【ピアノ】たった1音が変える和音の色彩:響きの差に耳をすます

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【ピアノ】たった1音が変える和音の色彩:響きの差に耳をすます

► はじめに

 

たった1音の違いだけで和音の色彩はガラリと変わりますが、ただ何となく通り過ぎていませんか。こうした「ちょっとした響きの差」に気づいて弾けるようになると、音楽の味わい方がぐっと豊かになります。

本記事では、実際の楽曲を例に取り上げながら、そのような微細な変化に着目していきます。

 

► 基礎知識

 

※ 楽典やコードネームの基礎を理解している方は、この項目は飛ばしてください。

 

基本的な和音として、3つの音で構成される三和音(トライアド)があります。三和音を3度音程重ねで縦に並べて見たとき、3つの音のうち真ん中にあたるのが第3音で、和音が長和音(明るい響き)になるか短和音(暗い響き)になるかを左右する重要な要素です。

 

譜例1(浄書ソフトで作成、根音をCにした場合の例)

長三和音・短三和音・第3音欠如和音を根音Cで示した譜例。

音源で確認する

【音楽理論 / コード】響きを聴き比べ!「第3音省略」の効果

なお、第3音は必ずしも根音のすぐ上に来るわけではなく、音域によっては根音から10度(複音程)離れた位置に配置されることもあります(譜例2 参照)。同じ名称の和音でも、音の配置次第で根音と第3音の位置関係は変わるので、そのことを頭の片隅に置いておくといいでしょう。

 

譜例2(Sibeliusで作成、根音がC音の場合の例)

根音・第3音・第5音の配置を示したCメジャートライアドの譜例。

・ブルー:根音
・レッド:第3音
・ブラック:第5音

 

また、作曲家が意図的にこの第3音を省略することもあります。第3音がなければ長和音とも短和音とも決まらず、独特の開放的な響きが生まれます。

 

► 具体例

‣ 1. たった1音が動くだけで、明るい響きから翳りのある響きへ

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第9番 ホ長調 Op.14-1 第2楽章」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、95-98小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第9番 ホ長調 Op.14-1 第2楽章」95〜98小節の譜例。1音の変化により長三和音から短三和音へ響きが移り変わる箇所を示す。

付点2分音符で書かれた97-98小節に注目してみましょう。参考にコードネームを添えていますが、たった1音が動くだけで、明るい響きから翳りのある響きへと移り変わります

具体的には、「長三和音の基本形 → 短三和音の第一転回形(メジャーコードの基本形 → マイナーコードの転回形)」へと変化しており、和声の色彩が比較的わかりやすい形で現れています。

何となく音を拾って弾き過ぎてしまうと気づかないままになりがちですが、こうしたわずかな響きの変化に意識を向けながら演奏してみましょう。

 

‣ 2. 裏拍になって初めて、和声が「説明される」

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、71-74小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」71〜74小節の譜例。裏拍に登場する変化音により和音が切り替わる箇所を示す。

71小節目を見ると、1拍目が短三和音の基本形、2拍目が長三和音の第一転回形となっており、レッドで示した1音が変化することで響きの明暗が切り替わります。ポイントは、その変化音が2拍目の裏拍にしか登場しないことです。2拍目の表拍ではまだ短三和音の雰囲気が続いており、裏拍になって初めて長和音として「説明される」形になっている点に着目しましょう。

このような「後から説明される」という表現の面白さについては、【ピアノ】楽曲分析の視点:音楽的な前後関係が生み出す表現の変化 でより深く解説しているので参考にしてください。

 

73小節目でも同じ手法が用いられていますが、今度は順序が逆になり、「長三和音の基本形 → 短三和音の第一転回形」という流れで暗い方向へ転じています。この変化がその後のd-mollへとつながっていきます。

わずか1音の出入りが、響きの印象をこれだけ左右していることを意識しながら弾いてみてください。

 

‣ 3. たった1音が動くだけで、ドッペルドミナントへ

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、79-82小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」79〜82小節の譜例。バス音1音の違いによりドッペルドミナントへと変化する箇所を示す。

81-82小節は、79-80小節の変奏として繰り返されていますが、レッドで示したバス音が異なるため、終わりの和音が変化します。82小節目の最後の和音(F#⚪︎)はドッペルドミナントと呼ばれる和音です。「Cm/G」とはバス音が1音違うだけですが、響きの性格は大きく異なる点を聴き取るようにしましょう。

 

‣ 4. 長く用いられる短三和音と周囲との対比

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、20-25小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」20〜25小節の譜例。短三和音の第一転回形が前後の明るい響きとの対比をもたらす箇所を示す。

22-23小節の和音は「Do Mi So」ではなく「Do Mi La(短三和音の第一転回形 / 1音違い)」が用いられており、前後の明るい響きのなかで一時的に翳りをもたらします。比較的長く用いられるこの暗めの響きをきちんと感じ取りながら演奏することで、24小節目から再び訪れる明るさがより鮮やかに際立ちます。

周囲との対比を意識して音色を考えることが、この箇所の表現を豊かにする鍵と言えるでしょう。

 

この楽曲における演奏解釈をさらに学びたい方は、【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 全楽章」演奏完全ガイド を参考にしてください。

 

► 終わりに

 

今回取り上げた例はいずれも、楽譜上では非常に小さな変化です。しかし、そのわずかな違いが響きの色彩を動かし、楽曲に陰影や流れを生み出しています。

こうした細部に気づくためには、ただ音符を拾って演奏するのではなく、和音の性格や変化を意識しながら耳をすます習慣が大切です。楽曲分析の視点を持って弾くことで、演奏の質だけでなく、音楽そのものの楽しみ方も変わってくることでしょう。

 

併読推奨記事

本記事では、「一音が変化する」例を中心に解説しましたが、「一音が省略される」ことでも楽曲の色彩が変わります。この分析視点を深く学びたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【ピアノ】楽曲をより深く理解する第3音省略の効果と分析

 


 

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