【ピアノ】「ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法」(大西愛子 著)レビュー
► はじめに
ピアノ演奏技術の習得において、テクニカルな側面と音楽的な表現の両方をバランスよく学ぶことは極めて重要です。本書は、その両面からピアノ演奏法にアプローチする実践的な指南書といえます。
著者の大西愛子氏は、国際的な音楽教育者として知られ、多くの優秀な演奏家を育成してきた実績を持つピアニスト。1996年の初版から四半世紀以上を経た現在でも、その本質的な指導内容は変わらず高い評価を受けています。基本的な奏法から高度な音楽表現まで、普遍的な価値を持つ解説が随所に見られます。
・出版社:全音楽譜出版社
・初版:1996年
・ページ数:158ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法 著 : 大西愛子 / 全音楽譜出版社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 体系的な構成
本書は、基本的な音の出し方から高度な演奏技術まで、8つの章を通じて体系的に解説されています。特筆すべきは、各章が単なる技術解説に留まらず、音楽的な表現との関連性を常に意識した構成となっていることです。
2. 独自の視点と実践的なアプローチ
特に注目すべき点として、以下の要素が挙げられます:
・Weight-Transfer Legatoの詳細な解説
・装飾音符の効果的な練習方法
・三度のトリルなどの高度な技術へのアプローチ
・演奏記号(sf 等)の文脈に応じた解釈方法
3. 具体的で分かりやすい説明
譜例では、丸印や点線スラーなどの各種記号が用いられ、指示内容を視覚的に分かりやすくする工夫が施されています。また、本書の大きな特徴は、抽象的な音楽概念を日常的な動作や感覚に結びつけて説明している点です。例えば:
・拍の扱い方を「歩行」に例えた説明
・レガートを「しのび足」に喩えた解説
・「濡れた雑布またはモップを引きずる様な動き」といった具体的なイメージ
‣ その他、優れている点
1. 技術的な深み
・ピアノの構造的理解から始まり、実践的なテクニックまでを網羅
・ペダリングの詳細な解説
・様々な演奏技法の体系的な説明
2. 音楽的表現への注力
・メロディーとハーモニーの関係性の詳細な解説
・装飾音の扱い方における音楽的アプローチ
・各種音楽用語の作曲家による使い分けの説明
3. 実践的な練習方法
・効果的なエクササイズの提示
・暗譜の方法論
・練習の具体的なアプローチ
► 対象読者
本書は以下の方々に特に推奨されます:
・中級〜上級レベルのピアノ学習者
・ピアノ指導者
・独学でピアノを学ぶ大人の学習者
► 総評
本書は、テクニック集としてだけではなく、音楽的な演奏を実現するための総合的なガイドブックとして高く評価できます。特に、Weight-Transfer Legatoや三度のトリルや親指の交差など、他の教則本では中々詳しく解説されていない技術的な側面にも踏み込んでいる点が特筆されます。
また、抽象的になりがちな音楽表現を、具体的な比喩を用いて分かりやすく説明している点も、本書の大きな強みです。「拍へ入る前に待たず、入ってから待つ」という考え方など、実践的で独自の視点を提供しています。
► おわりに
特に独学で学ぶ大人の学習者にとって、本書でとられている具体的なイメージを伴った説明は非常に有用でしょう。知り合いの音楽家が「隠れた名著」と呼んでいましたが、その評価は的確であり、より多くのピアノ学習者に読まれるべき一冊だと考えます。
・ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法 著 : 大西愛子 / 全音楽譜出版社
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