【ピアノ】デニス・マシューズ「ピアノ音楽の歴史」レビュー
► はじめに
デニス・マシューズ(1919-1988、イギリスの著名なピアニスト、音楽学者)編著の「ピアノ音楽の歴史」は、鍵盤音楽の発展を初期から20世紀まで幅広く解説した貴重な一冊です。この書籍の特徴は、各章を異なる専門家が執筆しているという点にあります。複数の視点でピアノ音楽を眺めることができるため、より立体的な理解が得られるでしょう。
・訳:舘野清恵
・出版社:全音楽譜出版社
・邦訳初版:1978年
・ページ数:本編258ページ
・対象レベル:初級~上級者
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 多角的な視点による解説
本書の最大の特徴は、各章を異なる専門家が執筆している点です。例えば、「第三章 ハイドン、モーツァルト、および彼等と同時代の作曲家たち」は、巨匠パウル・バドゥーラ=スコダの妻であるエファ・バドゥーラ=スコダが担当。編著者のデニス・マシューズ自身は「第四章 ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス」を執筆しています。
このように様々な専門家の視点を通して解説されているため、執筆スタイルは章によって異なります。「〜である。調」「ですます調」が混在していますが、それぞれの専門家の個性が感じられる点も味わい深いと言えるでしょう。
2. 近現代音楽にも充実した内容
多くのピアノ音楽史の書籍ではバロックや古典派に重点が置かれがちですが、本書では比較的近現代の音楽にも多くのページが割かれています。特に「第六章 国民楽派の成長」や「第七章 二十世紀」は、他の書籍では軽く触れられるだけのことも多い内容です。ただし、1978年の邦訳初版時点までの情報であることは念頭に置いておく必要があるでしょう。
3. 作曲家の生涯と作品の関連性
例えば「第五章 ロマン派の伝統」(ジョン・オグドン 執筆)のシューマンについての記述では、注目すべき作品の特徴を挙げながら、シューマンの生涯における作風の変遷を解説しています。さらに、その作風の変化がなぜ起こったのかを、彼の人生の出来事と関連付けて説明しています。
‣ 目次
1. 初期の鍵盤音楽(ハワード・ファーガソン)
2. バッハとヘンデル(チャールズ・ローゼン)
3. ハイドン、モーツァルト、および彼等と同時代の作曲家たち(エファ・バドゥーラ=スコダ)
4. ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス(デニス・マシューズ)
5. ロマン派の伝統(ジョン・オグドン)
6. 国民楽派の成長(ジェイムス・ギブ)
7. 二十世紀(スーザン・ブラッド・ショウ)
► 留意点
譜例の見づらさ
本書に掲載されている譜例は90度時計回りに回転した横向き掲載となっており、読みづらいという難点があります。特に譜例を見ながら解説を追いたい方には少々不便かもしれません。
入手の難しさ
現在、この書籍はアマゾンにも置かれていないマニアックな部類に入ります。中古書店やオンラインの古書サイト、国会図書館などで探す必要があるでしょう。
► おすすめの読者層
・異なる時代のピアノ音楽の特徴を比較して理解したい方
・レパートリーを広げるためのヒントを得たい方
・異なる専門家の多角的な視点からの情報を得たい方
・不足しがちな近現代のピアノ音楽史の情報を補完したい方
► まとめ
「ピアノ音楽の歴史」は、各章を異なる専門家が執筆しているという特徴により、多角的な視点でピアノ音楽を理解することができます。譜例が見づらいという難点はあるものの、内容の充実度を考えれば許容できる範囲でしょう。
やや入手が難しい一冊ですが、機会があれば手に取ってみてください。
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