【ピアノ】反復小節線から読み解く楽曲構造:シューマン作品を例に
► はじめに
本記事では、シューマンのユーゲントアルバムから「初めての悲しみ」と「哀れな孤児」を取り上げ、
反復小節線(楽譜上で「:||」や「||:」として表される記号)の使用法の違いから見える作曲家の意図と演奏への影響について考察します。
同じ構成を持つ2曲を比較することで、記譜法の違いが演奏解釈にもたらす影響について理解を深めていきましょう。
►「初めての悲しみ」の構成
本記事では、妻であるクララ・シューマンが編集した楽譜をもとに解説します。
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム) 初めての悲しみ Op.68-16」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
構成:
・1-16小節 A
・17-24小節 B
・25-32小節 A
17-32小節には反復小節線が書かれているため、繰り返すと「ABABA」という構成になります。
►「哀れな孤児」の構成
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム) 哀れな孤児 Op.68-6」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
構成:
・1-8小節 A
・9-12小節 B
・13-20小節 A
・21-24小節 B
・25-32小節 A
「ABABA」という構成になります。
「初めての悲しみ」と同じ構成であることに気づきましたか?
両曲とも「ABABA」という同じ構成を持ちながら、反復小節線の使用法が異なります。
「哀れな孤児」では横つながりで記譜されている「BA+BA」を反復小節線でリピートさせた書き方が、「初めての悲しみ」における記譜(BA+【反復小節線によるBA】)になっています。
この違いは単なる記譜上の問題ではなく、演奏解釈にも影響を与える重要な要素となっています。
► なぜ、このような書き方の差が生まれるのか
反復小節線が使われる意図は、大きく以下の3つの理由によります:
1. 反復小節線の場合は「リピートは任意」という意味合いがある
2. 教育用作品などで、楽譜の見た目をシンプルにしたいとき
3. 出版上の都合で、ページ数が限られているとき
「初めての悲しみ」で反復小節線が使われた理由は、おそらく「1」だと考えられます。演奏者の判断でリピートを省略することも可能な余地を残していると解釈できるでしょう。
一方、「哀れな孤児」の場合は横つながりで記譜されているため、反復は任意ではなく原則となります。この違いは、作曲家が各楽曲に込めた意図を反映していると考えられます。
► 反復小節線を見た時の演奏時の心構え
演奏上意識すべき重要なポイントは以下の通りです:
たとえ反復記号で書かれているものを演奏しているとしても、横つながりで書かれていると想定して演奏することが大切です。
そうすることで、仮に繰り返す楽譜自体は同じでも新たなものを弾いている感覚を持つことができ、「ただ単に同じところを戻って弾き直している」という単調な印象を避けることができます。
その上で、繰り返し時にニュアンスを変えるかどうかを検討しましょう。これは楽曲の性格や文脈に応じて、演奏者が主体的に判断すべき要素となります。
► 終わりに
反復小節線の使用法の違いは、単なる記譜上の問題ではなく、作曲家の意図や演奏解釈に深く関わる重要な要素です。
楽曲分析において、このような細部への着目が作品への理解を深める鍵となります。
また、同じ構成を持つ楽曲でも、記譜法の違いによって演奏アプローチが変わってくる可能性があることを意識しながら、楽曲に向き合うことが重要です。
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