 

 

 

 


 

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