【ピアノ】ピックアップの種類とパターン:J.S.バッハ作品での実例解説
► はじめに
ピアノ演奏において、次のフレーズへ持っていくつなぎである「ピックアップ」は、なめらかな流れを実現する上で重要な要素です。
本記事では、J.S.バッハの作品を例に、様々なピックアップの分析とその効果的な演奏方法を解説していきます。
想定読者:
・ピアノ演奏の基礎を身につけた方
・楽曲分析に興味のある方
・より表現力豊かな演奏を目指す方
この記事で学べること:
・ピックアップの基本的な役割と種類
・具体的な楽曲での分析方法
・効果的な演奏のためのアプローチ
► ピックアップとは
ピックアップとは、次のフレーズへスムーズに移行するための音型のことです。フレーズとフレーズをつなぐ重要な役割を持ち、楽曲の流れを作るうえで欠かせない要素となっています。
主な役割:
・フレーズ間の自然な移行
・音楽的な期待感の創出
・楽曲の構造的な明確化
► ピックアップ分析①:J.S.バッハ「ポロネーズ BWV Anh.119」
‣ 分析対象と基本情報
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 ポロネーズ BWV Anh.119」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
基本的な楽曲構成:
・Aセクション(1-4小節)
・Bセクション(5-10小節)
・Cセクション(11-16小節)
‣ ピックアップの分類と特徴
種類と特徴
種類 | 位置 | 特徴 | 演奏のポイント |
---|---|---|---|
a | 2小節目 | 順次進行と跳躍進行の混在 | なめらかな音の接続 音量バランスの調整 |
b | 4小節目 | 和声音による分散和音 | 和声感を意識 |
c | 6小節目 | 短い音群による簡潔な形 | 軽やかな音色 さりげなく |
d | 10小節目 | 純粋な順次進行 | なめらかな音の接続 音量バランスの調整 |
e | 12,14小節目 | メロディ部分に出てくるピックアップ的な動き | 歌うような表現 主旋律との調和 |
どのピックアップも、あくまで「次のフレーズを引き出す脇役のつなぎ」だということを意識して弾くようにしましょう。
この分析曲で面白いのは、a〜eまでのピックアップがそれぞれ別の特徴を持っているということです。様々な作品を分析することで、さらに多様なそれを発見することができるでしょう。
► ピックアップ分析②:J.S.バッハ「ポロネーズ BWV Anh.125」
‣ 分析対象と基本情報
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 ポロネーズ BWV Anh.125」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
基本的な楽曲構成:
・Aセクション(1-8小節)
・Bセクション(9-16小節)
・経過区(17-20小節)
・A’セクション(21-24小節)
‣ ピックアップの分類と特徴
種類と特徴
種類 | 位置 | 特徴 | 演奏のポイント |
---|---|---|---|
a | 4,12小節目 | 順次進行と跳躍進行の混在 | なめらかな音の接続 音量バランスの調整 |
b | 13,14小節目 | 2拍目の先取から始まる | 2拍目の先取をたっぷり弾く |
c | 16小節目 | 純粋な順次進行 音域移行の役割も | 軽やかな音色 音域の移行を感じる |
d | 17,18小節目 | 直前のメロディのリズムを用いた分散和音 先取 | 直前のメロディよりも目立たずに |
e | 20小節目 | ピールオフ書法での短い音群による簡潔な形 | 主旋律の影にする |
上記のAnh.119の時と同様、この分析曲で面白いのは、a〜eまでのピックアップがそれぞれ別の特徴を持っているということです。
‣ ピールオフとは
「ピールオフ」とは、英語「peel off」(句動詞)で「はがす」という意味です。
音楽では、主にジャズの分野でよく使用される用語で「伸びている音から伴奏が枝分かれしてくる表現」のことを言います。
譜例のカギマークeの表現。
(再掲)
伸びるメロディD音の一部から、枝分かれしてくるように順次進行で伴奏がこぼれてきていますね。この様子が「はがれるよう」なので「ピールオフの表現」と言われるのです。
演奏ポイントは大きく2つあります:
・伸びる音を、打鍵した後も聴き続ける
・伴奏の出始めの音は、かなり小さくから
ピールオフにおいて大事なのは、長く伸びている音の方。こちらが主役で、動いている方が伴奏です。人間の耳はどうしても動いている音の方を聴きがちなので、ダイナミクスを注意深くコントロールしなければいけません。
► 終わりに:分析から演奏へ
ピックアップの分析の手順:
1. 次のフレーズへ向かって詰め込まれている音群に着目
2. それらの特徴を調べる
3. その楽曲に出てくるピックアップ同士の特徴の比較
4. 実践的な演奏への適用
今後の学習に向けて:
・様々な時代や作曲家の作品での分析
・自己の演奏での意識的な活用
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