【ピアノ】「ピアノが上手になる人、ならない人」(小林仁 著)レビュー
► はじめに
著名なピアニストである小林仁氏による本書は、1988年の著書「ピアノの練習室」を基に改訂・再編集された、中級~上級者向けの実践的なピアノ指導書です。198ページに凝縮された内容は、技術論や用語解説にとどまらず、ピアノ弾きとしての本質的な理解と成長を促す指摘に富んでいます。
・出版社:春秋社
・初版:2012年
・ページ数:198ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノが上手になる人、ならない人 著 : 小林仁 / 春秋社
► 本書の特徴
本書の特徴は、著者の豊富な演奏・指導経験に基づく実践的なアプローチ。まるで個人レッスンや講演会に参加しているかのような語り口で、読者を音楽の本質へと導いていきます。
特に注目すべき点として以下が挙げられます:
1. 音楽面の強化を前提とした解説
本書では、ただの技巧的な説明ではなく、なぜその技術が必要なのか、どのように音楽表現につながるのかという観点から解説がなされています。例えば、運指について著者は「ひとつの哲学」と表現し、音楽に対する考え方の表れとして捉えています。
2. テンポとルバートに関する深い考察
テンポについての章では、同じアレグロ指示でも作品によって適切な速さが異なることや、テンポ設定の基準について詳しく解説されています。特に印象的なのは、ルバートについての見解。著者は「ルバートのない音楽は存在しない」と述べ、それが音楽表現の本質的な要素であることを強調しています。
3. 実践的なペダリング指導
バロック作品におけるペダリングなど、一般的な教則本ではあまり詳しく触れられないことも丁寧に解説されています。また、シューマンの「予言の鳥」を例に、一見誤りに思えるような響きが実は作曲家の意図した表現効果である可能性を指摘するなど、重要なヒントが示されています。
4. 音楽家としての総合的な成長
本書の後半では、和声学、対位法、楽式論などの理論面から、初見演奏や暗譜の実践的なアドバイスまで、音楽家として必要な素養が広く解説されています。
► 著者の強いメッセージ
本書を通じて著者が最も伝えたいのは、ピアノ演奏が生涯にわたる学びの過程であるという点です。「一日一日の心がけ、努力の仕方しだいで、何十年という間に雲泥の差が出てくる」という言葉は、全ての学習者の心に響くでしょう。
また、演奏で行き詰まった時の対処法として示される3つのステップ(楽譜を正確に読む、テンポを正確にする、美しい響きを引き出す)は、実践的かつ具体的なアドバイスとして非常に有用です。
► まとめ
本書は、ピアノ弾きとしての成長を支える指針として、長く手元に置いておきたい一冊です。特に中級~上級者の方々にとって、練習の方向性を見直したり、音楽的な視野を広げたりする際のヒントとなることでしょう。
初学者の方々にとっては少し難しい内容かもしれませんが、将来的な学習の指針として、また音楽学習の理想の形を知るうえで、参考になる点が多々あるはずです。
・ピアノが上手になる人、ならない人 著 : 小林仁 / 春秋社
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