【ピアノ】初心者からステップアップできるアレンジテクニック11選
► はじめに
本記事では、初心者からある程度の経験者まで、誰もが陥りやすいピアノアレンジの課題と、その解決方法について解説します。
1音1音の選び方を教える記事ではなく、自身で1音1音を選んでいくための前提知識を教える記事となっています。
► A. 心構え
‣ 1. 過去に手がけた曲を否定せずに前へ進むコツ
昔、作曲のレッスンで:
・「曲の中で、こんなことやあんなことをやってみたい」
・「この曲のこういうところをこう変えたらいいかと思い始めた」
などとグダグダと先生へ言ったところ、「今言ったことを全て、次に書く曲でやりなさい」と言われました。
その曲を作りはじめた頃に色々と試行錯誤するのはいいけれど、ある程度出来上がってきてからは「次へ行く」という視点を持って新たな作品で挑戦するべきだということ。
以降、筆者はこのやり方を取り入れてきました。
たとえ創作の初心者であっても、これは踏まえるべきだと考えています。
そして何よりも大事なのは、学習が進んで新しいことを覚えたり自分の音楽性が深まったりしても、決して過去の自分の音楽を否定しないことです。
否定する傾向は結構見受けられますが、作曲や編曲に限らず演奏においても気をつけなければなりません。
バルトークは、最晩年になってから、昔作曲した「子供のために」という作品にいくつかの和音を書き足し、楽曲の印象を変化させました。
バルトークが過去のこの音楽を否定していたかは分かりませんし、契約などの事情を除けば自分の作品をどうしようが自由なわけです。しかし、基本的にはこういうことをする必要はありません。
「やりたいと思いはじめたことは、次の曲で」
これを踏まえておくと、過去のものを否定せずに先へ進んでいくことができます。そして、新しく出す曲でそれを実現できれば、四畳半の創作から脱却できるでしょう。
要するに、ある程度のところまでいったら「もうこれでOK」と割り切ってしまうことです。
‣ 2. 原曲のメロディを勝手に消さない
ピアノアレンジをする時には、依頼制作でもない限りは基本的に自由に編曲してもいいわけですが、筆者がよく気になるのは、原曲のメロディを突然どっかへやってしまうアレンジ。
例えば、以下のようなものです:
・メロディを弾いていても急にそれが無くなって遊び弾きみたいなフレーズになってしまう
・バッキングみたいに和音の中で音を動かし始めていきなりメロディが消滅してしまう
これの何が問題なのかというと、聴衆はそれまで追っていたメロディをそのまま聴き続けたいのに、期待を裏切ってしまうからです。
・「○○の主題によるパラフレーズ」のような、新曲感が強いものをあえて作る場合
・明確な意図をもって即興的なアレンジを作る場合
は別ですが、通常のピアノアレンジにおいてはできる限り、原曲のメロディを尊重してください。
‣ 3. ピアノアレンジの最大の敵は空白恐怖症
ピアノアレンジのクオリティを上げていくにあたって気をつけるべきことのうち、自分では気がつきにくいものの代表例が、「詰め込み過ぎ、鳴りっぱなし」です。
アレンジの本当の初心のうちは、何を書いたらいいか分からずに空白ばかりになってしまいますが、少しテクニックが上がってくると、今度は書き過ぎて空白恐怖症になってしまう傾向があります。そして、能力がここでずっと停滞してしまうケースが多い。
気付きも含めてさらに力がついてくると、使い分けができるようになってきます。
空白を恐れるかのように合いの手が多過ぎたり、手続きを踏み過ぎたり。
何でもかんでも動かせばいいというものではなく:
・伸ばす音で表現する部分を作るとか
・せめて口数少ない合いの手に置き替える
などといった手で、よりシンプルな伝え方をする部分も取り入れてみましょう。
そして、必ず全体のバランスを考えなくてはいけません。無窮動の作品ですら、よく出来たものであれば動きまくっている中での緩急が考えられています。
常にガシャ弾きしているようなスコアでも、ある部分だけを切り取ったらカッコいいとは思います。しかし、瞬間的に切ったらカッコいいというだけでは優れたアレンジにはなりません。
「木を見て森も見る」という観点を大切にしてアレンジするようにしましょう。
バランスの観点だけでなく、全部が動いていると何を一番言いたいのか分からなくなってしまう恐れもあります。
取り入れてみて欲しいのは、「100cm以上離して楽譜全ページの景色を眺めてみる」というやり方。このようにして、全体のバランスを視覚的にもチェックしてみてください。
これをやってみると気づくのですが、楽譜の景色が似ているところは、大抵同じような音がするのです。
「ピアノアレンジの最大の敵は空白恐怖症」
これくらい言ってもいいと思っています。
‣ 4. できる限り楽典的なミスをゼロへ近づける
書いた楽譜を使って他者とアンサンブルをしたり、ソロ作品でも他者に演奏してもらうことはあるはずです。このような自分以外の人も目を通す楽譜を作る時には特に、以下のような楽典的なミスに注意が必要です:
・臨時記号を書き忘れてしまう
・小節内有効臨時記号に気づかず、戻し忘れてしまう
・連符のときの連桁の本数を書き間違えてしまう
・リピートで、飛ばした後に戻る位置を書き忘れてしまう
なぜ問題なのかというと、一度間違えるとその楽譜を読む人物が警戒するから。
例えば、一度警戒されて間違い探しを始められてしまうと、創作上、意図的に短2度でぶつけていても、「ここも、臨時記号が抜けているのでは?」などと勘違いされたり質問が飛んできてしまう。
なるべく最初から楽典的なミスを減らしておくことは、創作において重要だということを覚えておいてください。独学でも意思と意識次第で減らせる部分です。
► B. 実践テクニック
‣ 5. バッキングのパート譜みたいにならない
「ソロ」アレンジをする時に、バッキングのパート譜みたいにならないように気をつけてください。
バッキングとは、簡単に言うと「伴奏部分」のことです。
例えば、編成にピアノが入った歌ものにおけるピアノパートは、「同じような音域」で「同じような動き」をしています。少し極端な言い方ですが、傾向としてはの話です。それぞれの楽器の役割分担が決まっているからですね。
これと同じようなことを、ピアノ「ソロ」でもほとんどずっとやってしまっている編曲は多い。
つまり、「ほとんどずっと、同じような音域で、弾きやすいような伴奏型で左手を動かしているだけの編曲」になってしまっているということ。
例えば、譜例のような音型例。
譜例(Finaleで作成)
世の中に出ている「速弾き」と言われるピアノアレンジの多くは、楽曲全体が上記のようなアレンジになってしまっています。少し聴いたところはカッコよく聴こえたりしますが、一曲の中で「ずっと鳴りっぱなし」なので全くメリハリがありません。
パフォーマンスとしてはアリです。しかしこのやり方では、楽曲の力として聴衆に訴えかけるソロにはならないのです。
念のために補足しますが、譜例のような伴奏型を使ってはいけないと言っているわけではありません。一曲の中で「ほとんどずっと」こればかりで通そうとはしない方がいい、ということです。
実例を研究し、多くの手法を引き出しへ入れておきましょう。
‣ 6. 繰り返しで詰んだときの一案
やり方はシンプル。
イメージ的に問題なければ、繰り返しの時に全てのアーティキュレーションをひっくり返してみてください。例えば、以下のように。
J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2番 より フーガ」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
もともとこの作品にはアーティキュレーションは書かれていませんが、よく聴かれるその解釈例を譜例Aに、それをひっくり返した例を譜例Bに記しました。
まさかこの作品を下の譜例のように弾く方はいないでしょう。しかし、柔軟に考えてみると、創意的には一応成立してしまいますね。
分かりやすいように既存のパブリックドメイン楽曲で示したまでですが、こういった試みを自身の創作の繰り返しでも試してみてください。
「まったく逆」というのはある意味、「繰り返しを使ってそれらを並べることで、関連性を出せる」ということ。
また、メロディのアーティキュレーションをひっくり返すことで新たなニュアンスやイメージが生まれて、その部分に対する伴奏形などの他の要素が思いつくことも。
筆者は、このような「ひっくり返し」を「対比」を意図して取り入れることがあります。いつもうまくいく方法という訳ではありませんが、一案として検討してみてください。
‣ 7. エンディング作成のヒント
アレンジ初心者の方にとって:
・どのように楽曲を始めるか
・どのように楽曲を終わらせるか
というのは問題となるようです。
原曲に導入やエンディングのようなものがついていればそれらをピアノで表現すればいいのですが、自分で創作しようといった場合には、作曲的な観点が必要になります。
終わらせ方のポイントを簡潔に言うとすれば、「曲の終わりは、曲の始まりにならないようにする」ということ。
導入と同じようなメロディなどがエンディングでも使われることはあります。同じようなものを出してもいいのですが、全く同じものを置いて最後に終止和音をつけるだけでは、魅力的なエンディングになりません。
力強く終わる場合でもスッと消え入るように終わる場合でも、導入との違いを出して時間芸術が終了していくように工夫すべき。
ではどうやって作ればいいのかというと、一つのやり方としては、改めて原曲の特徴を良く理解することです。
そこには特徴的なリズムやコード進行などがすでにあります。それらの特徴から何か一つの要素を選んで、エンディングの中で活用できないかを考えてみてください。
すでにある素材をもとにすると:
・取り組みのハードルが下がるうえに
・楽曲全体の統一感も出てくる
これらのような利点があります。
それも難しいという場合は、まずは、明確な序奏とエンディングがあるポピュラーソングをいくつも探してきて、どのように作られているのかを聴き比べてみることから始めるといいでしょう。
‣ 8. 原曲のメロディを理解する重要性
ピアノアレンジをする時に踏まえるべきことのうち代表的なものは、原曲のメロディを理解することです。アレンジ(編曲)では、原曲の伴奏の在り方などはともかく、原則メロディを変えてはいけません。
そこで、変えてはいけないそのメロディをよく理解して、内容に反しないアレンジをしていくことになります。
・「このメロディに16ビートの伴奏はどう考えても合わないな」
・「このメロディはヤマがココだから、伴奏の厚みもそのようにコントロールしよう」
などといったことをはじめ、メロディの理解なくしてはクオリティの高いアレンジはできないでしょう。
作曲をする場合は自作メロディではありますが、自分で作ったメロディを自分でよく理解していないといけません。
‣ 9. 2ジャンル組み合わせたピアノアレンジの作り方
「2つのジャンルを組み合わせたアレンジの作り方」について、とっかかりの部分のみを解説します。具体的な音の選び方というよりは、その前の段階の話です。
やり方は以下の2ステップです:
① まず、本当に入れたいジャンルを「一つだけ」決める
② それと合わせられそうなもう一つのジャンルを後付けで決める
先に一つのジャンルのみでアレンジを始めるという意味ではなく、あくまでジャンル選択の仕方のことを言っています。
一気に興味のある2ジャンルを決めてしまってそれらを合わせようとすると、アレンジの経験がない限りはうまく結びつけにくい。
簡潔に言うと、一つのジャンルにはこだわりをもって、もう一つはそれに迎合させるということ。経験が増えるまでは、このようにするとこの種のアレンジにとっつきやすいはずです。
‣ 10. 現在のアレンジ力でも、より音楽的な楽譜を作成する方法
ピアノアレンジをする際、たとえ現在のアレンジテクニックのままでも、より音楽的な譜面を作成する方法があります。
その一つが、反復記号の使用を最小限に抑えること。
一般的に、反復小節線などの「図形反復記号」や、D.C. D.S. などの「文字反復記号」がよく使われますが、これらを極力使わないことで楽譜の音楽性を高めることができます。
なぜなら、音楽は時間とともに進行しエネルギーが変化していく生き物のようなものだから。
たとえ同じフレーズの繰り返しであっても、微妙な変化や発展があるはず。「カッコなどで飛ばして戻す」という発想はどうかと思うのです。
演奏者の判断で繰り返しでは表現を変えたりと工夫を凝らしているケースはありますが、それはある意味で、即興的なもの。
筆者自身、作曲や編曲をする際に反復記号を全く使わないわけではありません。例えば、以下のような場合には使用することがあります:
・見やすさや取り組みやすさを優先する教育用の作品制作
・掲載楽譜集のページ数に制約がある依頼制作
これら以外の場合は、極力使わないように心がけています。
興味深いことに、ショパンの作品では、元々手書き譜で反復記号を使用していたものが出版楽譜では反復部分が全て横につながった楽譜として書き直されている例があります。
このような方法で書かれた楽譜は、リピート指示で通り過ぎたところへ戻るよりもはるかに音楽的な印象を与えます。
アレンジ依頼の場合は、リピート指示で前へ飛ばしてページ数のコンパクトさ等を優先するべき時もあります。
しかし、自由にアレンジでしている場合は、単に弾きやすいだけでなくエネルギーの変化が感じられるアレンジを追求してみましょう。
オーソドックスなやり方としては、以下のようなもの:
・繰り返し部分で、微妙な和声の変化をつける
・メロディラインに装飾を加える
・音型やリズムパターンに変化をつける
・ダイナミクス(強弱)に変化をつける
これらの工夫により、同じフレーズでも異なる表情を持たせることができます。
譜面作成を面倒くさがらず、むしろ楽しむ姿勢が大切。
自分で演奏する場合はもちろん、丁寧に作り込んだ譜面は、他の演奏者にとっても音楽をより深く理解し表現するための助けとなります。
このようなアプローチで、視覚的に時間を戻すような譜面ではなく、音楽のエネルギーの流れを尊重した創作を心がけましょう。
そうすることでより音楽的で表現力豊かな楽譜が生まれるはずです。
‣ 11.「腰高」のサウンドを知る
腰高というのは、バスや高音が強調されて低中域や中域が希薄になっていること。一般的な用語ではありませんが、音楽に関して使われているのも時々耳にします。
腰高のサウンドが取り入れられている例を見てみましょう。
ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、13-17小節)
中域から高域にかけての位置にメロディが配置され、そのメロディに対して下ぶら下げでハーモニーが団子状に配置されています。一方、バスは低音域に配置されているので、倍音を考慮しなければバスとハーモニーの間がガラ空きになっています。
メロディが「顔」、ハーモニーが「胴体」、バスが「脚」と仮定すると、腰高になっているのが分かるでしょうか。
腰高の配置というのは独特なサウンドを持っているので、作曲家は使いどころを選んで意図的に取り入れます。同曲の中でも腰高の部分とそうでない部分とが使い分けられているので、弾いたり聴いたりしてみて、それらのサウンドの違いを把握しておきましょう。
こういった微妙なサウンドの引き出しを増やしていくと、それが使われている新しい作品を耳にしたときに取れる情報が増えますし、ピアノアレンジの可能性も広げることができます。
► 終わりに
本記事で紹介した基礎的な心構えとテクニックは、入り口に過ぎません。これらの要素を意識しながら実践を重ね、さらに多くの楽曲を研究することで、独自のアレンジスタイルが確立されていくことでしょう。
最後に強調しておきたいのは、良いアレンジとは必ずしも複雑なもののことではないということです。原曲の本質を理解し、それを活かしながら新しい魅力を引き出すように心がけましょう。
関連内容として、以下の記事も参考にしてください:
・【ピアノ】ドミナントの第3音を美しく響かせるコツ:創作と演奏の両面によるアプローチ
・【ピアノ】ロー・インターヴァル・リミットとは?:作曲と演奏に役立つ音楽理論
・【ピアノ】演奏者のための音楽理論学習法:4つのポイント
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