【ピアノ】「調律師からの贈物 グランドピアノの基礎知識」(斎藤義孝 著) レビュー
► はじめに
本記事では、1983年に音楽之友社から出版された「調律師からの贈物 グランドピアノの基礎知識」を紹介します。
著者の斎藤義孝氏(1906-1985)は、クロイツァー、バックハウス、コルトー、ルービンシュタインなどといった20世紀を代表する巨匠ピアニストたちの調律を手がけた名調律師です。この書籍では、そうした一流ピアニストとの貴重な交流エピソードも語られています。
・出版社:音楽之友社
・初版:1983年
・ページ数:130ページ
・対象レベル:初級〜上級者
・調律師からの贈物 グランドピアノの基礎知識 著:斎藤義孝 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
130ページというコンパクトな分量であると同時に、「質問者と著者の返答」という対話形式で進行するので、非常に読みやすい印象です。
タイトルから硬質な楽器構造の専門書を想像するかもしれませんが、むしろ調律師という職業を通してピアノの魅力を伝える読み物的な性格が強い一冊だと思ってください。著者の仕事の内容を興味深くピアノ学習者に見せてくれるようなイメージです。
‣ 内容の概要
本書は大きく5つの章で構成されています:
1. ピアノの歴史的変遷:ピアノの誕生から日本への渡来まで
2. ピアノの構造: 外郭、響鳴版、アクション、鍵盤などの解説
3. ピアノの整調・調律・整音:調律師の仕事の核心部分
4. ピアノのひびき:練習環境の構築について 等
5. 忘れがたいひとびと:著者と巨匠ピアニストとの交流エピソード
第5章では、コルトーが「練習を一日怠れば自分に判り、二日休めば聴衆に判る」と語ったエピソードなど、現在伝わっている言い伝えと少し異なる興味深いエピソードが記されています。
► 本書の価値
本書は以下の点で特に価値があると考えます:
楽器への理解を深める:
ピアノという「道具」の本質を知ることは、より良い演奏のための第一歩。マニアック過ぎず、最低限の基礎知識が提供されています。パウル・バドゥーラ=スコダは本当にピアノの構造に詳しかったとも記述されています。
調律師という職人の重要性を再認識する:
「楽器を永く使っていけるよう維持するために」「日頃の練習を最高のものにするために」「本番で最高のステージを作るために」等、様々な観点から調律師という存在の重要性を再認識させられます。
実用的なピアノの保守方法の紹介:
「ピアノの練習室」の項目では、「生のピアノにとって適切な温度と湿度」「練習室の理想的な天井の高さ」「自分でできる吸音材の配置」等、実用的な情報が紹介されています。
巨匠たちの人物像:
名ピアニストたちの練習や本番に対する姿勢や考え方を知ることで、日々の練習へのモチベーションが高まるでしょう。著者の実体験から見えた名ピアニストの様子を覗くことができます。
► まとめ
1983年の出版物ではありますが、ピアノという楽器の本質は変わっていないため、現代の学習者にとっても十分価値のある一冊です。楽器構造や保守についての実用的な知識と、日々の練習へのモチベーションがもらえるエピソードの両方を享受できる良書と言えるでしょう。
・調律師からの贈物 グランドピアノの基礎知識 著:斎藤義孝 / 音楽之友社
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