【ピアノ】連桁から読み取る音楽表現

スポンサーリンク

【ピアノ】連桁から読み取る音楽表現

► はじめに

 

楽譜を読むとき、音符の細かな記号や配置には、作曲家の深い意図が隠されています。

本記事では、その中でも「連桁※」に焦点を当て、一見些細に見えるこの記号が、実は音楽表現の重要な伝達手段であることを解説します。

連桁の分断や配置から読み取れる音楽的メッセージを、実際の名曲の譜面を通じて探っていきましょう。

 

※「連桁(れんこう)」:8分音符よりも細かい「旗」のついている音符が連続する時に、それらの旗をつなぐ太い横線のこと

 

► 連桁による7つの表現

‣ 1. 連桁分断によるフレーズ表現

 

作曲家はときおり、連桁を意図的に分断します。

 

モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、35-36小節)

36小節目アタマのような、拍子とは関係のない途中部分での連桁の分断は、たいてい、フレーズの切れ目を示しています。

 

この譜例の部分にはスラーも書かれているので、仮に分断されていなくてもフレージングは読み取れます。

一方、分断されていることで、譜面から伝わる情報がより説明的になっていて「フレージングを改めてほしい」という意図がさらに強く伝わってくることに注目すべき。

 

実際の楽曲の中には、このような意図的な分断がよく見られるので、見落としたり軽視したりせずに譜読みをしていきましょう。

譜読みにおける楽曲を読み解くヒントという意味では、本当に大きな目印と言っても過言ではありません。

 

‣ 2. 連桁分断によるアーティキュレーション表現

 

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第3楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、16-19小節)

メロディ部分に注目してください。

16小節目や18小節目のように「3音ひとカタマリ」のところでは、3音とも連桁がつながれていて、

17小節目や19小節目のように「スタッカート+2音ひとカタマリ」のところでは、スタッカートの音とスラーの音との間の連桁が分断されています。

 

これは、アーティキュレーションを示した連桁の分断と言えます。

分断しなくても意味は同様。しかし、楽譜から伝わる印象を重視したい場合やよりアーティキュレーションの意図が分かりやすくなることを求める場合、作曲家の意思でこのように分断することもあります。

 

‣ 3. 演奏指示としての連桁分断

 

​​モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.279 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、37-38小節)

「連桁(れんこう)」が分断された、丸印で示した音を見てください。

分断されていることでこれらの音は独立して見えるので、「左手で弾く」という意図が伝わりやすくなっています。

 

‣ 4. 多声部表現としての連桁分断

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第10番 ト長調 作品14-2 第2楽章」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、41-44小節)

左手パートであえて「連桁(れんこう)」が分断されているのは、2声であることのメッセージでしょう。

ふたつのラインがあることを意識して立体的に演奏しましょう。

 

‣ 5. 音色変化のための連桁分断

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第17番 テンペスト 第2楽章 Op.31-2」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、34-35小節)

カギマークで示した部分は、オーケストラで演奏するとしたら「別の楽器」で演奏しているかのようなメロディックなラインです。

ベートーヴェンが親切に「連桁(れんこう)」を分断してくれていますので、どこからが別のラインかの見分けがつきやすくなっています。

 

‣ 6. 音楽の方向性を示す連桁連結

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム) 哀れな孤児 Op.68-6」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-18小節)

11小節目の左手パートは連桁(れんこう)に着目してください。全て繋がっていますね。

1小節目の右手パートと同じリズムですが、1小節目では、16分音符のみ分断されています。

これは、意図的だと考えていいでしょう。

1小節目ではフレーズを示すために連桁を分断。11小節目では連桁をつなげることで、「12小節目の頭まで一息で行って欲しい」という意図が伝わってきます。

 

この楽曲では、連桁の切り分けが細かく行なわれているので、その観点でも分析的に眺めてみましょう。

 

‣ 7. フレーズ構造を示す越小節連桁

 

バルトーク「ミクロコスモス第6巻(140~153)143番 交替する分散和音」

譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

この譜例では、小節線を越えて連桁がかけられています。

なぜわざわざこのような記譜がとられているのでしょうか。

 

たいていの楽曲におけるこのような記譜は、フレーズがどうなっているのかという、その構造を示したもの。

譜例の場合は、3小節間にわたる大フレーズの中にある小フレーズを示すために小節線を越えた連桁が必要だったということです。

 

この作品では作曲家が視覚的に書き残してくれていますが、小節線をまたがせてまで視覚的に示してくれていない楽曲もあるので、演奏者がフレーズ構造を判断しなくてはいけません。

 

► 終わりに

 

連桁は、作曲家が演奏者に伝えたい、繊細で深い音楽的意図を視覚的に表現する重要な記号。

本記事で紹介した事例が、楽譜の読み方、そして演奏表現の幅を広げるきっかけとなれば幸いです。

 


 

▼ 関連コンテンツ

著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら

・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

 

この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

タカノユウヤをフォローする
譜読み 演奏方法に迷いやすい記譜
スポンサーリンク
タカノユウヤをフォローする
大人のための独学用Webピアノ教室(ブログ版)

コメント

タイトルとURLをコピーしました