【ピアノ】カール・ツェルニー「ベートーヴェン 全ピアノ作品の正しい奏法」レビュー

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【ピアノ】カール・ツェルニー「ベートーヴェン 全ピアノ作品の正しい奏法」レビュー

► はじめに

 

ベートーヴェンのピアノ作品に取り組む際、「直接の弟子が残した記録」という形で演奏のヒントを得られる資料は、そう多くありません。本書はまさにそのような稀少な一冊です。「練習曲」で知られるカール・ツェルニーは、ベートーヴェンの直弟子であり、その指導を受けた貴重な一人でした。

本書では、彼が自らの記憶と経験をもとに、ベートーヴェンのピアノ作品の奏法を解説しています。

 

・出版社:全音楽譜出版社
・初版:1971年
・ページ数:本編196ページ
・対象レベル:中級~上級者

 

ベートーヴェン 全ピアノ作品の正しい奏法 著:カール・ツェルニー 編・注釈:パウル・バドゥーラ=スコダ 訳:古荘隆保

 

► 内容について

‣ 本書の構成

 

本書は全5章と注釈から成ります。

第1章「序説」と第2章「回想録(抜粋)」は合わせて36ページほどで、ツェルニーとベートーヴェンの師弟関係や、ベートーヴェンの人物像、作曲スタイルなどが記されています。楽器を使うか否か、どの時間帯に作曲したかといった具体的なエピソードも含まれており、演奏のヒントとしてだけでなく、音楽史の資料としても読み応えを感じることでしょう。

第3章以降は個別の作品解説です。ピアノ独奏曲、伴奏付きピアノ曲、ピアノ協奏曲と順を追って取り上げられており、「ツェルニーが推薦する学ぶべきベートーヴェンのピアノ音楽 92選」も掲載されています。

 

‣ 注目ポイント①:一次資料としての価値

 

ツェルニーはベートーヴェンの全作品を直接の指導のもとで学んだわけではありませんが:

・曲によってはレッスンを受けた(どの曲なのかについても、本書に記載されている)
・曲によってはベートーヴェン自身の演奏を間近で聴いている(これについても一部記載されている)

後世に伝えるために残された回想録には、師から直接受けた印象などが記されており、その信憑性は他の評伝や解釈書とは一線を画しています。

例えば、ベートーヴェンが自ら作った「ピアノソナタ 第15番 田園 Op.28 第2楽章」を気に入ってよく弾いていたというエピソードなど、楽譜だけでは知り得ない情報が登場する点でも興味深く読めました。耳が聴こえなくなってから書かれた作品の一覧や、聴力が残っていた時期とまたがるピアノソナタについての記述なども収録されており、作品の成立背景を理解するうえで役立ちます。

 

‣ 注目ポイント②:「演奏の視点」からのアドバイス

 

第3章以降の個別作品解説は比較的コンパクトですが、その内容は漠然とした分析ではなく、「どう演奏するか」という視点からまとめられています。ツェルニーはテンポ・強弱・アーティキュレーションといった要素について具体的に言及しており、実際の演奏に直接活かせる情報を残してくれました。

 

‣「結びの言葉」より

 

(以下、抜粋)
1)正しいテンポの設定。
2)ベートーヴェン——特にその後期において——が詳細に指示・記入したすべての表現・表情記号を忠実に守ること。
3)あらゆる難所を完全にマスターできる確実で正しい演奏技術。

以上の3条件を満足させることができれば、ベートーヴェンの解釈・演奏に際してとんでもない的外れをしでかすことは考えられません。
(抜粋終わり)

 

この3条件はシンプルながら、ベートーヴェン演奏の本質をついていると言えるでしょう。テンポ、楽譜への忠実さ、技術の基盤——これらを満たすことではじめて、作品の正しい解釈に近づけるというツェルニーの主張は、今日の演奏者にとっても変わらぬ指針となるものです。

ベートーヴェンは当時の作曲家としては楽譜への書き込みが非常に詳細であり、ツェルニーもそうした指示を忠実に守る重要性を強調しています。

 

► こんな方におすすめ

 

ベートーヴェンのピアノソナタをある程度学んだことがある中級〜上級の演奏者はもちろん、これから本格的に取り組もうとしている方にも有益な一冊だと感じました。第1章・第2章だけでも読む価値があり、ツェルニーという直弟子の目を通してベートーヴェンの姿を知ることができます。音楽史に興味がある方にとっても、一次資料として読みごたえのある内容となっています。

もちろん、現代の演奏研究から見ると、ツェルニーの記述をそのまま絶対視できるわけではありません。編者のパウル・バドゥーラ=スコダによる注釈も収録されており、ツェルニーの記述に対する客観的な視点も合わせて読むことができます

 

► 終わりに

 

ベートーヴェンに関する解釈書や伝記は数多く出版されていますが、直接の弟子が残した証言をもとにした演奏指南書というのは、本書のような形では他に多くありません。個別作品への具体的なコメント、そして師との回想——これらが一冊にまとめられている点で、本書は演奏者にとって手元に置いておきたい資料と言えます。

技術書というより「読み物」に近い感覚を持って、ぜひ一度手に取ってみてください。

 

ベートーヴェン 全ピアノ作品の正しい奏法 著:カール・ツェルニー 編・注釈:パウル・バドゥーラ=スコダ 訳:古荘隆保

 

本書の編・注釈を手がけたパウル・バドゥーラ=スコダによる、ベートーヴェンのピアノソナタの演奏法と解釈を扱った記事もレビューしています。あわせて参考にしてください。

【ピアノ】「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈」レビュー:パウル・バドゥーラ=スコダによる深遠な演奏解釈

 


 

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